クラスの美少女が俺の召喚獣になってしまった件
国丸一色
入江くんの青春は終わってしまいました。あーあ。
01:入江くんの青春は終わってしまいました。あーあ。
「それでは十分後からジョブ判定をしてもらいますので、いったんトイレ休憩でーす」
担任の平良先生が、騒がしい生徒たちに向けて口を開いた。
都内に位置し、国内でも最大級の大きさを誇る【ダンジョン】。
地下にあるその入り口を外部から守る――あるいは外の日常生活をダンジョンから守る――ために、迷宮管理組合の本部ビルが建っている。
およそ15階建。ダンジョンに挑む探索者の管理からフォロー、遭難救助、ダンジョンでの戦利品の換金など、ダンジョンに関わるありとあらゆる事柄を管掌する
ギルドのジョブ鑑定部は本部ビルの2階を丸々そのテリトリーとしていて、我らが盾馬間学園の一年生総名180人が、その中で騒がしくジョブ鑑定の時間を待っている。
高校進学の年、ダンジョンへの入場権利――すなわち個々人に天より与えられたジョブの鑑定が執り行われるのだ。
「デュフフ……もうすぐ人生いちのビッグイベントが始まろうというのに随分とクールですな、入江殿」
期待や不安で落ち着かないのか、仲の良い友人同士でまとまって騒いでいる同級生たちの輪から少し外れたところで佇んでいると、クラスメイトの益子くんが声をかけてきた。
少し太り気味で厚底のメガネをかけた彼は、少々独特の話し方が特徴的な、いわゆるオタク男子だ。
そして俺と同じく、ジョブ鑑定を待つ間に騒がしく言葉を交すような親しい友人がいない男でもある。言ってて悲しくなってきた。
「ジョブ鑑定で人生が決まるわけでもなし」
「いや! 決まりますぞ! 人生負け続きの我々が逆転満塁ホームランを決めるにはここでレアジョブを引く一手しかありませぬぞ入江殿!」
「急に熱く語るね……」
ていうか益子くんの中では俺の人生負け続きなの? ひどくない?
「ジョブ――ダンジョンに潜る探索者がダンジョン内でのみ発現できる超常能力! このジョブがいかに希少で代えが効かないレアものか否かでダンジョンアタックにおけるその探索者の価値が大きく変わるのですぞ!」
「それってダンジョンに潜る人間にしか関係ないってことじゃないの?」
「甘い甘い甘すぎますぞ入江殿。いまや現代社会においてダンジョンの存在は経済や産業の根幹を為すも同然。ダンジョンに潜らぬ存在の方が稀有! すなわちダンジョンを制すものは人生を制す!」
「いまだにダンジョンは制されてないけどね」
ダンジョンと呼ばれる超常空間が現出して……何年だったか。歴史の授業で習った気もしたがもう忘れてしまった。
ただ、ダンジョンで手に入る様々な物質は、これまでの社会を一変させ、終末時計の針を15分戻したという。よくわからないが、とにかくすごい存在が急に現れて、人間の価値観を色々塗り替えてしまったということだ。
ダンジョンの登場と同時に、人々にはジョブという超常の力もあわせて発現した。このジョブの力がなければ人間はダンジョンに挑むことすらできない。
益子くんが言うように、ダンジョンとジョブは人々の生活に根付いていて、こうして現代社会で生きている限り、その影を感じないことはない。
過激な衣装でダンジョンアタックに挑むダンドルとかいるもんな。剣を振るうたびに薄い布面積で揺れる胸は青少年の目と股間には毒ですね、うん。
「まあつまるところ……益子くんはこのジョブ鑑定で高校生活の一発逆転を狙ってるわけだ」
「高校デビューには失敗しましたからな。美少女ハーレムを狙うにはもはやここで当たりジョブを引く以外にありませぬ」
「えっ。そのナリで何をデビューしたつもりなの……」
「ガチトーンで言われると泣きたくなるのでやめてくれませぬか」
ごめん。つい本音が漏れた。
「当たりジョブが引けるといいね、益子くん」
「お気遣い痛み入りますぞ。しかし入江殿は欲のないお方ですな」
「んーまあ、俺に切った張ったができる気もしないしね」
ダンジョンてのは、お手軽にお金稼ぎができるような簡単な世界ではない。
現代の常識を超えた超常の世界なのだ。入り口が地下であるにも関わらずその中では陽光が煌めき、場所によっては風雪が吹き荒れ、常識の埒外の生命体が闊歩する無情の土地でもある。
前に惰性で眺めていた配信で、蟻型の魔物に生きながら貪り食われてた探索者の悲鳴はまだ耳奥にこびりついている気がする。
「蘇生のお金無いよお!!!」というあまりにも悲痛な叫びが。合掌。
「では入江殿が狙うのは回復士や地図士などの後方支援系ジョブですかな?」
「別に特定の何かを狙ってるってことはないけど、自分が戦うよりは前衛で戦ってる人を応援してる方が向いてるかもね」
「それはどうかと思いますぞ入江殿。自分の身を危険に晒してこそ美少女が股を開いてくれるのですから」
「その性欲100%の発言は逆転満塁ホームランを遠ざけたよ。ほら、そばの女子が引いてる」
「ぬおっ!」
いや気づきなよ。俺は呆れながらも、不用意な発言を同級生女子に聞かれて遠巻きにされた益子くんの肩を優しく叩いた。
「……気を取り直して。入江殿の希望に沿えるのは魔物や精霊を召喚して使役できる召喚士かもしれませぬな」
「召喚士」
「剣士や戦士、回復士などメジャーどころに比べればレア寄りですが、勇者や双剣士ほどの希少系ではございませぬ。拙者としてはやはり軽やかに舞い華麗に敵を切り捨てる双剣士がベストofベスト……。黒マントと背中に背負う双剣はいつまでたっても男の子の憧れです故」
双剣を振るう双剣士がかっこいいのは認める。益子くんの体型で軽やかに舞い華麗に敵を切り捨てられるかは……まあ、夢を見るだけならタダだよね。
内心で結構酷いことを考えているにも関わらず、益子くんは至極真面目に召喚士というジョブについて解説してくれた。ちょっと反省。
曰く、魔物や精霊、召喚獣を召喚して、ペットが如く使役することができるそこそこのレアジョブ。
召喚した召喚獣は主人である召喚士の能力に応じて大幅な強化を受けることができるし、ダンジョンの外でも少し力が落ちるものの使役が可能。
使役可能な召喚獣の数には限りがあるけど、召喚士の能力に応じて増えていくとか。
反面、召喚解除には面倒な手順を経る必要があるが、手っ取り早いのはダンジョンで召喚獣の命を散らせるか、召喚士が命を落とすことらしい。結構めんどくさそう。
「まあここまで詳しく教えてもらっても、俺のジョブが召喚士になるって決まった訳ではないんだけどね」
「ダンジョンの女神が見ているかもしれませぬ。口に出しておいて悪いことはないのではないですかな。というわけで拙者は双剣士のジョブを手に入れてイチャイチャラブちゅっちゅなハーレムダンジョン青春ライフを送りますぞ! 予祝ですぞー!!」
「いや、だから周りの女子が引いてるよ益子くん」
首尾よくレアジョブを手に入れることができたとして、性欲が表に出過ぎている益子くんが無事に青春ダンジョンハーレムを手に入れることができるのだろうか。
デュフデュフと厭らしい笑みを漏らす益子くんからそれとなく距離を離しながら、俺は「休憩は終わりでーす、集合!」と声を張り上げている平良先生の方へと足を進めた。
鑑定を心待ちにしている益子くんを見ていると、少し俺もその熱に浮かされてしまったかもしれない。ちょっと楽しみなのは否定できないところだ。
さて、もうすぐジョブ鑑定がはじまる――。
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