第36話 二人で

 ———スーパーで食材を買って今、正吾君の部屋に着いた。これから二人でパーティーの準備だ。


 今日は、念願の「二人で並んでキッチン」だ。二人でエプロンを着けてキッチンに立つ……これだけで、なんでこんなにワクワクするんだろ?


 私は正吾君を見る……正吾君、楽しそうに私を見て微笑んでいる。


 最近、正吾君のレストランでのバイトの内容がちょっと増えて仕込みもするようになったとのこと、なので結構、包丁の使い方を覚えたらしい。

 私はそれに期待……は余りせず、正吾君に鶏肉を切って貰った。


「鶏肉切って貰っていいですか?」


「はい。わかりました」


 ふふ。出た♫ この返事。この返事をする正吾君、なんか面白いんだよね。なんでだろ?


「では、このもも肉を、この位の大きさに切って下さい」


 私は、一つ肉を切り出して正吾君に見せた。


「はい。わかりました」

 

 だから、その返事はやめて。小さくだが、私は思わず吹き出した。

 正吾君は不器用に包丁を持ち、一生懸命肉を切っている。なんか、不器用なのに一生懸命なのが可愛い。肉なんて変に大きく切らなければ火も通るし、失敗なんて殆どないから、指とか切らなければ何も心配することは無い。


「はい。できました」


 ―――ぷっ。だからその返事。


 私は正吾君が切った肉に粉をまぶして油が入った鍋に次々入れていく。


「次はタマネギとピーマンを粗々なみじん切りに切って下さい」


「はい。わかりました」


 だから、その返事やめてよ―――ふふふ。


 スーパーで売ってるガスコンロのグリルに入るサイズのピザに、後乗せで色んな具材をトッピングしていく。チーズも増し増しだ。具が大きいと、乗り切らないので食感を感じる程度の大きさにみじん切りにする。


「―――凄いな。宅配ピザ頼むよりこっちの方がいいな」


「宅配ピザはちょっと豪華すぎます。私はこのサイズでこうやって食べる方が好きですね」


「あ、俺、ピザにはトマト絶対欲しい派なんで、トマト乗せて欲しいです」


「大丈夫です。プチトマト買ってきてます。半分にカットして載せましょう」


「ありがとう御座います。」


 ・

 ・

 ・


 一通りの料理が出来て、テーブルコタツに並べられた。


「メリークリスマス!」 ”―――カチャン”


 ジュースが入ったコップで乾杯だ。


 正吾君は早速唐揚げに手を伸ばし、一口頬張る。


「―――美味い!」


 テーブルに並べられた料理を一口食べては「美味い」を連呼している。なんかお世辞っぽい感じもするが、表情を見ると、本当に美味しそうに食べているから私も嬉しい。


 ・

 ・

 ・


 食事中、会話も弾み、料理も殆ど食べ終わった。かなりの量があったが、正吾君、ほぼ全部食べてしまった。


 すると、唐突に―――


「―――これ」


 正吾君は徐に、ちょっとオシャレで小さな紙袋をテーブルに置いた。


「え?」


「クリスマスプレゼント」


 正吾君は私から目線を逸らしてポリポリ頬を人差し指で掻いている。どうやら恥ずかしいらしい。


「……ありがとう御座います。いつの間に準備したんですか?」


「―――知らん。サンタが俺に預けたんだ」


 ビックリだ。そんな素振りは全然無かった。多分、正吾君が思っている以上に私にとってはサプライズだ。 


 ふふ、実は私も……私も似たような紙袋をテーブルに置いた。


「私からのプレゼントです。受け取って頂けますか?」


「―――有り難う。勿論受け取ります」


 私も正吾君も紙袋の中を覗いている。

 本来、クリスマスプレゼントは明日の朝、開けてみるものらしいんだけど……


「「開けていい?」」


 同時に同じ言葉が口から出た。


「「……ぷっ」」


 お互いに吹き出す。


「―――開けていいよ」


「それじゃあ、私のも開けて下さい」


 二人一緒に紙袋から包装されたリボンが付いた箱を出す。


 私が紙袋から取り出した箱は細長い形をしていた。

 因みに、私が正吾君にあげたプレゼントも細長い箱だ。


 丁寧に包装紙を剥がして中の箱を取り出す。


「あれ?この箱って……」


 箱を開けると、中には時計が入っていた。


「あれ? この時計って、リクソンの時計ですか。―――ふふ。こう言う偶然てあるんですね」


「―――はは。ホントだ。―――いいね、こいう偶然」


 私は彼から貰った腕時計を左手に嵌めた。

 彼は私が上げた腕時計を左手に嵌めている。


「腕時計」というだけであれば、それまでなのだが、互いにプレゼントした腕時計のメーカーが「リクソン」なのだ。

 このメーカーの特徴として、ヘッドが大きく、女性用のデザインは「大きくて可愛い」感じで、男性用のデザインは「大きくてゴツい」感じだ。値段もピンキリだけど、高校生が買っても無理の無い値段の物もある。


 以前、正吾君がパソコンでこのメーカーのサイトをマジマジと見ていた事があったので、欲しいのかな? と思いながらも、このメーカーの腕時計を彼は持っていなかったので選んでみたのだ。

 彼は、腕に嵌めた時計をかざして、角度を変えては見入っている。凄く満足げな表情だ。かなり気に入って頂けたようだ。


 実は私もこのメーカー、正吾君がサイトを覗いているのを見てからちょっと気になっていたので、このプレゼントはかなり嬉しい。画像で見る以上に実物が可愛らしくて、色違いがもう二つくらい有ってもいかな? 


「なんだか、さりげなくペアウォッチですね」


「―――そうだな。ナイスロックだ」


 何その「ナイスロック」って。新しい言葉が出て来た。言葉の意味は不明だけど彼の気持ちは伝わった。

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