コアをつぶす

「まて、まて、まて!」

川田が宇宙人に説明しようと前に出た。


「こいつ、ちょっと血の気の多いやつでしてね。

手が滑ったというか」


アダムを始めとする宇宙人たちは、

呆然と、仲間が切り刻まれるのを眺めていた。


「せっかく、お互い自己紹介して、これからというときに、

どうやら手違いが起きてしまったようで、大変申し訳ございません」

洋一が、揉み手をしながら、腰を低くして宇宙人に謝る。

クレームへの対処なら、電気店で慣れていた。


「たしか、宇宙人のコアは脳に入ってるんだよなぁ」

桜田は、切り取った宇宙人の生首を、

近くで撮影しているドローンに向けて掲げた。


この映像は、さすがにモザイク処理がされるだろう。


桜田は宇宙人の顔を果物の皮を剥くかのように切り開いていった。

鋭いアーミーナイフで、その手さばきは、まるで外科医のようだった。


「ひひひ!コアだ」

桜田は、宇宙人の頭から取り出したコアを地面に叩きつける。

そして踏み潰した。

グシャッと潰れるような音がした。


「ぐぁうあああああああ!!!」

突然アダムが叫びだした。


それまで、人体を切り刻まれる様子には無反応だったのだが、

コアを潰されるのを見た瞬間、気が狂ったような叫びを上げたのだ。


考えてみれば宇宙人にとって

人体が刻まれることなど、なんの恐怖も感じないこと。

自分たちの大事なコアが目の前で破壊されることのほうが

ショックが大きかったのである。


「にゅああぅああああ」

他の宇宙人たちも野獣のような叫びを上げはじめた。


「ぬっ、こいつら?」

佳代子が身構える。


グラマーなアジア人女性が、大きく手を振ると、桜田の体が宙に浮いた。

「なにしやがる、くそアマ!」

桜田は空中でバタバタと手足を動かした。


「さ、桜田は見捨てるんだ。みんな、逃げるぜ?」

川田が声をかけると、みんなは一目散にその場から逃走しはじめた。


宇宙人の異様な雄叫び、咆哮は、

聞いているだけで見が縮むような恐ろしさだったのだ。


この時点で、戦いの終了まで残り4時間40分。

一人殺すことは出来たが、桜田は絶体絶命。


戦いの行方はまったく不透明であった。


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桜田を見捨てた4人は思い思いの方向へ、

バラバラに逃げた。


洋一は、マンモスの飾られた展示場に迷い込んでいた。

(ここなら見つからないか?)

洋一はマンモスの足と足の間に隠れる。


そこへ、川田も偶然やって来る。

「おいっ、お前、そこバレバレだぞ」

「そうっすか?」

「俺、すぐお前のことを見つけたろ?」

「たしかに」

二人は小声で話していた。


そのとき、

「ぬぃやぁ!」

という声が聞こえ、仙人のような老人の宇宙人が二人の前に現れたのであった。

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