第16話 最近の日常……

 ”———ピピピピピピ…… カチ“


 ———朝六時。


 私の一日が始まる時間だ。


 タイマーで回していた洗濯機から洗ったものを取り出して干す。そして顔を洗って制服に着替え、荷物は学校に行くだけの状態に準備して六時四十分には正吾君の部屋に行く。


 当然、彼はまだ寝ている。


 私は黙ってリビングに入ると、勝手にテレビの電源を入れ朝食を作り始める。朝食を作ると言っても、昨夜の残り物とか目玉焼きとか朝は簡単な物しか作らない。


 テーブルに料理を並べ、彼を起こしに寝室へ行く。当然彼は爆睡中だ。毎朝決まって彼の顔をツンツンする。


「ん……。ムニャ」


可愛い。


 ”———パシャ“


 コレクションがまた一枚追加された。


 一度、おでこにチューでもしてみようかと思ったけど、流石にそれはね。


 イタズラしている時間も無いので彼の体をゆすって起こす。


「———おはよ」

「おはようございます」


 寝起きの彼を見ると、最近、妙に安心感を覚える。一人で朝を迎えていた寂しさの裏返しだと思う。「誰かが必ず側にいる」というのはそれだけで心の支えになるんだと実感しいてるところだ。


 彼は一度で目覚めてくれるから有り難い。陽葵ちゃん曰く、大地君は起きないらしい。彼女も毎朝彼を起こしてあげてるようだ。


 ———七時。二人で朝食を食べる。


 テーブルはダイニングテーブル……では無くコタツだ。さっきまでダイニングテーブル想像していた人、御免。

 今は季節では無いでのコタツ布団を掛けていないが、時期がくれば掛けるとの事。コタツの「人間をダメにする魔の力」の話はよく耳にするが私はまだ経験した事が無いので楽しみだったりする。


 冬になったらみかんと鍋だね。


 朝食を食べ終わると、彼が食器を洗い始め、私は歯磨きとかお化粧とかを彼の部屋でする。殆ど同棲だね。

 お化粧と言ってもそんなにガッチリ決めるわけでは無い。


 彼が歯磨きとかの身支度が終わる頃、私の準備も終わる。


 ———七時四十分、二人で一緒に登校する。ただし、マンションを出るまでだ。


 マンションを出ると、彼が先を歩き私が数メートル後ろを歩く。


 そして最寄りの駅に着くと、彼はさり気無く私を待って、一緒にホームに入り、同じ列の前後で並んで電車を待つ。電車に乗る時は、私は必ず彼のジャケットの裾を掴んで離れない様にする。そしていつも向かい合って立つ。


 彼は私と離れて乗ろうとしていたが、過去に痴漢にあいかけた話しをして以来、彼は私の側に乗るようになてくれたのだ。


 電車に揺られ密着すること十分。最初恥ずかしかったこの密着も、今は安心材料の一つに変わっている。何気に正吾成分を補給して、駅を出て学校へ。今度は私が彼の先を歩く。すると、徐々に私に話しかけてくる子が現れて一緒に学校までその子達と歩くのだ。


 そして教室に入る。


「おはようございます」

「丹菜ちゃんおはよう」


 教室に入ると決まって陽葵ちゃんが既に席に座っている。


 そして、正吾君が黙って席に着いていたのだが、今では―――。


「御前君おはよう」

「御前君おはようござます」

「うす」


 最近では私達からだが、挨拶をするようになった。


 ・

 ・

 ・


 ———お昼休み。


 正吾君はどこかへ消える。何処でお弁当食べてるんだろう? これだけは教えてくれないのだ。トイレでは無いとだけ言ってた。


 私は陽葵ちゃんと、たまに芳賀さんとか、不特定に三、四人で机を寄せてお弁当を食べる。


 会話は専ら恋バナが多いかな? でも、陽葵ちゃんは大地君の事は内緒にしているので、恋バナになると、いつも聞き手に回っている。本当は大地君の事を話したいし、一緒にお弁当も食べたいって言っている。たまに付き合ってる事内緒にしてる人達いるけど、なんで内緒にしてるんだろ? 正直ちょっと意味が分らない。


 たまにハイスペックスの話も出るけど、その時は私と陽葵ちゃんは黙ってニコニコして相槌打ってる。ちょっと辛い。


 ・

 ・

 ・


 授業が終了して、放課後、今は文化祭準備で皆残っている。五時半になると正吾君はバイトへ出る。


 私は六時が限界だ。陽葵ちゃんには住んでる場所と正吾君の事以外の全てを伝えている。なので一人暮らしである事は知っている。


「ごめんなさい。今日もあと宜しくお願いします」


「オッケー。今日も大変だろうけど頑張ってねー」


 陽葵ちゃんの去り際の一言はダミーだ。そう言っとけば「葉倉はしなくちゃならない事があって帰りたくないのに帰らなきゃだめなんだ」って、周りが勝手に思ってくれる———と彼女は言ってた。

 現に、高瀬さんは「彼女も大変なようだね。何か協力出来ないか?」と余計なお節介をしようとして来たらしいが、陽葵ちゃんが「彼女に嫌われたく無いなら何もしないのが一番だよ」と言っといたらしい。グッドだ。


 そして帰り道、冷蔵庫の中身を思い出し、明日の朝食のメニューと弁当の中身をイメージして……よし! 今夜は生姜焼きだ!


 足りない食材をスーパーで買い、マンションに着いたら、一度、正吾君の部屋に食材を置いて、自分の部屋に戻る。普段はもっと早い時間に部屋に着くが、文化祭の準備をしている今は七時半になってしまう―――もう一時間早いと楽だね。


 そして、部屋の掃除をさっとやって、彼の部屋も掃除する。そして八時半まで彼の部屋で宿題をして、彼から「帰る」ってメッセージが来たら夕飯を作り始める。


 ———九時前、正吾君が帰ってくる。私はいつもスウェット姿でお出迎えだ。彼にしか見せない私の少しだらしない姿……かな?


 彼がご飯を食べ終わると、並んで食器を洗う。この瞬間がたまらなく好きな時間だ。


 そして、食器洗いが終わると自分の部屋に戻ってお風呂に入り、洗濯機にタイマーをセットして、宿題の続きか勉強をする。寝るのはいつも十一時を過ぎだ。



 しかし、今日は金曜日……明日は休みだ。―――疲れていたのかな? 食器を洗い終わって、二人がけのカウチソファーにちょっと座ったと思ったら―――。


 ―――目が覚めたら朝だった。周りを見ると見慣れない部屋、寝心地が違う……どこ、ここ?

 隣を見ると―――隣には正吾君の顔が直ぐ横にあった。どうやら一緒に寝たらしい。

 でも何だろう? 嫌じゃない。寧ろ……心地よい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る