第65話 エピローグ

 パフェづくりに失敗したショックのあまり、二胡は引きこもってしまった。


 鍵をかけて出てこないのでランはたいへん困ったが、そっとしておいてあげよう、と放っておいた。


 そのまま、ネザを立つ日が来てしまった。


「今日という今日は出てきてもらわないと!でも、どうしたらいいかしら…」


 全く出てこないところを見るに、二胡の落ち込みようはかなりのものなのだろう。


 できれば傷心を癒やしてから出てきてほしい。


「ラン様、これを使っては?」

「…なるほど。目には目を、ってことね」


 ランは作戦の成功を確信した。


 ◇◆◇


 二胡たちは部屋で一週間も何をしていたのかといえば、無邪気の研究だ。


 わかったことは、主に3つ。


 1つ目は、無邪気が受け入れる「邪気」はどこまでか。

 2つ目は、無邪気の吸収能力が適用される対象・容量。

 3つ目は吸収したものを定着させる方法。


 無邪気が弾かないのは、


 ・そもそも邪気を抱かないもの。

((大精霊、ランなど。

 ・二胡に対して邪気を抱かないもの。

((聖剣、魔剣など。

 ・今現在邪気のないもの。

((リアン、執事、フェンリルetc。

 ・邪気の対象が二胡ではないもの。

((ラズ、国王、ルナ、リーナ、レーナ、リーマン伯爵、ルル少年etc。

 ・敵対意志はあるが邪気ではないもの。

((ゼペット、姫さんとヤ〇〇たち、フェンリル父、ブラックリザードマンetc。

 ・邪気はあるが行動に移さず、移したとしても脅威になり得ないもの。

((リーマン伯爵邸の盗賊、ロー君etc。


 である。


 また、無邪気の吸収量に上限はない。吸収するものだが、エネルギーに限られるようだ。例えば、家具を吸収することはできなかった。


 ただ、家具はできなくとも水は吸収できた。


『固体はだめなようね』


 大精霊先生はそう結論づけた。果実を吸収してみたところ、水分のみ吸収できたので、信憑性は高い。


 エネルギーは吸収できるので、例えば木の魔法の発動を、吸収することで妨害することができた。


 


 どんな魔力がだめなのかは、わからない。


 大精霊曰く、


『これはエネルギーなら何でもありかもね』


 とのことだ。結局、吸収できるものの特徴は分からなかった。


 最後に、吸収したものを定着させる方法だ。

 実験の結果、定着させられる物とそうでない物があることがわかった。定着させるのは至極簡単で、単に意識するだけだ。


 魔力を定着させると、魔力が回復することも確認できた。


「大いなる可能性を感じたわね」


 実験結果を見て、久しぶりに実体化した大精霊は満足そうだ。


「…そういえば、大精霊を吸収するのはできるのかな?実体化してるし、触れるけど固体とはちょっと違うんでしょ?」

「え…う、うーん、どうかしら?」


 あまり乗り気では無いようだったが、大精霊は腕を貸してくれることになった。


「まあ、再生できるし、痛みはないし…大丈夫だわ」

「じゃあ、吸収するよ」


 大精霊が差し出した腕は、いとも容易く吸収された。


「え、えっと、どう?っていうか吸収できるんだ…」

「定着はできそう?」

「定着はできたけど、なんだろう、体の中で大精霊の因子みたいなのを奪い合ってる感じがする。これは当分使い物にならなそうだよ」

「そ、そう…」


 大精霊は「なんですぐに定着できてんだよ!そもそもの魂の形が違うはずなのに!」と叫びたかったが、やめておいた。


 扉がノックされたからだ。


「二胡?ちょっといいかしら?」

「ラン。どうしたの?」

「今日はもう出発の日よ。パフェをじいが作ってくれたから、一緒食べて、出発しましょう」

「! うん!!」


 尻尾をふりふり二胡がランについていった。


 もとに戻った大精霊は、指輪の中でため息をついた。


(はあ。…うんまあ、二胡くんだもんね。うん、そうだね)


 二胡だから、という理由で納得し、ランと二胡のラブラブシーンに思いを馳せる。それと同時に、苦笑していた。


(私も変わったわね…。前なら、もっと真面目に考えて、報告でもしてたでしょうけど)


 ことあるごとに『気楽だよ〜』と魔剣を勧誘する聖剣の気持ちが、少しだけわかった。


 ◇◆◇


「は…っや!」


 執事は驚いていた。傍目にも二胡は速かったが、実際に体験するとその凄まじさがわかる。


 厳密にいえば、運んでいるのは二胡ではないのだが。


(誰だろう、この美形)


 見覚えのない美形が三人現れ、ランと執事を抱えて走り出した。


 心なしか、二胡より遅い気がするが、執事たちに合わせているのだろう、と納得する。


「すごいわ!」

「よかったわ。ねえラン、どこで寝ようかしら?」

「そうね…おすすめは?」

「木の上のハンモックで寝る、とか?」

「いいわ!」


 美女とランが仲良くなっている。いや、喜ばしいことなのだが。


 じゃあ野朗に抱えられてる自分は何なのだ、とちょっと悲しくなる。


 二胡は横をぼ〜っと並走しているが、頭の中は多分まだパフェでいっぱいだ。


 何しろ、二胡の設計通り、レモンモドキたっぷりで作ったのだ。


 材料費はなかなかだったが、ランが楽しかったのならそれはそれでいい。


 執事は、とりあえずこの風変わりな旅を楽しむのだった。

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