第2話 12時腹減ったなぁ

あれから何事もなかったようにジルは、仕掛けて来なかった。夏休みも過ぎ2学期が始まった。サムも相変わらずだ。何も起きない。何も変わらない毎日が過ぎる。ただ変わったことはサッカーの練習続きで僕の顔がヒリヒリ日焼けしたぐらいだ。ただ、正直物足りない。戦いわけではないが、何かしらの敵の存在を僕は求めているのかも知れない。ただですら異次元から来た僕だ。この世界に来た当初は珍しいものばかりで楽しかった。普通の家族に紛れ込み普通の高校生を演じ、しかし演じていたのは一瞬であとは自然に楽しんでいた。毎日が僕にとっては刺激的だった。1階層の僕らは音の言葉を持たない。会話はすべて脳内の電波で話す。だから口が極端に小さい。口はエネルギーを吸収するストローを通すくらいだ。だからこの2階層に来たときは驚いた、みんな口は大きいし、その口から音だ出ているし、いわゆる言葉を発して会話をしている。声の大きさには個人差があって小さくて授業中、先生から「もっと大きな声で答えてください。」とか言われる女子もいる。僕は心の中で”彼女は可愛い”からちょっとぐらい小さくてもいいじゃないか。先生をついにらみたくなる。僕らからすれば声は”ナンセンス”。その女子生徒の声の問題じゃなくて人間そのものの生命体の作りの問題だ。だから僕は何度も脳内電波、2階層ではテレパシーというようだが、僕らのように電波を使えばいいのにと何度も思った。しかし2階層の人間の体は数えきれないくらいの複雑な細胞でできているようで口を大きく開けたりお腹の筋肉を使う腹式呼吸だったり。オペラ歌手のように。腹話術師だったり。とにかく複雑だ。無駄が多い。そういえば僕ら1階層の容姿は2階層で言う”宇宙人”によく似ている。きっと僕ら1階層の誰かが”ヘマ”をして2階層の人間に捕まったんだろう。だから結構地球上、場所は関係なく同じような目撃情報があるようだ。それからこの世界と大きく違う点がもう一点。1階層では家族の単位ではなく、自分の所属が専門分野ごとに構成されている。例えば植物分野担当、エネルギー分野担当、アート美術分野担当、その人の個性や能力がそのまま、その人の配属先となり所属することとなる。平たく言うと上下がなく1階層全体がいちフラット家族のようだ。もちろん貧富の差も何もない。ただ得意な分野での貢献で十分満たされている。個人も1階層全体も。この2階層からするとありえない状況だ。ここは競争社会だ。それに2階層では家族単位が基本だ。僕もしっかり家族に溶け込んでいる。生物学上、顔は家族に寄せている。しかし家族の性格はバラバラだ。高3の兄は年上好みで。僕は年下好みだ。父は同級生の母と結婚している。家では親の言うことを聞いて、たまにどこか家族旅行に連れて行ってもらったり、バースデーやハッピーニューイヤーにお小遣いをもらったり。親の監視下、保護下の元にいれば安心だ。安全だ。学校では提示される課題をクリアーし結果を出せば認められる。順位もつく。スポーツでもそうだ。体力勝負だが、上下、貧富も生まれる。ただし僕はサッカーでは1階層の特殊能力は使わず、ただの高1レベルで楽しんでいる。それに2階層で言うと僕は25歳のおじさん、いやお兄さんさんだ!まあ、とにかく本当にこの2階層は1階層とはシステムから違い過ぎる。多少不満もあるし、物足りない。しかし1階層、未開拓地エネルギー課、所属の僕にとっては腕がなる。2階層の解明と共存、僕らの利益をなる情報収集が僕の目的だ。2階層潜入から1年が経つ。そろそろ成果を出さなければ。『そうだ、そうだ。陸。がんばれ。』上から目線のサムの声が聞こえてきた。『おい、サム。学校じゃ、緊急以外は脳内電波使うなって言ってるだろう。』『ごめん。怒らないでくれよ陸。新情報ゲット。”ジル”覚えているか、奴、ここの生徒だ。しかも中等部3年。校舎が違うからわからなかったが今朝、文化祭の件で中等部の職員室に行ったんだ。その時にジルがいた。かなり優等生ぶってたぞ。生徒会のことで先生と話していた。しかも眼鏡かけてたし。』『それで、ジルはお前に何か言のか?』『あー、言葉で「サム先輩、おはようございます。」って。』『先生が「おまえら、知り合いか?」「はい。以前同じ学校でした。」「そうか、前原、お前も一条も転校生だったな。」って感じだった。それにすれ違いざまに脳内電波で『サム、陸にも、もうすぐだと伝えろ。』だって。『それってあの時の12時。12時に開戦って意味なのか。』『まずい。サム。屋上だ。屋上に行くぞ。』僕は1階層からの電波をキャッチした。サムと屋上に駆け上がった。無数の電磁波の波が上空に渦巻いている。校庭には体育の授業で生徒たちがグランドをかけている。上空の異変に気付いていないようだ。「サム。これはまずい。」上空の電磁波の波から羽根を持つ人間型兵器,ビートンの群れが降りてきている。サムが上空を見上げながら「陸、あれだ。2階層の人間を物色して3階層で改造兵器していたんだ。」『陸。見たか。これからすべての2階層の人間を3階層へと送る。そしてお前たちの1階層を破壊し乗っ取り支配する。』ジルの声が脳に響く。「サム思い出したぞ。彼は我々未開拓地エネルギー課の元配属のジルだ。未開拓地はエネルギー開拓に時間がかかるため、別の階層から強奪すると主張し課を追われたジルだ。」「そういえばいたよな、そんな奴。忘れていたよ。」「そうだ、ジルはあまりの強硬派のため1階層を追われ3階層以下に落ちたと聞いていたが。サムとりあえず、僕らで食い止めるぞ。」「はいはい。お任せあれ。」「それにサム、こんな時に言うのもなんだか、僕は今グランドの女子の体育の授業見るの好きなんだ。特にグランドの持久走。髪がなびき、きれいだよなあー。」「陸。それは僕も同じだよ。ではそれを壊さないようにやりますか。」二人は両手を上げ空に放っ半数のビートンは上空で消滅した。しかしまだかなりのビートンが上空を旋回。「1階層の援軍はまだなのか。くそー。」「ピーッ。」校庭で体育の先生の笛が鳴る。ラスト1周。終わったら昼休みだぞ。女子達がきゃきゃ言いながらグランドをかけていく。もう一度「ピーッ。」笛が鳴る。それと同時に「キーンコーンカーンコーン。」鐘がなる。女子達がグランドで騒いている。”お腹空いたー!。ひときわ大声の子がいた。次の瞬時にビートンの群れは消えた。「くそー。次だ。16時だ。」ジルの声が聞こえた。そして空はいつもの青空になった。「なあ、陸。何が起きたんだ?」「わからない。」「1階層の援軍じゃないよな、今の。」「あー多分違うな。」ビートンが消える少し前、僅かに何かがグリーに光った。もしかして僕らが追い求めている2階層のエネルギーの手がかりなのか。「まあ、いいや。陸、昼だぜ。学食行こうぜ。」「そうだなサム。」「12時だ。腹減ったなあ」



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