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Nora_
01話
静かでいい時間だった。
誰もいないこの教室を独り占めできて、
「聞いてくれ友よ!」
はなかった、が、別に友達だから嫌な気分にはならない。
「はぁ……はぁ……まだ教室に残ってくれていて助かったぜ……」
「それでどうしたんだ?」
まだというかこれは当たり前のことだから助かったなどと言われても困る。
「そ、そうだ、実は親が再婚をするって急に言ってきたんだ!」
「再婚か、小学二年生のときに離婚したのに遅かったな」
離婚理由は知らない、俺が知っているのは彼の父親が急に消えたということだけだ。
嫌な人というわけではなかったから驚いた……気がする、ただ、とにかく幼かったからすぐに頭の中からどこかにいって遊んでいたが。
「まあ、それはいいんだ、多分相手の人がいてくれた方が楽だろうからさ。た・だ! そのことを一切話さずにいたのはおかしくないか!?」
「確かにそうだな、将太だって関係してくるわけだから普通は話さなければならないところだと俺でも思う」
相手の人を見せたりしたら反対をされるからやってしまおうという考えだったのだろうか。
「だろ? しかも相手の人に娘がいるとなれば尚更のことだよな」
「娘? 高校生か?」
「おうよ、高校二年生だってさ」
「ということは年上か、姉ができるんだな」
小学生や中学生よりはやりやすいか、というところ。
まあ、相手がいくつであれ性格次第だとは分かっている。
「って、本当に言いたかったのはそれじゃない、朝士に頼みたいのはこの後会うから付いてきて――」
「それは無理だよ、あまりにも部外者すぎる」
幼馴染的存在ということで助けてやりたいが流石にできないことにはちゃんと言わせてもらう。
変な友達がいるということで誤解をされてしまうかもしれないし、彼は自分のためにも今日だけは、せめて初対面のときぐらいは頑張っておくべきだ。
なーに、別に告白をしなければならないとかそういうわけでけではないのだ、ただそこに存在していればいい。
聞かれたらそのことについて答えて、それ以外の時間は黙って相手を観察するのもいいだろう。
「いいから来い! 美少女だったら儲けもんだぞ!」
「美少女でも普通少女でも俺にとっては変わらないよ」
「いいからいいから、言い訳をするのは終わってからにしましょうねー」
面倒くさくはないが絶対にいい反応を貰えないから微妙だった。
ちなみに集合場所は学校から少し離れた飲食店らしい。
もう再婚が決まっているのなら家でもいいと思うのだが、それは俺がなにも知らない子どもだからだろうか。
「あ、やっと来た……って、なんで朝ちゃんも連れてきたの?」
「母さんに対する反抗の気持ちからだ」
「ごめんって、そろそろ機嫌を直してよ」
やっぱり無理だから違う席に案内をしてもらって食事を済ますことにした。
「いただきます――なにか?」
上の方でまとめていた髪をほどいてから「ねえ、それちょっとちょうだい」と。
「いいですよ、これぐらいでいいですか?」
「うん、ありがと」
「でも、あっちにいなくていいんですか?」
「だって子どもがいても変わらないでしょ? だから私も自由に行動をするの。それに私はあの子のお母さんともう何回も話しているからいらないの」
「なるほど」
余程のことがない限りは結果は変わらないか。
あとは少しの反抗したいという気持ちが抑えられないのかもしれない。
「それで君は? なんであの子に付いてきたの?」
「無理やり連れて行かれただけです、無理だってちゃんと断ったんですけどね」
「ふーん、でも、走り去ったりもせずにここに残り続けているのは面白いね」
「あ、今日は両親が遅いので自分で作らなければならなかったんです、でも、こうして飲食店に来たならと考えたんですけど」
「なるほどねー」
いらない情報だ、普通に腹が減ったからでよかった。
つか、仮にこの人が複雑な状態だったとしても話さなければならないのは家族になる将太だろう。
ちなみに将太は母である
「お、料理が運ばれてきて食べ始めたね」
「あなたの分も注文しているんじゃ?」
「そうだけどなんか戻りづらいから君も来てよ」
「い、いや、俺がいても邪魔になるだけですよ」
「いいからいいから、私じゃなくてあの子を助けるために、ということでさ」
いや、助けがいるような雰囲気ではないのだが。
寧ろ俺が助けてもらいたい、ここはこの人が言っていたように走り去ればよかった。
仮になにかを食べるのだとしても敢えてここではなくてよかったというのに面倒くさいからという理由でここにしてしまったことを早くも後悔することになった。
「と、友よ、よく来てくれたな」
「いや、俺の意志で移動したわけじゃないぞ」
「解散になったら二人で落ち着くところに行こう」
「いいぞ、だけどいまは頑張れ」
頑張らなければいけないのはこちらも同じだった。
「はぁ、疲れたぜ」
「俺の方が疲れたよ、喋らないでずっと存在しておかなければならなかったんだぞ」
「まあまあ、それにあの人に会えてよかっただろ?」
「会えてよかっただろと言われてもな」
努力をしたからでもないし、無理やり連れて行かれただけだから微妙な一件だった。
少なくとも向こうからすればそうだ、いきなり変なのがいたら気になるだろう。
「それで将太的にはどうなんだ?」
「どうもなにも少し喋ったぐらいで分かるわけじゃないからなぁ、それにあの人の父さんから教えてもらったことなんだがあれは猫をかぶっていたらしいぞ」
「じゃあ実際は違うのか、暴君とかじゃなければいいけど」
ちなみにもうどんな人間だろうと再婚することは決まっているからあの人達は裕理さんと一緒にあの家に移動した形となる。
「なあ朝士、朝士もあの家に住まないか?」
「嫌だよ」
「だよな、しゃあない、そろそろ帰るか」
「だな」
遠いわけではなかったから彼の家にはすぐに着いた、やたらと真剣な顔で「連絡をするから必ず反応してくれ」と言って目の前から消えた。
こうなってくるとずっとここにいるわけにもいかないから歩き始める。
「待った待った」
「将太なら帰りましたよ?」
この人もよく分からない人だな。
どういう人なのかはちゃんと関わってみて判断をする、が、何故かいきなり興味を持たれていて引っかかる。
それとも最近の若い異性はこれが普通なのだろうか? 仮にそうなのだとしてももう少しぐらいはゆっくりとやってくれなければ付いていけない。
「それは分かっているよ、私は君の連絡先を知りたいの」
「それならまずは将太と交換するところから始めたらどうですか?」
「もうしたよ、だからはい」
「分かりました」
連絡先交換が完了すると「よし、ありがとう」と口にしていい笑みを浮かべた。
「あの、一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「いいよ――あ、君のことが好きになったとかじゃないからね? 私はこういう人間だってだけで」
「そうじゃなくてこの微妙な時期に転校することになって気になりませんか?」
いまは五月だ、テストが終わって少し経ったぐらいだ、それなのにこの時期に転校というのは自分ならしたくない。
「んーせめて四月に合わせてよとは言いたくなったかな、でも、これも子どもにはどうしようもないことだからね。あと、お父さん達だって意地悪がしたくてわざと少し遅らせたわけじゃないから気にならないよ」
「そうですか、教えてくれてありがとうございました」
「うん、それじゃあまたね」
さ、今度こそ外にいても仕方がないから家に帰ろう。
家に着いたらリビングに顔は出さずに洗面所に突撃した。
帰宅したらいつもこうだ、リビングに寄ると会話で結構時間を使ってしまうからそれならせめてやることを済ませてからにしようという考えだった。
「お兄ちゃんお帰り!」
「ただいま」
つかってからでよかった、妹に裸体を見せるような趣味はない。
「お、部活をしなくなっても筋肉がすごい!」
「
高校では入らないことにしたから運動量も減って多分夏頃には残っているそれらもなくなると思う。
「おおげさじゃないよ、本当に筋肉がすごいよ?」
「もう入ったのか? 入っていないならすぐに出るから廊下で待っていてくれ」
「やだなー今更お兄ちゃんの裸を見たぐらいできゃーきゃー言わないよ」
「俺に見せつけるような趣味がないというだけだ」
出てもらっている間にさっさと拭いたり着たりして廊下に出た。
別に逃げようとなんてしていないのにこちらの腕を掴んで「早く行こうっ」とハイテンションな妹、俺がこんな感じだからこそ妹はこうしようと神様が分かりやすく差を作ったのかもしれない。
「それでなんで今日は遅かったの?」
「そういえば朝陽、裕理さんが再婚したぞ」
ずっと探していたのか、ずっと仲を深めていたのか、それとも将太がある程度は大きくなるまでと決めていたのか、の三択だったと考えている。
「えー!?」
「あと将太に義理のお姉さんができたんだ」
「そ、それって大丈夫なの?」
「分からない、ただ、やりづらさはあるだろうな」
俺にできることはやろうと思う。
もちろん求められたらの場合に限るが、友達が困っているなら放ってはおけない。
「明日会えるかな?」
「朝、一緒に登校するか」
「うんっ、朝だけにねっ」
「はは、それはいらないけどな」
そうか、そういえば今日はご飯を食べてきているからここに長時間いる必要はない。
妹に説明をすると「私はもうちょっとリビングにいるね」と答えたので挨拶をしてリビングから部屋に移動した。
「あ」
通知音が鳴って確認をしてみると『よろしく』というメッセージが、なんてことはないからよろしくお願いしますと返してスマホを置いた。
これからどうなるのかは将太とあの人次第だった。
「あ、出てきたよ」
「将太と……ああ、あの人もいるな」
「ふーん、お兄ちゃんってきれいな人が好きだよね」
「なんだよ急に」
俺的にあの人は奇麗ではなく可愛い系だと思う、なんてのはどうでもいい。
せっかく待っていたのに別行動となってしまったら意味がないから近づく、中学生の妹的にはあまり時間に余裕がないのも影響していた。
「将太、おはよう」
「相棒か、おはよう――って、珍しいな、朝陽ちゃんもいるのか」
「おう、ちょっとな」
つか、出てきてくれて助かったが一緒に登校しようとするんだな。
まだ慣れていない場所だからか、それかいまは特に義理とはいえ弟である彼と仲良くしたいのかもしれない。
「加登朝陽です、よろしくお願いします」
「よろしく」
「あの、お兄ちゃんには気を付けてくださいね、きれいな人を見るとすーぐに暴走してしまいますから」
なーにを言っているのか、それこそすぐに暴走をしてしまうのは妹の方だ。
妄想が得意で実際に見てはいないことでも〇〇だよねと決めつけて行動をする怖い人間が妹だった。
家族が相手だと、ではなく、他者が相手だと振り回されることになっても強気に対応することができないから困っている。
でも、妹がいなければいないで寂しくなるからどこかにいってほしいとは思わない。
「ははは、加登君妹さんに言われているよ?」
「妹が勝手に言っているだけなので勘違いをしないでくださいね」
「ふーん、じゃあちょっと頑張ってみようかなぁ」
「やめてください、そういうのは将太にするべきですよ」
場所的に中学校の方が遠いから別れることになった。
頑張れよと言ったら「お兄ちゃんもねっ」といい笑みを浮かべて返してくれた。
こうして仲良くできていると嬉しくはあるが、こうして別れる度にいつまでこのままでいてくれるのかと不安になることがある。
だけどコントロールをしようとすることの方が健全ではないから妹に期待をしておくしかない。
「将太、今日の放課後は約束通り、色々と案内してね」
「おう」
敬語ではないのか、それとこの人もいきなり呼び捨てに、と。
やっぱり陽キャは違うな、昨日の彼は無駄に悪く考えてしまっていただけだ。
多分この先、同じようなことで頼ってくることはないだろうな。
「あ、加登君も来てくれる?」
「将太的にはどうなんだ? 一人で十分だろ?」
頼ってくることはないだろうと片付けた後すぐにこうなるのは違う。
そもそも昨日からこの人がおかしい、陽キャという言葉で片付けられるレベルではない気がする。
「遠慮をするな友よ」
「じゃあ行きます」
「うん、ありがとう。じゃあまた後でね」
じゃあ行きますじゃねえんだよ。
はぁ、明らかに必要がないのに俺も馬鹿だ。
なんだかんだ期待してしまっているということなのか? この機会に異性の友達を作ってしまおうとしているなら……それは気持ちが悪い。
将太の姉だからということでたまたま会話をすることができているというだけなのにこれだからな。
「ふふふ、俺は姉貴の本当の姿ってやつを今月までに見てやるんだ」
「いまのままの方がいいんじゃないか?」
「お、友的にはああいう感じが好きなのか」
「ま、喋りやすくはあるな、だけど俺が言いたいのは――」
「まあまあ、素直になれよ」
そう言って友達のところに行ってしまったから違うとも素直になっているとも言えなかった。
あの人のことになるとすぐにこうなるから困ってしまう。
「朝だー」
「朝だな、おはよう」
「おはようっ」
「ちっ、また教室で馬鹿騒ぎして」
「将太には厳しいな」
別れてからやたらと厳しくなった、それまでは教室でいちゃつくなんて当たり前だったのに差がすごい。
俺としてはどうにかして二人の関係を戻したいところだ、が、残念ながら全くできていなかった。
救いなのは将太が待ってくれているということだ、だからいつだって彼女が素直になるだけで簡単に戻るわけ……なんだがなぁ。
「当たり前だよ、他の人に迷惑をかけたら駄目なんだから」
「朔夜」
「……そんなに見ても変わらないよ、私達はもう付き合っているわけじゃないんだからね」
「朔夜が拗ねただけだろ、いまからでもちゃんと言えば将太は分かってくれるよ」
「い、いいよ」
ちゃんと言っておこう、遠回しに言っても相手に届くことはない。
「俺が嫌なんだよ、またいちゃいちゃを見せつけてくれていいから戻してくれよ」
「朝は私に興味はないの?」
「魅力的だ、だけどそれは将太といてこそだろ」
「わ、私単身では魅力的じゃないってこと!? ぐはぁ……」
「違うよ、俺が特に好きなのは将太と楽しそうにやっている朔夜だってことだ」
好きな相手といるときはどうしたって笑顔が多くなるからな、俺はそれをなにも努力をせずに見られるから得だ。
好きな人間がいるということで勘違いをしなくて済むのもいい、野生の異性は俺にとって危険すぎる。
そういう点であの人はやはり危険だ、その気がないのだとしてももう少しぐらいはゆっくりやってくれないと困ってしまうわけだ。
「なるほど、寝とられ趣味ってことか、好きな女の子が他の男の子と仲良くしているところを見て――」
「はい、馬鹿なことを言っていないで将太のところに行きましょうね」
「ああ! 嫌だー!」
男友達と楽しそうにやっていた将太の前に配置して黙る。
「朔夜?」
「……きょ、今日、放課後って暇?」
「あ、悪い、今日は案内する約束をしているんだ」
「そ、それって女の子?」
「ああ、そうだな」
足りない、どうしてちゃんと全部言わないのか。
昔からそうだ、分かってくれると思っているのかちゃんと全部言わないですれ違いになんてことも多かった。
あと彼が鈍感というのもある、そういうことが起きても「今日はおかしかったな」などと言って終わらせてしまう。
「勘違いをするなよ、義理の姉に対して案内をするだけだ」
「義理の姉!?」
「あ、言っていなかったな、母さんが再婚したんだ」
やれやれ、ちゃんと言ってやってくれ。
可愛くないことを言いながらもいつだって彼に対して期待しているのだ、それをなんとかできるのは彼だけだ。
「ちゃ、ちゃんと言ってよそういうことは!」
「はは、悪い――あ、朔夜も来るか?」
「行くっ」
対象に異性が近づくだけでここまで分かりやすくなるならいつでもそういう存在を確保しておいた方がいい気がする。
とはいえ、俺にそんなことができるなら多分こうなってはいないということで、
「朔夜、朝陽もいいだろ?」
「うん、朝陽ちゃんなら大歓迎だよ」
最強のカードを使用して妹を召喚することにした、丁度部活が休みの水曜日で助かった形になる。
「行こ、朝陽ちゃん」
「うんっ」
だけどこの二人は仲がいいからすぐに効力がないことが分かったのだった。
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