第64話 叔父さんと正吾君

 ―――叔父さんが突然「今すぐ正吾君と結婚しろ」って突飛なことを言い始めた。


「叔父さん、私達まだ結婚出来ないよ」


「あ? ……ああ、すまんすまん」


「ところで突然どうしたの? 正吾君の人と形も知らないのにいきなりそんなこと言って」


 正吾君は私と叔父さんの話しを黙って聞いている。


「丹菜が春休みここに遊びに来た時、そっちの街のレストランに行って、ちょっとしたトラブルがあったって話ししただろ?」


「なんか言ってたね」


「その時のレストランが彼が働くレストランで、対応してくれたのが彼なんだよ」


「え? そうだったの?」


「その節は大変失礼いたしました」


 正吾君はそう言いながら頭を下げた。


「いやいや、あれはまさに怪我の功名とでも言うべきか……レストランのミスとは言え、そのあとのサービスが私達が求めていた以上の対応でね。相手は大満足で無理とまで言われていた商談もまとまって、お陰で私も昇進したんだよ」


「あれって、正吾君のところのレストランだったんだ」


 ここで初めて正吾君が口を開いた。


「担当したのは私ですが、正直、私だけの判断で動いたわけではありませんでしたから。評価して頂けるのは大変嬉しいのですが、私だけの功績ではございませんので……」


「いやいや、サービスそのものはそうであっても、その時々の些細な気遣いは個人個人の考えで動いたものだろう? あそこまで気遣いが出来る人はいないよ。普段からの人となりはああいう対応ですぐわかる。君は丹菜に相応しい……いや、逆に丹菜は君に相応しいのか?」


「そう言って頂けると嬉しいです。丹菜さんこそ私には勿体無いお嬢さんで……」


「あの時の対応、立ち振る舞いは我が社の若手共に見習わせたいもんだよ……そうだ! 君さえ良ければうち会社に来ないか? 私もある程度権限あるから掛け合うことは吝かではないよ」


 なんか、叔父さん、正吾君をべた褒めしてる。褒めちぎり過ぎて私が照れてしまうほどだ。


「よかった。正吾君、叔父さんに気に入られて」


「私が気に入るとかの話しじゃ無い。話を戻すが、彼と結婚しなさい。彼に釣り合う女性になるように精進しなさい。彼以外の男との結婚は私は認めないよ」


 叔父さん私に命令するのは初めてだ。しかも一見怒ってるようにも聞こえる強い口調で「私の大好きな正吾君と結婚しなさい」って。これって「婚約者」的な? きゃー♡

 私はニヤニヤしながら正吾君を見ると、彼は気持ちの置き処が無くなってなんかソワソワしてる。


 しかし「縁」というのは不思議なものだ。私達、バンドのメンバーの「縁」も凄いが、叔父さんと正吾君の「縁」も驚きだ。なんだか、私との繋がりがまさに運命とでも言っているかのような「縁」ばかりだ。


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 夕飯も食べ終わり、私の部屋でまったり中だ。


「ビックリですね。叔父さんと面識があったなんて」


「俺もビックリだ。あの日の事は良く覚えてるよ。丹菜が色々陽葵にやらかして全部バレた日な」


「え? あの日だったんですか?」


「うん、『縁』って面白いな。そう言えば丹菜の子供の頃の写真ってある?」


「え? 見たいんですか? いいですけど、残念ながら全部マンションにあります」


「そっか。それじゃあ戻ってから見せて貰おっかな」


「それまでに忘れて下さい」


「そう言えば、丹菜の話し方、叔父さん達の前だとちょと違うのな」


「ふふふ。そうなんです。自分でも意識していないんですけど……何ででしょう?」


「なんでだろうな? ニヤニヤ」


 正吾君は「俺は理由を知っている」と言わんばかりの笑顔で私を見ている。私も正吾君に対して叔父さん達みたく話せる時が来るんだろうか……


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 ―――翌日、私と正吾君は、両親の墓参りに来ていた。

 私達はお母さんのバンドメンバーだった正吾君のご両親、マスター、大宮さんの分も手を合わせた。多分、そのうちみんなで勢揃いすると思うから待ってて。


 墓参りのあと、正吾君と少し街をぶらついた。観光地に行こうかって話しもあったがちょっと遠い。正吾君は今日中に帰らなくてはならないので日程的に無理だった。それに、私達は「この街に来た」という事が「お出かけ」した感覚になってたので、今から遠くに出かける気分では無かった。


 正吾君と二人で歩く見慣れた街は、今までと少し違って見えた。というか、今までよく見えていなかったようだ。

 正直「つまらない街」だ。

 有名な食べ物屋さんとかも無く、ショッピングモールはあるが、何処にでもあるモールだ。


「私、この街の事、よく見てなかったんですね。今気付きましたけど、あんまり面白い街じゃ無かったようです」


「どの街もそんなもんだろ。逆に面白すぎる街があったら見てみたいもんだ」


「そうですよね。今住んでる街も……大きいってだけでこことあまり変わりませんね」


 正吾君、何かを発見したようだ。


「おい、丹菜、クレープ屋がある。食べよう!」


 そう言えば、正吾君、クレープ好きだって言ってたっけ。

 私達はクレープを食べて叔父さんの家に戻った。

 しかし、クレープを鼻の頭にクリームつけながら食べてる人初めて見たよ。


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 叔父さんの家でお昼ご飯を食べ、私達は叔父さん達に見送られ、新幹線に乗って自分たちの街へ戻った。

 正吾君も叔父さん達に受け入れられて私も一安心だ。受け入れのレベルが「結婚しなさい」って命令だから嬉しいことこの上ない。 

 後で心花さんにメールしちゃおっかな。



 

 今回の話しは叔父さんが最初に言った「結婚しなさい」がオチだ。後半面白い話しも事件も無かったね。

 だから敢えて教えちゃうけど、近々、バンドのメンバーに私が一人暮らしであることがバレちゃいます。そのバレ方が……私にはちょっときついかな―――。

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