全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった。

第94話 ドキドキバレンタイン そして……

　———前話から話は飛びに飛んでバレンタインだ。

　私は正吾君に「今夜楽しみにしててね♡」と朝、事前に予告した。今回のチョコは私自身だ♡　私自身にチョコを塗って正吾君に食べてもらう計画だ♡　すると正吾君から「裸にチョコ塗って登場だけは止めてくれ」と言われた。「ﾁｯ!」早速計画が頓挫した。チョコレートフォンデュで我慢してやるか……。

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　教室に入ると、隣の席の浅原大河が私に話しかけて来た。

「葉倉さん、波奈々……大丈夫だと思う？」

「大丈夫だと思いますよ。私も様子見て来ます。一緒に行きますか？」

「いや、流石に身内のは見たく無いかな……」

「分かりました、ちょっと私行って来ます。陽葵は行きますか？」

「私も行ってみるか……無関係じゃないしね」

　ベランダに出るとＥクラスの方から、

「はああああぁぁぁぁ——————！」

　と言う声と正吾君に対する怨嗟の様な言葉が聞こえて来た。

　浅原波奈々が正吾君にチョコを渡した様だ。でも私達が見たいのは……知りたいのはこれではない。波奈々から正吾君へのチョコは私も陽葵も知ってる話だ。

　Ｅクラスの前に来た。教室を覗き込む……すると正吾君の上に見覚えのあるちょっとオシャレな紙袋が置いてあった。

　そして正吾君の隣でドキドキを抑えようと鼻で大きく深呼吸している波奈々が座っていた。既にテンパっている。私は正吾君に話しかける。

「まだですか？」

「もう少しだな」

　すると一人の男子生徒が教室に入ってきた。

　その男子は教室に入ると独特の雰囲気のある人達と手を胸元で“ピシッ”っと上げて挨拶して波奈々の隣の席に座った。

　それを確認した波奈々はカバンを持って徐に立ち上がる。

　ただならぬ空気が教室中を覆い、その雰囲気を察した教室内の生徒は皆、波奈々に注目している。

　そんな事など気にも止めず、その男子生徒は慣れた口調で波奈々に挨拶をする。

「あ、浅原さんおはようございます。今日は早かったですけど電車、一人で大丈夫でしたか？」

「お、お、お、おは、おは……よう」

「どうしたんですか？　そんなに畏まって……顔も真っ赤ですよ？」

　すると波奈々は、正吾君の机に置いたものとは明らかに装飾が違う大きな袋をカバンから取り出して机の上に置いた。

「「「はああああああぁぁぁ——————！　

　　　　　なんだとおおおおぉぉぉぉ—————！！！！！」」」

　それを見た男子が一斉に騒ぎ出す。教室内が大騒ぎになった。

「こっちが本命なのかぁ！」

「マジかよ！　地球がひっくり返る方が確率高いぞ！」

「宝くじ五回連続で一等当選したくらいの衝撃だーーー！」

「嘘だろ……お前……こっち側の人間だろ？　こっち側だったよな？　そうだろ？　帰ってこいよぉ〜『小宅十斗（おたくじっと）』氏ぃぃぃぃぃ……」

　そんな周りの声を余所に、波奈々は小宅君に思いの丈をぶつけた。

「お、お、オタ、オタ……じ……十斗君。すすす好きです。好き……好き、に、なちゃっ……た……どうし、どうしたらいい……ですか？　私、小宅十斗、君（くん）が……好き。好き、す好きすぎて、も、もう、一人、じゃ、ど、どうしていいか、わか、分かんない……どうしたら、い、いいのか、お、お、おし、教えてく、く、れますか？」

　波奈々の顔は真っ赤だ。耳も、首も、チョコを置いた手の甲も全部真っ赤だ。目も大きく見開いて何処を見てるか分からない。

　私のお話（こっちの話）では初登場かな？　正吾君のお話（あっちの話）では文化祭の準備で登場した小宅君。波奈々はその小宅君にチョコを渡した。

　話しかけられた小宅君は、飄々とした表情で慌てることなくテンパる事もなく冷静な面持ちで波奈々の問いに答えた。

「だったら僕とずっと手を繋いでいればいいと思うよ」

　小宅君はそう言うと波奈々の横に立ち、彼女の両手を取った。すると波奈々の目からボロボロと大粒の涙が大量に溢れて来た。

「あ゛ぢがど。ご……ﾋｯｸ……ごん゛な゛わ゛だぢでずが、づぎ……ﾋｯｸ……づ、ぎ……づぎあ゛っでぐで……ｽﾞｽﾞー……ぐでばずが？」

　もう、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。言葉もぐちゃぐちゃだ。そこには美少女の面影は全く無く、ただただ一人の男を好きになった一人の女の子の姿しか無かった。

「安心して、僕も波奈々の事好きだよ。僕に一歩踏み出す勇気が無かったから波奈々の事こんなに苦しめちゃったね。ごめん……これからも宜しくね」

　小宅君の言葉に波奈々の中の堰が切れた。

「っ……うわぁぁぁぁぁ―――――――ん……」

　彼女は幼子のように泣きながら小宅君に抱きついて泣き続けた。

　晴れて小宅十斗と浅原波奈々は付き合う事になった訳だがここに至るまでの経緯は文化祭まで遡る。

　その文化祭がキッカケだと私達が知ったのは正月の初詣だ。

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