0-8 壁

 お母さまの目が白黒するのを見るのはちょっと愉快だったな

 やがてお母さまはふうっとひとつため息をつかれた


「はあ、何を言い出すのかと思えば」

「もう決めました。名前は何にしようかな。ジャンヌだからジャン。でもそれだけじゃつまんないわね。そうだ! ジャン=ポールがいい。私は今日からジャン=ポール・ド・モンテルミエ。ド・モンテルミエ家の三男、ジャン=ポール・ド・モンテルミエよ」


 収まるどころか、よりいっそうヒートアップする私を見て、お母さまはちょっとあきれ顔になっていた


「ジャンヌ、あなたはそこまでして学園に入りたいの」

「もちろんですわ、お母さま」

「でもどうして」


 もちろん「BLを実際にこの目で見たいから」とは口が裂けても言えない


「お父さまがおっしゃった通りですわ。私は私の才能を伸ばしたいのです」


 うそも方便って言うし、これくらいなら許してもらえるよねっ


「でもジャンヌ、わが家が二男一女なことは王国にも報告済みです。それをいまさら変えるわけには」

「あら、それなら簡単ですわ」

「えっ」

「お父さまに隠し子がいたってことにすればいいんじゃありませんか」

「な……」


 お母さまの呼吸が止まった。目はまんまるに見開かれている。「隠し子」っていうのは刺激が強すぎたかな


「『ジャンヌが実は男の子でした』はさすがに無理があるでしょ。だからお父さまが若かった頃に市井しせいで生ませた男の子がいるのがいまになってわかったってことにすればいいんです。ジャンヌとジャン=ポールはおない年だけれどあくまで別人。そういうことにすれば王国の方でもダメとは言えないでしょう」


 うん。自分で言うのもなんだけど我ながらいいアイディア

 でもお母さまはどこまでも慎重


「でも万が一、女の子だとバレるとまずいことになりますわよ」

「その時はその時です。いさぎよく退学を受け入れますわ」

「いいえ、おそらくそれだけでは済みません」

「えっ」

「まず考えられるのはシモンも知っていたということで処分は免れないでしょう。さらには」

「さらには」

「下手をしますと王国をだましたという罪でわが家にも何らかの処分が下されるでしょうね」

「たとえば」

「まあ、そこまではないと思うけれど、最悪の場合、お取りつぶしも考えられないことは」

「そんな」

「せめて王宮に顔がく人間がひとり、味方についてくれればいいんですけれど」

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