第17話 デート

 ——— 一緒のベッドで寝て起きたその日の朝。


 今日は土曜日。正吾君は朝食をとりバイトに出かけた。


 正吾君と一緒に寝た経緯、私が寝ていた時の話しは聞いた。ちょっと申し訳無い事をしたと思う。ゆっくり寝れなかったよね?


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 毎週土曜日は、いつもであれば自分の部屋の事を一通り済ませたら、あとは何もする事は無く、買い物に出かけるか、部屋でゴロゴロしている。ゴロゴロと言っても勉強とかしてるんだけどね。

 でも、今日は何となく他のバンドのライブを見てみたくなって、ライブハウス「Seeker」に足を運んでみた。———と言うのは建前で、今朝の事があったから、今日はなんとなく正吾君の近くにいたいかなって……。


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 ―――午後、お店に着くと、今日は「DJ祭り」らしく、一日中ヒップホップやらラップやらで、フロアーはクラブ系のノリになっていた。

 ちょっと残念だったが、私は元々こっち系の音楽の方が好きだったので、抵抗なくフロアーの後ろで曲を楽しんでいた。


 暫く流れてくる曲に体が赴くままにノッていると、


「丹菜、来てたのか」


 と、正吾君が私の耳元に顔を寄せ、声を掛けた。私の腕にちょっと密着している。彼から寄ってくるのは珍しかったのでちょっと嬉しかった。

 

 フロアー内ではスピーカーの音量が凄い。


 私も俺の耳元で返事をしようとしたが、背伸びをしても彼の耳に私の口が届かない。なので、彼の肩辺りの服を鷲掴みにして引っ張り、彼の頭を強引に自分に寄せて耳元で話したんだけど、その時、唇が彼の耳に少し触れてしまったのは気のせいでは無い。


「他の人のライブって見たこと無かったので、ちょっと勉強に来たんですが…」


「今日は、『DJ祭り』で残りも全部これだからバンドは来ないぞ」


「みたいですね。なので暫く楽しんだら帰えります」


 すると、正吾君から意外な一言が出た。


「だったら、一緒に出るか?」


「仕事はいいんですか?」


「俺、結構自由なんだよ」


「それじゃあ、この人達終わったら、通路で待ってます」


「OK!」


 私は、今やってるライブが終わると、通路で正吾君が出てくるのを待った。


 今日のコーデは、いつものキャスケットの帽子を被って、ミニスカートとニーハイソックス。トップスはニットの上に薄手のボアジャケットを羽織っている。


 さて、正吾君、私のこの服、何か言ってくれるかな?


「待ったか?」


「待ってないですよ。なんだかデートの待ち合わせみたいですね。ふふ」


「そうだな。―――今日も服、可愛いな。似合ってるよ」


 ちょっと意外だった。正吾君、私が発した「デート」と言う言葉を照れる事なく、否定する事なく素直に受け止めたのだ。


 そして、服装の感想も素直に言ってくれた。何で? ちょっとストレートなのは嬉しいけど恥ずかしくなる……ぽ♡


「で、どっか寄るところとかあった?」


「全然無いです。ホントに帰るだけでしたから―――そうですね……ゲームセンター行ってみたいです」


 プリクラ……撮ってみたかった。実はカラオケ同様ゲームセンターも行った事が無かったのだ。


「いいね。実は俺、行ったことが無い」


「へへ。実は私もなんです」


 私達は早速ゲームセンターに向かった。


「丹菜って、カラオケの時も思ったけど、放課後、友達とこういうところとか行ったりしないの?」


「行ったこと無いです。家事やると結構時間取られるので……あ、正吾君事を言ってるんじゃ無いですよ。正吾君のお世話は寧ろ……ゴニョゴニョ……」


 ———危ない。家事の話は今は「正吾君のお世話」って感じに聞こえちゃうから上手く言い回さないと「彼が私の負担になってる」ように聞こえちゃう。ちょっと難しいね。


「なんか、悪いな……いや、有り難う……だな。―――あのさ、本当に無理なことは無理って言ってくれよ。昨夜なんて疲れて寝ちゃったんだろ? 倒れられたら、申し訳無い気持ちしか残んないからさ」


「分ってます。昨夜は文化祭の準備もあったからだし、普段は全然苦にすらなってませんから」


「―――わかった。その言葉、信用するよ」


「信用して下さい。ふふ」


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 ゲームセンターに着いた。

 

「結構、音、うるさいですね」


「そうだな。ライブハウス程じゃ無いけどな」


「―――あれ、陽葵ちゃんと大地君ですよね?」


 偶然、二人のデートに遭遇した。さすがに空君はいないね。

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