サイレント・シーベット

のぶよし

プロローグ

プロローグ

2029年10月23日 国会議事堂 国会(臨時会)




3,40代であろう男性議員が1人席を立ち、大勢の議員の前に立って、他党から自分の質疑応答の為に時間を割いてもらったことに感謝の言葉を話し、前に座る総理の方へ視線を向ける。


「時間があまり与えられていない為、端的にご質問致します。」


「総理、近年アメリカを主に、女性の活躍の場を増やす、また減少する海軍や海上保安任務を行う機関の士官減少の解決案として、前期中等教育を修了した女子生徒を対象とした海上保安業務を行う機関及び軍の士官養成学校、通称IMCを新設するという動きがあります。」


そう言うと、すぐ後ろに座っていた他の男性議員へ合図を出してカメラと総理に一枚ずつパネルを向け、質問を続ける。

パネルには女性士官学校の計画の詳細と思わしき文章や図が見やすい大きさで記載されていた。


「先月の日米首脳会議で総理はスティーブン大統領合衆国大統領の提案するこの計画に参加する意志を伝えたと一部メディアが報道しています。またアメリカを含む1部の国から正式に計画参加の打診が外交ルートで来ているとの報道もあります。これらは本当なのでしょうか?」


中央に座る中年細身の女性議員が挙手し、議長に名前が読み上げられ目の前にある机まで歩き口を開く。


「えー、スティーブン大統領との会談で、そのような議題があった事、また打診についても、どちらも事実であります。」


どう言うことだ!という野党のヤジが部屋の中を飛び交い、少しして議長から注意される。


総理は静かになるのを待ち、深く息を吸って答弁を続ける。


「しかしながら、これらの議論は始まったばかりであり、憲法や法律、他国との協力、その他様々な理由により決断を下すのは時期尚早として、スティーブ大統領には年度末までの返答を条件に未だ回答をしておりません。」


先程まで質問していた男が手を挙げ、議員の前に立つ。


「総理、現段階で、今の段階でその計画に参加するつもりでいるのでしょうか?」


再び女性議員が手を挙げて説明する。


「この計画に関しては政府内で話が纏まりしだい、改めて皆様に説明させていただきます」


質問者である男性議員は何かをアピールするかの如く大きくため息をつき、ゆっくり手を挙げ大きく身体を動かして席を立つ。


「総理?質問に対しての回答がなっていませんよ。どうなんですか?参加するおつもりなんですか?」


どうなんだ!と言うヤジを待つかのように質問する議員は間を開け、ヤジが飛んでから質問を続ける。


「この計画にはですね、第二次世界大戦時に使用された艦艇の形状に、現在の技術を導入する事によって、当時の性能を上回らせた艦艇とですよ、安全に支障が出ない程度の威力を持たせた、威力を持たせた様々な訓練弾を用いて実戦のような訓練を行い、実戦で求められる判断力と、兵装を扱う技術の向上を目的とすると記載されているんですね。」


質問者は息を吸い大きく声を出す。


「まずですよ、そんな予算どこから持ってくるんだと、そしてですね、威力を持たせた訓練弾を用いてとありますが、もしこの訓練弾がその女子生徒に直撃でもしたらどうするんですか?」


まあそもそもなぜ第二次世界大戦時の艦艇を用いるのか、という問題もありますが、と少し笑いながら小さい声で言い質問を続ける。


「誰がどう責任を持つんですか、ということもありましてね、私自身は反対の立場なんですが総理自身はどうお考えなんでしょうか」


どうなんだ!とまた同じヤジが飛び、女性がまた手を挙げ席を立つ。


「まだこの計画に関して議論は十分に行われておらず、説明が二転三転して信用を失うということがあってはいけないため、現段階での参加の是非についての説明は控えさせていただきます」


質問者はまた大きくため息をつき、手を挙げて席を立つ。


「まずは総理の意見でいいんですよ。それすら言えないんですか?」


女性議員は手を挙げ席を立ち、一度咳払いをしてから口を開く。


「中途半端な説明で国民の皆様に不信感などを与えるわけにはいきません。現段階で語れることは、スティーブン大統領との会談でこの計画について説明を受けたこと、また一部の国より参加の打診が来ていることの二つのみと考えています。この計画については近いうちに国民の皆様へ説明する機会を設けてさせていただきます。」


男性は不服そうな顔でまた手を挙げて席を立つ。


「もう時間がですね、迫ってきているので本日の質疑はこれにて終わりにさせていただきます。えー、ですが総理、予算、安全性、その他諸々の課題を解決しなければ、またしっかりした説明がなければ国民の皆様の理解は得られないと思ってくださいよ。」


そう言い残して男性議員の短時間の質疑が終了し、パネルを片付け席に戻る。




その日の夜、大手メディアは総理が認めた事を記事にし、連日そのニュースや関係するニュースが放送された。




その2年後の2031年、日本は総選挙を1度挟んでから正式にIMC計画に参加すると正式に表明。


そして2033年から機材の開発及び予算が組まれ、2038年4月から国交省を主体とし、総務省と防衛省の協賛によって高等海洋学校が設立される。

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サイレント・シーベット のぶよし @yoshidera17222

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