異次元シートの電車

京極 道真  

第1話 朝6時の車内

僕はいつもの駅に向かった。夏だというのにこの時間は空気がひんやり。気持ちがいい。空気をたくさん吸いたくなる。朝の空は薄いグレーだ。夏休み3日目。今日はサッカーの練習試合だ。少し遠い学校まで行く。1年生の僕は道具運び。狭い改札を通りホームに向かう。肩にボール3個。軽いが肩に食い込む。電車が来る。電車のライトが光る。”ビューン”風が吹き車両がいつも通りに止まる。午前6:01の電車だ。ホームには僕と、もう4,5人遠くにいるだけだ。電車に乗り込む。ラッシュの混雑に比べれば幸せなくらい”ガラガラ”だ。ドア付近で待つこともない。快適だ。特にこんな大きな荷物を持っている時は、なおさらだ。「ピー。」ドアが閉まる。乗り込む。車両内も”ガラガラ”さすが夏休み午前6:01の電車だ。同じ車両にすでに3人が乗っていた。それぞれ大きく間を開けて座っている。僕は奥のドア近く3列シートに座った。ボールを縦に置きたかったし。開く方のドア側だといちいち人の出入りを気にしなくてはいけないからあえてそこは避けた。静かな電車内。”ガタン。ガタン。”レールと車両の音が響く。僕は真正面に誰もいない席越しの窓を見た。微かに朝日の光が見えた。”ガタン。窓?”しまった。”僕はいつもの地下鉄に乗っていた。窓の景色なんか見れるわけない。”しまった。”僕は使ってはいけない”あの力、あの目”で見てしまったようだ。僕の目がグリーに光る。誰かが僕を呼んだ。「ガタン。ガタン。」隣の駅が遠い。神楽坂から飯田橋、こんなに遠かったか?僕の頭の中であの力を抑え、僕は僕から逃げるように現実世界の時間を探した。しかし遅かった。「もう、はじまったよね。」声と同時に僕の目の前の席に制服を着た小学3年生ぐらいの女の子が3人現れた。魂だけ。そして僕に「ねえ、陸。担任の先生が嫌いなんだけどどうしたらいい?先生消して。」「私も嫌い。」「私も。」3人そろって先生の悪口を言い始めた。僕はいやいやながらも仕方なく話に付き合った。小学生たちは、きっと頭のいい子たちなんだろう、口の利き方が大人の女の人のようにこましゃくれている。”嫌いだ。”子供は子供らしく無邪気であってほしい。半分僕の願望だが仕方ない。あの子たちもただの人間だ。そうだな、ちょっとかわいそうだが、カエルの世界にでも行ってもらおうかな。そう頭の中で考えた瞬間小学生3人は、カエルになっていた。そして電車シートの中の池へピョン。”消えた。”また、ぼくやっちゃったみたい。でも仕方ないよね。呼んだのは君たちだからね。”言ったことは自分に跳ね返ってくるよ。”「ガタン。」電車が駅に止まる。飯田橋。ホームには意外と人がいた。5,6人ほど同じ車両に乗り込んできた。『おはよう、陸。そうそう今、3人送っちゃた?カエル。』僕の頭にサムの声がする。よく見ると斜め左の7人掛けのシートにサムが座った。ぼくらは同じ世界から来た同級生だ。いわゆる異次元のパラレルワードから来た。『サム、その言い方は、ひどいな。あの子たち3人は4月からずーっと悪口ばっかりで、聞いている僕の身にもなってくれよ。飽き飽きしていたところだ。』『でも陸、体を抜けて魂だけで来てても、やっぱり生きている小学生だぞ。それも3人消すのはまずくない。』『もともといなかったことに上書きするからいいさ。どうせこの世界は2層階。1階層の僕らの世界を壊さないし影響もない。ただし3階層以下のことは知らない。”ゆがみ”の波は一方向のみに伝達。下に下に行く。』『ところでサム、こんな朝早くどうしたんだ、君がこんな早起きするあんて、なにか特別なことでもあるのかい?』『どうしてって?君が聞くの?僕はパラレル世界から最近よく人間が姿を変えられて送られてきている。3階層に侵入しすぎて毒されてきた。もう、人間を送るなと。それに誰の仕業か確かめてくれって命令があったから調査しに来たんだよ。』『へえーそうなんだ。大変だね。』『陸、原因は君。君だよ。』『僕?どうして僕が?』と思いながらもサムに聞いた。『ねえ、サム。これは僕が好きでやっていることじゃなくて人間の本心が僕に言ってくるんだ。真面目な僕はそれを見過ごすことはできないし、僕らの先生も”自分で言ったことは自分に跳ね返ってくるよ。”って、いつも言ってたじゃないか。サム忘れたのかい?』『陸、その通りだ。陸の状況は把握した。そうすると別の奴らが意図的に3階層をコントロールしようとしている噂は本当のようだ。』3階層に送られてきた人間をつかまえてエネルギーを吸い取り、3階層を支配しようとしているようだ。『僕ら以外にもあの力を使えるパラレル人が、この2階層にいる?』『噂によると彼らは電車内で人間を物色しているようだ。人間の個体エネルギーはかなり高く、比較的抵抗力の少ない学生は貴重だ。それに朝の時間は比較的、魂だけ電車に飛んでくることが多く、特に午前6時の電車には学生の魂が多い。』『そうだな、今の小学生たちも魂だけだった。それに朝は何かと学生は眠いからな。頭がボーっとしている。今の僕のようにさあ。』『陸、これで僕がこの時間になぜ乗車してきたってこと。納得したかい。』『あー。了解。ところでサム。気づいているよな。』『あー。陸、隣の車両の奴だろう。』『そうだ、彼は陸が小学生をカエルに変える瞬間、網を出した。光線で、できた網だ。カエルが異次元の池に飛び込むのが速かったから間に合わなかったみたいでとても悔しそうだった。もちろんまわりの人間たちには何も見ない。』『ところでサム。彼は僕らが彼のこと気づいている?しってるのかな?』『お前ら馬鹿じゃないの。』隣の車両の奴が言った。『さっきから君たちの会話全部聞こえてたし陸、よく、覚えておくがいい、電車のシートは異次元へとすべてつながっている。3階層は僕たちリバイバルが支配する。そして時機に1階層のお前たちを攻め落とす。そしてすべてのパラレルワールドを我々リバイバルのものにする。ぼくたちは君たちを追撃する。陸、サム、次の戦いは12時だ。』『君、名前は?』『ジル』「ガタン。」電車が止まる。そう言ってジルは九段下で降りた。『ジル?』どこかで聞き覚えのある声だった。

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