第105話 世の中意外と狭いもんで……

 ―――! 燈李君、正吾君がトゥエルブだって知ってるの? って、今、髪上げてるし、一年の一学期に顔合わせてたなら分かるか……それに正吾君は落ち着いているからそう言うことなんだね?


「私も燈李に教えて貰って『MY TUBE』見てビックリした。あのnIIPiの声もぶっ飛んでるし、キーボードの子もネジ飛んでるし凄いよね」


「まぁな……ただ、俺がハイスペックスだってのは内緒な。メンバー全員内緒にしてるから学校では話すなよ」


「そうなんスね? でも、顔丸出しだと内緒もクソも無いじゃないっスか」


「あー、普段前髪下ろしてんだ」


 そう言って、正吾君は髪を片手でグシャグシャっとして、前髪を前に垂らした。


「あ、それなら分かんないっスね。分かったっス。学校では内緒にするっス。ただ、ちょっと気になる事があるんスけど……」


「なんだ?」


「あのキーボードの女の子なんスけど、俺の知り合いに凄く似てるっていうか……弾き方の癖が同じなんスよ……」


 ん? 弾き方の癖? 確かに陽葵の弾き方の癖は、聴き慣れてくると「陽葵感」みたいなのが分かってくる。正吾君も同じで、聴き慣れると「正吾感」が分かる。私は何となく聞いてみた。


「燈李君、その知り合いの子の名前教えて貰っていい?」


「え?『希乃陽葵』って言うっス」


 正吾君はその名前が出た瞬間、口に含んだコーヒー(甘い)を吹き出しそうになった。私も驚いた。


「ちょっと待て! お前、希乃陽葵と知り合いだったりするのか?」


「え? なんで正吾君、陽葵姉ちゃん知ってるんスか? てか、やっぱり、ハイスペのノンノノって陽葵姉ちゃんなんスね?」


「いや、そうじゃない。普通に友達なだけだ。何でお前が陽葵と……あー……教室、陽葵のお袋さんのところなのか?」


「そうっス。俺が幼稚園に入る頃には陽葵姉ちゃんは姉ちゃんだったっス。そうっスか……二人は陽葵姉ちゃんと友達っスか……ビックリっス!」


「私もビックリしました。まさか燈李君の口から陽葵の名前が出るなんて……そうだ! 写真いいですか? 今撮って、陽葵に送っちゃいます」


「面白いっスね。それじゃあ……」


 私は私達四人が写ってる写真を陽葵に送信した。すると———


“ピロロロロロロ……”


 陽葵から電話だ。私はスマホのスピーカーをONにして皆にも陽葵との会話の内容が聞こえるようにして通話した。


『ちょっと! 何で丹菜と燈李が一緒にいるの!?』


「第一声がそれですか!?」


『だってそうでしょ! 私しか関わりが無いと思ってた子と大の親友が一緒に居たらそうなるよ!』


「確かにそうですね……んとですね……燈李君と正吾君が小学生の時からお知り合いでした。正吾君のご実家の目の前の家が燈李君のお家です」


「陽葵姉ちゃんちわっス。内緒にしてたっスけど、俺、四月から同じ高校行くんでよろしくっス!」


『はぁ? あんた、うちの高校来んの? だったら部活もうちの部に入んな! 姉ちゃんからの命令だ!』


「え? 姉ちゃん何部なんスか?」


『軽音部』


「マジすか! 分かったっス。だったら俺、喜んで軽音部入るっス」


『詳しい話は、正吾君と丹菜に聞きな』


「え? 正吾君達も軽音部なんスね?」


『じゃ、ちょっと今忙しいからまたね』


「はい。それじゃあ、学校で」


 電話を切った。


「陽葵姉ちゃん軽音部スか……俺の中で、もうノンノノ確定っスよ」


 燈李君は陽葵がノンノノだって確信したようだ。確かにそう思われても仕方ない条件が揃ってる。私達は黙ってるしかないけどね。


「そうだ! 私もギター始めたんだよ」


 突然、紗凪ちゃんが口を開いた。正吾君はビックリしてる。


「は? 何でまた?」


「だって正吾君のギター弾く姿カッコいいんだもん。それに燈李とセッションしてるの見てたら燈李、カッコ良さマシマシになるし、それと燈李と一緒に演奏してる正吾君にヤキモチだね。で、私もやってみたの」


「いつから?」


「中学入って直ぐかな? 燈李とも二、三回合わせてるよ。ね?」


 紗凪ちゃんの容姿から正直「ギター」は想像出来ない。しかし、この子ホントに燈李君のこと好きなんだ……茶の間に入ってきたとき、正吾君の服掴んでたのは何だったんだろ?


「今ギターある? あるなら弾くよ」


「あー……ここには無いな……それじゃあ、今度聴かせてくれ」


「うん、いいよ。それと、私も軽音部入るね。これで燈李と一緒にバンド組めるね♪」


「おう、宜しくな」


 燈李君、そこは嫌がること無くすんなり受け入れるんだ……二人の距離感って、見てて遠近感狂いそうな感じだ。


 ・

 ・

 ・


 ―――紗凪ちゃんと燈李君は夕食の時間になったので、それぞれの家に帰った。


 私にも……私達にも後輩らしい後輩が出来るようだ。なんか、三年生になって初めて「先輩のお姉さん」って気分を味わえそうな気がした。

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