1-10 三人目のメインキャラ

 ただ幸運なことに、エドモンド副会長の時と違って、あちらはまだ私に気づいていない

 私に気づく前に、こっそりこの場を去りましょう


 抜き足、差し足、忍びあ……


「おーい、そこの君」


 間違いなくフェリックスの声

 あー、“私に”じゃないよね

 中庭にいる、他のだれかに呼びかけているのよね


「君だよ。そこにいる君」


 おーい、中庭にいるだれかさん。呼んでますよ


 どうやら返事がないみたい

 ならばここで親切なこの私が

 ぼーっとしているだれかさんを見つけて

 あそこで呼んでますよって教えてあげましょう


 キョロキョロと中庭を見回す

 えっ、ちょっと待って

 さっきまで私のことをチラチラ見ていた生徒が数人はいたはずなのに

 いまに限ってどうしてだれもいないの!


「そこのキョロキョロしている君」


 はい残念

 私のことで確定です


「僕のことですか」

「そうそう。ちょっと助けてほしいんだ」


 いくらキケンな香りしかしないとはいえ、困っている人に「助けてほしい」って言われたら、助けないわけにはいかないよね

 ついさっき自分のことを「親切」って言っちゃったし


 私は彼のもとに歩み寄った


「どうしました?」

「実は食堂の場所がわからなくなって」


 うん、たしかに心底困っているみたい


 えっ、でも、食堂の場所がわからない?

 フェリックスは二年生だよね

 いくらなんでも食堂の場所くらい覚えているよね


 ここで私は『うるわしの君たちへ2』での設定を思い出した

 そう、たしかにフェリックスは二年生なんだけど

 彼は最近、母国の学校から、このガスパール学園の二年生に編入されたばかりだったってことを

 つまりこの学園に来て、まだ一週間ほどしか経っていないってことを

 なら、食堂の場所がわからなくなっても仕方ない


「昨日まではどうしていたんですか」

「ああ。昨日までは付き人が全部付き添ってくれていたんだけれど、彼は今朝急に体調を崩してしまって」


 なるほど。そういうことね

 ゲームでもお付きの人がいてたわね


 でもいまのフェリックスの口調、体調を崩したというお付きの人に対して、すごく心配した様子だった

 ゲームでもえらぶるところが全然なくて、お付きの方々かたがたにも気配りできる出来た人

 多分そのお付きの人に対しても、「大丈夫。今日一日くらい僕ひとりでやれるから」とか言ったに違いないわ

 だからそんなフェリックスにつかえるお付きの方々かたがたも、「このかたのためなら」って思っちゃうと思うのよね


 ならばここで親切なこの私が

 困っているフェリックス君を助けてあげましょう

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