滅びた世界で

夕日ゆうや

論文

 太陽系に奇跡的に生物生存を約束した惑星。それが地球である。

 惑星規模ではホタルなどの生物が滅びるのは刹那的な問題だ。自己のことなのだ。所詮人間が考えられるのは。

 人間は惑星規模の管理を求めた。

 宇宙への進出は無駄だったのだ。現実を前に理想はただの夢でしかない。

 破壊は人が捨てることのできない精神なのだ。

 偽りの生活空間、偽りの平和主義。

 戦争は多くの人の命を奪う。そのことの悲しみを人は忘れたことがないのだが、戦うことをやめようとはしない。

 だが、流された血や涙は儀式の飾りにすぎない。

 人類はまだ成長しきっていないのだ。

 人は人を理解していない……。


 パソコンで論文をまとめていると、僕は疲れを感じキーボードを叩く手を止める。

「これくらいでいいだろう」

 人類は滅びるべきだ。それが自然に対し、地球に対する贖罪になる。

 僕は疲れた身体でベッドに横たわる。

「人類すべてが地球に住むことはできないんだ」

 今の時代。宇宙で暮らすことができる。

 このままでは地球の暮らしができない。


 僕たちは地球に依存しすぎたのだ。

 もう間もなく地球は終わる。いや、終わったのだ。

 みな資源を、食糧を求めて、争いを始めた。

 僕はもう一人だ。

 世界は終わる。


 ザザッと無線機にノイズが入る。

「いき、て……か? 俺は……だ。生きて、る、……返事を」

 それが希望の言葉になった。

 誰かと出会えるのがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。

 僕はまだ生きている。


 涙が頬を伝う。

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滅びた世界で 夕日ゆうや @PT03wing

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