第7話 大宮楽器店

「ここかな?」


「ここですね」


 今、トゥエルブさんと二人で看板に「大宮楽器店」と書かれたお店の前に立っている。

 トゥエルブさんは躊躇いなく店の中に入って行った。何だか慣れた感じだ。


「こんにちはー」


「お、来た来た」


 お店の広さはコンビニの二倍くらいの広さだ。

 店の奥から大宮君と、何故かエプロン姿の希乃さんが顔を出した。


「小堀は上で待ってるよ。階段ソコだから上がって待ってて」


 私とトゥエルブさんはお店の奥へ……振り返るとトゥエルブさんが居ない。階段を降りて店内を見ると、トゥエルブさんは店に陳列されているギターやら音量調整する機械やらを見て興奮している。そして値段を見ては落胆している。


「———欲しいんですか?」


「まあね。このメーカーのなんかは結構人気あって皆欲しがるね」


「そうなんですね?」


 正直、違いが全くわからない。ギターなんて形と色が違うだけで音は同じじゃ無いの?


 男の子がするこの手の話は正直よく分からない。そもそも話しについていける女の子ってそうそういないでしょ。


 私はトゥエルブさんの背中を押して何とか二階へ上がった。


 部屋に入ると、一階と同じ広さの空間があった。商品が無い分、広く感じる。


「ちわっす」


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」


「葉倉さん堅苦しいよ。仲間なんだし気軽にね」


 ———仲間。……私の辞書には無かった単語だ。友達とも親友とも違う……何だろう? 凄く素敵な響きに聞こえた。


「結構広いんですね。カラオケボックスみたく、どこもこんなもんなんですか?」


「大体こんなもんだと思うよ。他のとこ行ったこと無いからよく分かんないけど」


「そうなんですね」


 私は部屋の中を見回した。部屋の一角にはドラムとキーボードがセットされてあり、それにスピーカーらしき箱が床に幾つか置いてあった。


 部屋にある物を眺めていると、下の階から希乃さんの声が聞こえた。


「葉倉さん、トゥエルブさんコーヒーと紅茶どっちいい?」


「紅茶でお願いします」


「俺はコーヒーで」


 私はコーヒーが飲めない。苦いよね? トゥエルブさんはコーヒーだ。なんか、イメージにピッタリって感じだ。


 私とトゥエルブさんは上着を脱いで洋服掛けにかけた。


「———お待たせー」


 希乃さんが飲み物を持って来た。


「へへー、実は隣の喫茶店、私んちなんだよ」


「そうだったんですか?」


「『喫茶 希乃音ののん』って言うの」


「———早く言ってよ。昼飯超大盛りな定食ガッツリ食べちゃったよ」


 トゥエルブさんは一気に疲れが襲って来たような表情になった。


「ふふ、ここで食べれば良かったですね」


「次回から宜しくね」


 そして持って来て貰った紅茶を一口———。


「———美味しいですね」


「でしょ? ———ってトゥエルブなに砂糖三つも入れてんの!」


「———苦い」


 ちょっとトゥエルブさんの好感度下がった。でも、なんか可愛くて好感度上がった。


 ・

 ・

 ・


 雑談も終わり、準備も済んで早速練習に入った。


「それじゃあ、一曲目いってみよう!」


“———カッ♪ カッ♪ カッ♪ ジャガジャーン♫”


「♬—♪♫——♬♬♫♩———♩———……」



 今日も絶好調だ。カラオケの時と違って、歌の部分のメロディーが無いからちょっと歌いにくいけど、楽譜もあるし、音は追っかける事は出来る。


「♬♬♬—♬♫♫—♫♬♪———……」


 サビに入るとキーも上がって脳天突き抜ける感じが最高だ!


 ・

 ・

 ・


 そして一曲歌い終わると、皆ビックリした表情をしている。私、またなんかやらかした?


 希乃さんが私に尋ねて来た。


「初めてなんだよね? バンド組んで歌うの」


「そうですよ。———どうかしたんですか?」


「うんとね、カラオケって歌の部分のメロディーが聞こえるから誰でも歌いやすいのね。で、今の演奏って、歌の部分のメロディー入って無いんだよ。要は、葉倉さん自身で音階保たなきゃダメなんだけど、普通、初めて歌う人ってギターとかキーボードの音に引っ張られて音程取れなかったり、ウチらの演奏の音量に声量が負けて聞こえなかったりするの。でも、葉倉さんの歌い方って、初心者のそれじゃ無いもんだから、皆ビックリしてんの」


「そう言うもんなんですね? 確かに最初歌いにくいなって思ったんですけど———そう言う事だったんですね? 納得しました」


 どうやら私は褒められたようだ。


 この調子で次の曲を歌い、そして歌い終わると入り口に一人のオジさんが腕組みして立っていた。その後ろには小さい女の子が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る