オリガミ

無名乃(活動停止)

 

 折り紙。


 表は赤や黄色など色が付き、裏は雪のように真っ白。


 ただの紙。


 だが、半分に折ると長方形。

 また、半分に折ると正方形。


 紙は紙だが形を変えられる。


 なんて素敵な子なんだろう。



 桜が散り、緑溢れる桜の木。花見客は満開の時と比べると少ないが、学校帰りの子供達が数人公園で遊んでいた。

 彼らの近くのベンチで腰かけている高校生ぐらいの男。隣に置いていたショルダーバックからは折り紙があふれ、ヒラリと風に靡かれこぼれ出す。男が折り紙で鶴を折っていると、赤いランドセルを背負った女の子。興味があるのか、じっと見つめる。


「こんにちは、お嬢さん。僕と折り紙でもする?」


 男は優しく声をかけた。女の子は嬉しそうに紙を手にすると、彼は説明しながらゆっくり折っていく。




 まずは、半分。二等辺三角形。

 もう一度同じく折って、小さな三角。

 三角の中を開いて四角形に。

 裏も同じく折り曲げる。


 折り方が鶴に似てるって?

 でも、それは鶴じゃない。


 開く方を上に左右を中心へ。

 下も同じく丁寧に。

 上と下を半分に折って、中を開くと――。




【さて、何になる?】




 男の心の声に突然悲鳴が周囲に響き渡る。近くにいた人は逃げ惑い、笑い声が堪えない楽しげな空間が一気に恐怖に染まった。

 メキッと腕がネジ曲がり折れ、バキッと関節が目に見えない力で砕ける。

 その音は、普通の人・・・・にしてみれば嫌な音だが男にとって心地良く、あまりの気持ち良さに音に耳を傾け酔しれる。


「お嬢さんその姿、素敵だよ」


 男はクスッと笑うと女の子に触れるが動くこと無く、声すら出でない。


 彼が折ったのは【紙】ではなく【女の子】。


 芝生に血が絵の具のように飛び散り、赤く染め。女の子の手足は逆に折れ曲がり、体はネジのように何度も捻れ、皮膚を貫き白く肉を纏った骨が所々顔を出していた。

 見とれ、うっとりしていた男だが、何を思ったのか静かに溜め息をつくと、手に持っていた“折り紙”を片手で握り潰した。その瞬間――破裂。割れた風船のように勢いよく血が吹き出す。形あった頭は潰され、粘土を丸めこねるようなネチョネチョとした不快な音が続く。

 残ったのは血溜まり・・・・梅干しの種・・・・のように凝縮された肉片。


 人の形すら残っていなかった。


「やっぱり子供はやりにくい」


 男は折り紙を踏みつけ、さらにグシャッと嫌な音が広がり血溜まりが広がる。それに「きゃっ」と小さな悲鳴が聴こえ振り向くと腰を抜かして動くことが出来ないスーツ姿の女性。座り込み、恐怖から小刻みに震えていた。

 鞄から白い紙履歴書と茶封筒から会社の書類が顔出し、それを目にした男はクスッと邪悪な笑み。


 緑の芝生にヒラリと被さる一枚の紙。


 それに手を伸ばすと、彼女は震える唇を小さく動かす。“やめて”と言いたいのだろうが恐怖のあまり声が出ない。

 男はニヤッと狂気染みた笑みで紙を折り曲げた瞬間――女性は勢いよく反り血を吐き出し砕く音と共に頭と踵が付くよう折り畳まれる。腰は折れ、骨は肉を引き裂き、臓器や四肢を絡み潰す鈍い音が男の耳を汚す。バキッメキッブシャッ……と音を立てぎこちなく動く姿はマリオネットのよう――。


 緑の芝生に折り込まれ、小さくなった願書。


 そのすぐ横に血で真っ赤に染まった女性がフラミンゴのように一本足で立つ。頭を囲むように手と足が絡まり、それはそれは不気味な形をしていた。


 夕日が女性を照らす。


 芝生を真っ赤に染めた宝石のように輝く血溜まりに映り込む影は――アジサイ。

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オリガミ 無名乃(活動停止) @yagen-h

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