缶バッジ・隕石・とりかえっこ

@woshida

缶バッジ・隕石・とりかえっこ

 俺はふと思い立って押入れの整理をした。

 思い出のアルバム、もう読みもしない文庫本、古いゲーム機、いろいろなものが出てくる。

 その中に、子供向けアニメのキャラクターが印刷された缶バッジがあった。

 俺は懐かしく思い出す。


 幼稚園の頃のことだ。

「みっちゃんのつけてる缶バッジ、いいな」

 同じクラスのさっちゃんという女の子に言われた。

 当時の俺は、さっちゃんに好意と言っていい感覚を持っていた。

 それがラブだったのかどうかは、俺には今となっては分からない。

 ただ、好きだった。

「もしよかったら、あげようか?」

 俺はさっちゃんに言った。

「えー、でも悪いよ」

「いいから」

「じゃあ、私が持ってる方の缶バッジをあげるね」

 そう言ってさっちゃんは、俺に自分の胸につけている缶バッジをくれた。

 俺たちは互いの缶バッジをとりかえっこしたというわけだ。

 

 そこまで思い出して、俺は『今』に戻ってきた。

 そう。

 これはさっちゃんにもらった缶バッジ。

 今頃、さっちゃんはなにをしているのだろう。

 俺のことなんて忘れているだろうか。

 しかし、俺はさっちゃんのことを思い出せてよかった。

 

 俺は窓から上空を見た。

 空に大気圏との摩擦で火を噴く巨大な石があった。

 科学者たちの予測通り、隕石がいよいよ地球に落下してくる。

 さっちゃんもこれを見上げているのだろうか。

 最後に初恋のことを思い出せて、俺は本当に幸せだったと思った。

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