08話
「おはよう朝士君」
「ああ、おはよう」
「もうご飯ができているから食べようよ」
「その前に顔を洗ってくる」
今日もいい天気のようだ。
喉が渇いたとき用に水筒を持っていこうと決める、金持ちというわけではないのだから買うのは駄目だ。
「今日から放課後はもう部活がないから私も参加するね」
「おう、場所はここか将太の家だから朝陽的にも楽だな」
「図書館とかでもいいけどね、とにかく勉強ができればそれでね」
場所がどこだろうとお喋りばかりをして時間を消費してしまうような人間ではなかった、意識していれば意外とやれるものだ。
それは玲亜だって同じこと、先延ばしにはしたくないタイプだった。
「じゃあまた放課後にね」
「頑張ろうぜ」
「うん」
なんとなく来年は同じ学校内に妹もいるのかなどと考えつつ学校まで歩いた。
教室に着いてからは緩く自習、休み時間なんかにも一応した。
とはいえ、昼休みだけはゆっくりすることにしている、勉強をしながら妹が作ってくれた弁当を食べるのも微妙だからな。
「あ、なんで教室から出るのよ」
「なんでっていつものことだろ」
静かな場所でゆっくり食べるのがいい、あとあそこは勉強をする場所だから休むためには向いていないのだ。
「場所を変えるなら連絡をしてからにしなさいよ、私に対しては必要よ」
「わざわざ教えなくても玲亜ならすぐに分かるよ、俺も分かりやすく変えているわけじゃないんだから」
「逃げているわけじゃないのよね?」
「逃げるわけがないだろ、それより早く食べた方がいいぞ」
「そうね、なら隣に座らせてもらうわ」
今日も美味しかった、母作もいいが妹作の弁当がいい。
母の場合はたまに白米だけなんてこともありえる、いやまあ、作ってくれるだけでありがたいがやはりおかずがその横に存在していてほしいだろう。
だからそういう点で安定している妹の――ま、安定しているからこそ狙われるものの、それが気にならないぐらいにはというやつだ。
「それって玲亜が作ったやつか?」
「今日のはね」
「なら少し食べさせてほしい」
安心しろ、貰うわけ貰ってはい終わり、そういう風にはしない。
今度は俺が頑張って弁当を作る、作ってくるから食べてほしい。
「別にいいけど、はい」
「あ、ここに置いてくれ」
「もうこうして掴んでしまっている時点で無駄よ」
「じゃあ――美味しいな、優しい味付けだ」
物足りないというわけではないからこれぐらいがいいのかもしれない。
「濃いのも美味しいけど体的には薄い方がいいかなって気を付けているのよ」
「そうだな」
素を使った料理しか作ることができないというのはただその方が安定して作れるというだけの話で無理なわけではない、なにより、スマホを利用してネットの世界を彷徨っていればいくらでもレシピを見ることができるのだから余裕だ。
変なアレンジをして不味くしてしまうようなこともないし、寧ろきっちりその通りにやろうとする人間だから待っていてほしかった。
「あ、朝士、テストが終わったら私達は暇になるわよね、そうしたらまたどこかに行かない?」
「なんでそんな顔をしているんだ? 出かけるぐらい普通にするけど」
夏ならプールとか海とかか? あ、かき氷を食べに行くなんてもいいかもしれない。
汗をかくが運動をするのもいい、たまにはサッカーじゃなくて玲亜さんが好きらしいテニスでもいいだろう。
とにかく、誘われたら付いて行くだけだ、決して断れないからではなく自分がそうしたくてそうするのだ。
「だ、だってちょっと前とは違うじゃない」
「そうか? あ、お互いに興味を持っていると分かったからか」
「は、はあ? いつ私があんたのことを気になっていたって言うのよ」
「とりあえずテストを頑張らないとな」
頑張っているときに云々と言われてしまわないように妹と勉強だってちゃんとやるつもりでいる。
「朝ー」
「よう、将太はいないぞ」
「教室にもいなかったんだよね、どこに行ったんだろ。ま、放課後に約束をしているから将くんのことはいいよ、お邪魔させてもらうね」
なんで敢えて真ん中に座ろうとするのか。
「朝、今日は無理だけど明日の放課後は一緒に勉強をしようよ、また教えてほしいんだよね」
「いいぞ、みんなで一緒にやろう」
「それなら朝のお家に行くね」
「その方が楽でいいな、朔夜の家だと将太が気にするし」
「あれ、みんなでやるんじゃなかったの? それとも、一回気になった異性ということで二人きりがいいのかな?」
おっと、分かりやすくからかおうとしてくれている。
だが、こういうところで昔から慌てる人間ではなかった、俺だって玲亜と同じようにできることもあるのだ。
「二人でやるならここだな、将太に喧嘩を売りたいわけじゃないしな」
「む、将太将太って本当は将くんが大好きなんでしょ」
「友達としてはな」
「私は――な、なんですか、私の腕を掴んでもなにも出ませんよ」
「朔夜ちゃんは将太と仲良くしていればいいの、大丈夫、いますぐにここに呼んであげるから」
で、玲亜が呼んだ結果、確かに将太はすぐにやって来た。
とはいえ邪魔をされたことが気に入らないのか朔夜の表情が柔らかくなることもなく時間だけがただ過ぎていく。
「相棒、これはどういう時間なんだ?」
「玲亜が朔夜のために将太を呼んだ結果だな」
「となると、姉貴が嫉妬をしたということか、朝士のことを気に入ってんなぁ」
それはいいことだと言えるがこの状況は悪いと言える。
それより昔の鈍感だった彼はどこにいってしまったのだろうか? 朔夜という本命が現れてから分かってしまうようになってしまったのだろうか。
いやまあ、相手的にはいまの方がいいだろうし、理想の二人を見られるわけだから俺にとっても得でしかないがな。
「将太は朔夜ちゃんを連れて行って」
「あいよ、というわけで姉貴が怖いから朔夜――」
「やだっ、お昼休みぐらいは朝と過ごすもんっ」
「俺は別にいいが姉貴が怖いからさ、安心しろ、俺がちゃんと朝士との時間も作ってやるから」
「やだっ、そうなったら将くんが朝を独占するもんっ」
おっと、今日はどうした、意地を張ってもいいことはないぞ。
少なくとも俺とのことならそういうことになる、しかも心配をしなくても基本的に暇人だから頑張ったところでという話だ。
「朔夜」
「……今度ちゃんと相手をしてくれる?」
「させてもらうよ」
「じゃあ戻る、けど、変なことをしたら駄目だからね?」
「しないよ」
妹と朔夜は本当に似ているな、喋り方なんかも相まって同一人物だと考えてしまっても違和感はないぐらいだ。
それで安心できたのか、それともなにをしていたのかと冷静になったのか将太と一緒に歩いていった。
「はぁ、心臓に悪いわ」
「朔夜が好きなのは将太だ」
「昔から一緒にいるからこその距離感だとでも言いたいの? 私からすればそんなことは関係ないのよ」
「アピールをしたのは玲亜にだけだ」
「それはそうかもしれないけど……」
怖い顔をしたり不安そうな顔をしたりと忙しい人だ。
とはいえ、あのときみたいに抱きしめることでなんとかするという選択肢を俺は選ばなかった、多分効果がないどころか逆効果になりそうだったからだ。
「朝士、抱きついてもいい?」
「おう」
「少し落ち着けたわ、やっぱり効果があるのね」
「ちなみに俺がやったときはどうだったんだ?」
前にも言ったようにやってから謝罪をするなんてことはしないが気になったからぶつけていた。
「え? そんなことを聞かれてもあんたじゃないんだから分からないわよ」
「いやいや、されてどうだったのかという話だ」
「あのときはいきなりすぎて驚いたわ」
「だよな」
「でも、嫌な気持ちにはならなかったわよ」
そうか。
「中途半端な状態のままでいるのがちょっと嫌になってな」
「そうなのね」
「それで俺が動いたのに玲亜は物足りないと言ってくれたよな」
「あのときはあんたがまた抱きしめてくれないかなって期待していたの、でも、普通に寝てしまったわ」
ちゃんと言ってくれよ、勢いだけで行動できるときばかりではないぞ。
あとはやはりそうやって行動をするのはほとんどの場合、自分にしかメリットがないわけだからなるべくしたくないのもある。
だが、こうなってくると変わるというかなんというか、動く必要があるわけだ。
「していいか?」
「もうくっついているけどね」
「じゃあ普通にできるようにいまの先を求めたい」
「付き合うってこと? いいんじゃない?」
お、おいおい、この流れで告白みたいなことをした俺も悪いがこれでいいのか。
「……軽いな、普通を装っているだけでいまこっちはやばいんだぞ?」
「こんなものでしょ、じゃあいまから開始ね」
「じゃ、じゃあよろしく」
となれば抱き合ってなんかはいないでゆっくりすることにしよう。
このままだと授業がまだあるのに疲れてしまう、疲れたままだと集中力なんかも下がってしまうから駄目なのだ。
「なあ、玲亜的に将太をそういう意味で気に入る可能性はどれぐらいあった?」
「〇ね」
「え、なんでだよ?」
家族になったからというのもあるがすぐに名前を呼んだり、仲良さそうに会話をすることができていた、ちゃんと見てやることで決して無理なはずではないはずだが。
「朔夜ちゃんがいたからよ、変な状態にしているだけで両想いじゃない、私も相手が誰かを好きでいる状態で頑張れたりはしないわ」
「そうか、なら焦らなくてもよかったのかもな」
「それも無理よ、あんたが分かりやすい行動をしてくれてよかったわ」
「かなりリスクがあったけどな」
「でも、あんたは勇気を出してくれた、それだけで私も楽になったから感謝をしているわ」
せっかく離れられたのにこちらを抱きしめてから「朝士、好きよ」と言われてしまい意味がなくなった。
「学校でやるとか玲亜は変態だな」
「それならあんたもでしょ」
「じゃ、じゃあどっちも変態ということで終わらせよう」
彼女は少し不満そうな顔で「変態はあんただけよ」と言ってきたが、俺からすれば最近のことだけでそう言える条件が整ってしまっているので変えられることではないように思えたのだった。
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