現れた女

「モーゼの十戒みたいやない?」


「何が?」


「俺と龍やんか!二つに別れるやろ海が…」


「うん」


「持ってる人と持ってない人で二つに別れてるやろ?世の中も」


「よくわからないよ」


「まあ、そやな!ゆうてる俺もわからんわ」


そう言って、まこは頭を掻いてる。


「蓮見ってやつの話しは、凛ちゃんにしたんか?」


「いや」


「そんな根も葉もないような話出来んわな」


「うん」


俺は、砂肝を食べてビールを飲んだ。凛と婚約中だった時だった。蓮見信吾の彼女だという女が俺の目の前に現れた。俺は、それを思い出していた。


「皆月龍次郎さんですか?」


仕事の帰り道に声をかけられた。


「はい」


「私、桜井優季さくらいゆうきと言います」


「はい」


「少しお話しできますか?」


「構いませんよ」


そう言った俺を近くの公園のベンチに座らせる。


「何でしょうか?」


「単刀直入に言いますが、凛さんって彼女と蓮見信吾は浮気しています」


「えっと?」


「あっ、私は、蓮見信吾の彼女です」


そう言って、彼女は泣き出してしまった。


「本当なんでしょうか?」


「本当です。好きな人が出来たと言われて、調べたら凛って名前が出てきて!後をつけたら…。この方ですよね?」


そう言って、彼女は公園のベンチに座る凛ちゃんと蓮見という男を見せてきた。


「そうですね!でも、これだけで浮気って」


「わかってます。でも、これ以上は調べるのが怖くて…」


「あの、何で俺を?」


彼女は、涙を拭ってこう言った。


「友人の彼が、探偵をやっていまして!無料で、出来る範囲でやってあげるよと言ってくれまして…。この写真と皆月さんを教えていただきました」


そう言って、彼女は涙を拭っていた。


「そうですか!で、俺にどうしろと…」


「しっかり掴まえてて下さい。って伝えたかっただけです。私から、信吾を奪わないで欲しい」


そう言って、彼女はお腹に手を当てている。


「もしかして、妊娠してますか?」


俺の言葉に彼女は頷いた。


「心配しなくても大丈夫ですよ。俺と凛ちゃんは、一ヶ月後に結婚しますから」


「ほんとに?」


「はい」


「よかった」


彼女は、ボロボロ泣き出してしまって、俺は彼女が泣き止むまでの間待っていた。泣き止んで、俺達は別れた。別れ際、彼女は二度と来ませんからと頭を下げて行った。


「龍、聞いてるか?」


パンパンって目の前で、まこに手を叩かれる。


「ごめん」


「また、あん時みたいに蓮見ってやつの女の話。思い出してたろ?」


「あー、ごめん」


「そんなんで、墓場まで持ってけんのか?」


そう言って、まこが笑ってビールを飲んでる。

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