第81話 芋煮会だよ

 ―――芋煮会当日。場所はとある公園だ。

 私達はバスで移動だ。勿論、私と陽葵は一緒に座っているが……通路を挟んで浅原兄が座っている。


「よく考えるととんでもない規模ですよね。お肉だけで何キロ買ったんでしょう?」


「確かにね道具の数も四〇組って……一クラスに置き換えると、一人一組使って実習出来るよ」


「そう言えば、陽葵の班は何か追加の食材とか準備するんですか?」


「しないしない。だって自費だよ? それに色々入れるより、普通に作って食べた方が美味しいよ」


「ですよね」


「そう言えば丹菜って芋煮会って初めて?」


「一応、叔父さんの街でもその文化はありましたからやってましたよ」


「へぇー、味噌? 醤油?」


「基本は醤油でした。味噌もたまに出ましたね」


「ふーん」


 すると、浅原兄が話し掛けてきた。


「ねえ、僕、芋煮会って初めてなんだけど、これってどういうの?」


「単純に、BBQが鍋になったと思って下さい。そして、その鍋に入れる食材が決まってるって感じです」


「なるほど。さっき『味噌』と『醤油』って言ってたのは?」


「地域によって『味噌味』『醤油味』の拘りがあったりします。ついでに言いますが、この地域で作る芋煮を「豚汁」って言うのはタブーです。くれぐれも言わないで下さい」


「―――もし言っちゃうと?」


「もし言えば……全市民を敵に回すことになります」


「市民総出なの? そうなの?」


 その言葉に浅原君の席の周りの子達が彼を見て大きく頷いている。陽葵も黙って頷いている。


 ・

 ・

 ・


 ———現地に着いた。基本、班の男女比率は4:4である。皆、早速準備に取り掛かるがその前に———私は皆が何が出来るのか確認した。


「あのー……、班が決まって全然役割とか確認してませんでしたけど……料理できる人って……」


 しーん……。


「まさか、誰も?」


「俺、一応、バイトで包丁使ってる」


「その程度であれば俺も使える」


 ちょっと安心した。


「葉倉さんは?」


「私ですか? 正吾君の弁当誰が作ってると思います? フフン」


「え? マジ? 御前君に弁当作ってるんだ!」


「うわー、羨ましい……」


 早速、食材と道具をみんなで手分けして運んだ。

 食材は一班づつ段ボールに入っている。焚き火関係の道具も同じだ。


「焚き火台ですか……これってどうやって組み立てるんですか?」


「あ、それなら俺出来るよ。家族でキャンプによく連れてかれてたから……この手の道具は……こうやって……はい! 出来た」


「「「おおーーー」」」


 女子含め全員が尊敬の眼差しを贈る。彼に「Mr.キャンパー」の称号を与えた。


「火起こしも俺に任せて。皆は食材頼む。俺、そっちはからっきりしだから」


 そう言われ、残りの人皆で食材を洗いに行った。


 そして戻って来て、


「ここは葉倉さん仕切って。いいかな?」


「分かりました。それじゃあ、包丁男子は里芋と白菜を一口サイズに切って下さい。女子は蒟蒻こんにゃくとシメジを手で千切って、豚肉もこの位の大きさに切ってください。大きさに失敗は無いので思いっきりやってください。大根、人参、牛蒡ごぼうは私がやります」


 私の指示に皆手際がいいとは言えないが、和気藹々わきあいあいと作業を進めていった。


 そして私が包丁を扱うと、


「「「おおー」」」


 と感嘆の声が上がった。そんなに特別な事はしていないんだけどね。


 そして食材を鍋に入れて火力の調整はMr.キャンパーに任せた。


 出来上がるまでので待ち時間、陽葵がうちの班にやって来た。


「なんか遠目に楽しそうに作ってたけど順調そうだね」


「はい。最初、誰も料理出来ないって言うから焦りましたけど役割振って何とかなりました。陽葵の班はどうですか?」


「浅原……どうなんだろ?」


「何かあったんですか?」


「何があったってわけじゃないんだけどさ、浅原兄、全部器用にこなすんだよ。分かんない事は誰って事なくちゃんと聞くし、男子にもプライドも無く純粋にやり方とか聞くから結構男子とも仲良くなっちゃって……ありゃモテるわ。ただね……」


 陽葵の班を覗いてみると、浅原兄を中心に、みんなで凄く楽しそうに盛り上がっている。なんか、率先して浅原兄が動いては皆、笑ってる。

 でも陽葵はなんか面白く無さそうだ。


「ただ……何ですか?」


「一生懸命さが鼻につくというか……『僕、皆の為に頑張ってます』ってアピールにしか見えないんだよね」


「まぁ、陽葵は『一生懸命』って言葉が嫌いですからね」


「浅原君の行動で誰も迷惑かかってないし、皆、笑顔だから別にいいって言えばいいんだけど、私はそこがどうも好きになれないんだよね。『お前もちゃんとやれよ』って言われてるみたいで」


「陽葵はやると時はやりますけど、その時が中々来ないだけですから」


「そういうこと」


 そう言って自分の班に戻っていった。暫く眺めていたら陽葵もみんなの輪に入ってはいた。ただ、居心地は悪そうだ。


 ・

 ・

 ・


 ―――そして食事が終わると、


「ねえねえ、他の班の試食しに回ろうよ」


「あ、いいね」


 そう言って私とMr.キャンパーを残して皆何処かへ行ってしまった。

 気が付くと、私の班に凄い行列が出来ていた。しかも男子だけだ。この鍋、どうやら私の手料理的扱いになってるようだ。因みに陽葵の班は浅原兄が作った鍋として女子が沢山並んでいた。浅原兄は笑顔でよそってる。

 遠くにもう一つ行列が出来てたけど多分浅原妹……正吾君の班だね。

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