第100話 おうじさま
———波奈々の小宅君への想いは日に日に増していっているようだ。話しを聞くと、ノート運ぶの手伝って貰った。掃除でゴミ箱持って貰った。高いところの物を取ってもらった。落とした消しゴムを拾ってもらった。なんて事を私に報告してくる。こんな些細な事で喜んでいる彼女は可愛い以外の何者でも無い。
今では隣の席だって意識しただけでスキスキ度が上がっているらしい。
・
・
・
ある日、正吾君の電話が鳴った。小宅君からだ。電話の内容は当然、波奈々の事なんだけど、小宅君、なんだかんだで波奈々の事が好きらしい。相思相愛だ。でも、以前言ったとおり高嶺の花過ぎて実感が無く、一歩踏み出せないでいるようだ。もどかしいね。
・
・
・
———そんなある日、波奈々から電話が来た。
『あう〜、もうダメ……オタク君が……オタク君が私の中から溢れてくるよ〜♡』
「大丈夫ですか?」
『ダメ……もう、好きで好きで彼の事考えるだけで……幸せ♡』
「告白したらいいじゃないですか?」
『うん、もうすぐバレンタインだし、この日、告白する』
「チョコどうしますか? 一緒に作るのは全然いいですよ」
『それじゃあ、お願いしていい?』
「今週の日曜日の午後、正吾君の部屋集合って事でいいですか?」
『いいけど……正吾君の了解はいいの?』
「正吾君は減るものが無ければ基本OKです。後、私の言うことで、NOって言ったことは有りません」
『なんか凄い信頼だね』
「はい。私もそれほど無理は言いませんし、たまにベッドの上で無理させて白目剥く時ありますけど、やめろって言われたことはありません」
『なんか凄い事聞いちゃった気が……小宅君と付き合えたらその辺の事は後でご教授頂くとして、二時位でいいかな』
「はい。陽葵も呼びますね」
『うん、それじゃあね』
私は電話を切って、隣にいる正吾君を見る。
電話……実はスピーカーで正吾君も聞いていたのだ。
「正吾君、今聞いた通りです。日曜日ここお借りしますね」
「———分かった。俺、出掛けた方がいいか?」
「そこまではいいですよ。家主が居ないのに女の子達だけで居るのもなんか変じゃないですか?」
「別に減るもんじゃ無いからな……ま、好きにさせて貰うよ」
「はい♪」
・
・
・
―――そして約束の日の前日の土曜日。ちょっとした事件が起きた。時間は間も無く夕方だ。正吾君は今、スマホをジッと見つめて連絡を待っていた———。
———数分前、突然小宅君から写真付きでメッセージが入ったのだ。その内容がただ成らない。
[五分以内に連絡なければ警察に電話して]
添付された写真に写っていたのは波奈々が見た事のないの男二人に腕を掴まれている様子だ。誘拐? いや、そこまでじゃない……多分ナンパだ。強引なナンパだと思う。
「波奈々……大丈夫でしょうか?」
「人通りも多い所みたいだし大丈夫だろ。それにオタク君、ああ見えて俺より筋肉あるし」
メッセージが来て数分後。電話が鳴った。
「もしもし? オタク君大丈夫か?」
『御前君御免なさい。心配かけたと思うけどもう大丈夫だから』
「そうか、良かった……で、何があった?」
『浅原さん、強引なナンパに遭ってたところ、偶然通りかかって助けただけだよ』
「そうか……それじゃあこれで電話切るぞ。彼女、不安だろうから側にいろ。じゃあな」
『うん、有難う』
正吾君は電話を切るとため息を小さく吐いた。
「強引なナンパ男から波奈々を助けたらしい」
「あー、これヤバいですね」
これ、女の子だったら確実に……
「何がだ?」
「波奈々の恋心……暴走始まりますよ……多分 ニヤリ」
・
・
・
———翌日、今日は約束の日曜日。今日はバレンタインのチョコ作りに波奈々と陽葵が来る日だ。正吾君はバイトが終わって部屋にいた。陽葵は午前中から来ていた。そして……
”———ピーンポーン♪“
ドアを開けると、目の前に目を大きく見開いて何処を見てるか分からない感じの波奈々が玄関に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます