『月の街』

われもこう

プロローグ

少女失踪



 青みがかった漆黒の夜空に浮かぶ街がある。悠久の時を経て、絶えず満ち欠けを繰り返しては、地上の夜を優しく包んできたその存在。そう、月である。


 あの白く清廉に輝く月にひとが住んでいるとは誰しも思うまい。


 ーーあそこに人は住めない。鳥も、魚も、虫も植物も、なあんにもないところなんだ。


 ルルは絵本を閉じ夜の窓を見つめた。


 三日月が黄金色に、輝いていた。



○●



 一ヶ月前のことである。女の子が失踪した。名前は桐谷ノノ。年齢は10。失踪の前日は午後21時30分に就寝(父母が確認済み)、翌朝には姿を消している。母親が朝7時40分に少女の部屋を訪れたときには既にその姿がなかったことから、少女は前日の夜21時30分から翌朝7時40分の間に姿を消したと考えられている。


 家族仲は極めて良好であり、学校内でも友だちや教師との不仲は報告されていないため、この度の失踪は家出ではなく事件性を疑われている。

 しかし調査の結果、部屋には他人は愚か少女が出入りした形跡もないことが判明した。


 警察はこの事件にひどく手を焼いていて、捜査は現在一ミリも進展していないという噂だ。勿論遺書の類はない。警察犬も導入されたが役には立たなかった。というのも、警察犬のシェパードはひとたび玄関を出ると匂いを辿れないとばかりに首を垂れ狼狽するのだという。


 少女は朝、もしくは夜のうちに忽然と姿を消した。少年少女の失踪は後々まで現代における神隠しだと噂された。


 そしてその後、彼らの姿を見たと証言する者は、誰もいない。



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