小説家じゃない

エリー.ファー

小説家じゃない

 愚痴みたいなものさ。

 一体、ここからどこに行けるのかって話さ。

 ワインを飲んで。

 ビールを飲んで。

 八町辛味をつまみにしてさ。

 でも、もうおしまいだ。

 これで最後。

 あとは愚痴のオンパレードさ。

 さっきだって、メロンソーダをこぼしちゃって壊しちゃったんだ。

 おかしくなってくるよ。

 自分の積み上げたものが、全くの無駄だった可能性があるんだから。

 つまらないよな。

 そういう人生だけは生きていたくなかったんだ。

 本当さ。

 本当だよ。

 終わりが近づいているような気がするんだ。

 どういう意味なのか分からないけどさ。

 でも。

 こういうのって、結構、外しちゃうんだよ。

 勘が良い方なんだけど。

 不思議と、こういう時は外れるんだ。

 生き残っちゃうんだよなぁ。

 なんでだろうね。

 求められてるんだろうね。

 自惚れだけど。

 才能はあるんだろうね。

 他人の努力を潰せるほどではあるんだけど。

 ていうか。

 その繰り返しなんだけど。




「小説が好きなんですか」

「書くのが好きなんです」

「書くだけじゃなくて、読むのも好きというわけではないんですか」

「何とも言えません。書くことが好きなのは確実である、というだけです」

「好きなのですか。楽しいわけではなく」

「単純に、定義の問題です」

「では、定義しますか」

「いや、やめておきます」




「読書について、どう思いますか」

「それよりも、踊りませんか」

「誰とですか」

「私とです」

「あなたは誰ですか」

「誰にでもなれます」

「それが読書の本質ですか」




「読み手の気持ちを無視してはいけませんよね」

「物理法則に関係していますか」

「いいえ」

「違法ですか」

「いいえ」

「答えは出ているのではありませんか」




「狂うまで書く」

「書いてから狂う」

「骨になるしかない」

「この問題が最も重要だ」

「何もかも盗んでやる」

「何もかも奪ってやる」

「殺す」

「ぶっ殺す」

「どんな手を使っても殺す」

「必ず殺す」

「お前を殺す」

「殺す」

「死ね、ではない。殺す」

「確実にぶっ殺す」

「すべてを奪って殺す」

「奪い尽くして殺す」

「すべての手段で確実に殺す」

「そして」

 この手は一切、汚さない。

 清潔。

 すべてである。




「本を読む時に必要なものはなんですか」

「珈琲です」

「紅茶はいかがですか」

「ケーキも欲しいですね」

「ゼリーはいかがですか」

「ドーナッツもいいですね」

「ポテトチップスもどうぞ」

「踊り明かしましょう」

「いえ、小説を読みたいのです」

「何がお好きなんですか」

「小説です」

「本ではないのですか」

「えぇ、本ではありません」




 断片的な会話では、何も作り出せないだろう。

 青く見えるのは、あなたが未熟だからだ。

 発生条件は整った。

 もうすぐ、すべてが終わりに向かい始める。

 しかし。

 これはあなたに向けた終わりだ。

 私の始まりである。

 さようなら。

 そして。

 さようなら、さようなら。

 もう一度。

 さようなら、さようなら、さようなら。

 



 ふわりと香るような小説が書きたいのです。

 どうか、お願いします。

 ほら、ここから始まるすべてです。

 人生ではなく、世界が輝くのです。

 いや。

 積み上げたすべてで相手を殺す瞬間を。

 芸術に仕上げるための時間が必要だとは思いませんか。




「小説とはなんですか」

「小さく説くものです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説家じゃない エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ