第3話
ポレットは運ばれてきたガレットをやけ食いしながら心の中で号泣した。最近読み始めた恋愛小説のような展開を期待した自分を心底呪った。
(なによ、なによ、女の子を馬鹿にして。宝探しなんて馬鹿な男子同士でやればいいじゃない!)
その威勢の良い食べっぷりををやる気の表れと勘違いしたジュリアンは身を乗り出して懇願した。
「ポレットにしかお願いできないことなんだ。君はクラスで一番喧嘩が強いから、何かあった時にきっと僕を守ってくれると思ってさ」
この追い打ちにポレットはがっくりと肩を落とした。
(ジュリアンの目に映る私はただの暴力ゴリラ女だったのね……)
彼女の心の中の涙が現実の目にまで染み出てきた。
「あんたねえ、宝探しだかなんだか知らないけれど、普通女の子にボディガードを頼む?そうですよねえ?」
同意の視線を送るポレットにマチアスは苦笑いをした。
「それだけジュリアン様はポレット様を信頼なさっているのですよ。先日の武勇伝は私も聞かせて頂きました。驚きですよ、このような可愛らしいマドモアゼルが悪童を張り倒してしまったのですから」
「いや~、それ程でも……」
ポレットは頬を人差し指で掻きながらヘラヘラと照れた。
(か、可愛らしい……。私、マチアス様に可愛いって言われちゃった!)
「それにご安心ください。私目も道中ご一緒させて頂きます」
「ええ?マチアス様も一緒に行くんですかあ!?」
「マチアス"さま"ってなんだよ?」
打って変わって俄然テンションの上がったポレットの様子をジュリアンは不満げな表情で、マチアスは少し困ったような表情で見た。
「ジュリアン様の御学友であるポレット様にそのような敬称で呼ばれる訳にはいきません。これは立場の問題なのです」
「あら、私はあなたとは主従関係ではないはずよ。なら私がどんな呼び方をしても問題ないですよね!」
マチアスは少し考え込むような表情をした後に諦めたように笑った。
「一本取られました。確かにポレット様に呼び方を無理強いする筋合いはないですね」
「で、ポレット。どうかな、もし君が……一緒に来てくれると嬉しいな……」
ジュリアンは言葉も途切れ途切れに不安げな表情でポレットを見た。
「行く行く、絶対に行く!確かに
「本当かい!?」
ジュリアンは思わず身を乗り出した。
「ん?でも……」
顎に人差し指を添えたポレットには当然とも言うべき疑問が思い浮かんだ。
「でもマチアス様が一緒に行くなら、別にボディガードなんて要らないんじゃ……」
「その宝は大人が立ち入ってはならない神聖な場所にあるんだ。そこからの護衛を君にお願いしたいのさ」
「神聖な場所?」
「アポリネール家の歴史が始まったとされる古代遺跡の深部のことさ。代々パパの一族が管理しているんだ」
「へえ~、やっぱりお金持ちともなると古代遺跡まで所有しているのね」
アポリネール家はそんじょそこらの金持ちではない。この国内最古級の一族が所有する企業グループの主力事業は貿易業だが、金属工場、運送会社、レストラン、キオスク、農場、警備会社など他にも幅広いビジネスを手掛けており、売り上げベースでは国内でも30指とさえ言われている。遺跡の維持・管理など造作もないだろう。
「アポリネール家の男子は、10歳になったらここの遺跡に収められた宝を一つだけ取りに行くというのが代々の習わしなんだ。数ある宝の中で持ち帰った一つが自分の運命を決めるだろうと言われているのさ」
「数ある宝物?すごいじゃない!宝箱に収められた宝石やざっくざくの金貨とかもあるのかしら。ねえ、私も持ち帰っていい?」
「一族以外の人間が宝を持ち帰った場合、生涯呪われるという言い伝えがあるんだ。どちらにしてもうちの警備に身辺チェックをされるから無理だと思うけど」
「冗談だって。言ってみただけよ」
(危ない危ない、呪われるなんてまっぴらごめんだわ)
ポレットは太陽、笑顔、取り敢えず言ってみるのは
「別の言い伝えもあって、この試練を受ける男は"慈悲、知恵、勇気"の三つどれも欠けてはならないと言われているんだ。このしきたりはアポリネール家の男児が一人前になるための通過儀礼なのさ」
「三つ目のやつ、もう駄目じゃない」
「う、うるさいな、別に一人で行くことだけが勇気じゃないだろ?」
マチアスが相変わらずのスマートさでジュリアンに助け舟を出した。
「ジュリアン様は既に勇気を持ち合わせております。自らの弱さを認めて人に頼み事をするというのは、とても勇気がいることなのですよ」
白いものでもマチアスが黒と言ったら黒なのだ。ポレットはジュリアンに対する前言を即座に撤回した。
「た、確かにその通りだわ!恥を忍んで頭を下げるってことだもんね。ジュリアン、この貸しは高いから覚悟しときなさいよ」
「もちろん、それ相応のお礼はさせてもらうよ」
「で、出発はいつなの?」
「その……言いにくいんだけれど、明日なんだ」
「あしたぁ?」
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