Two Worlds War Records

すずき

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プロローグ

神の掟 Episode.1

「ルオミネン様!もう我々の力では、奴をどうすることも出来ません!」


円卓に、1人の従神が駆け込んでくる。その従神の顔は、焦りと不安でいっぱいだった。

円卓とは、神々の中でも、特に力を持つ神が座ることが許される場所である。円卓では不定期に会議が開かれる。滅多に埋まることのない10の席が、今日は全て埋まっていた。


「うむ、我々も今それを話し合っているところじゃ」


創造神ルオミネンは、少し眉を顰めた顔で従神に答える。


「だから、もう神の掟とかどうでも良いだろ。この期に及んでまだ老害共の機嫌取るつもりかよ」


机に足を乗せた状態で、炎神メラフがルオミネンに悪態をつく。


「メラフ!ルオミネン様だって色々考えてらっしゃるんです!そんな言い方はおやめなさい!…しかし、メラフの言っていることは、わたくしも正しいと思います。神の掟とは、そんなに大切なものなのですか?これは私達だけの問題ではないのですよ?」


水神ヴェッタは少し言いにくそうにしながらも、ルオミネンに尋ねた。


「…神の掟とは、神の始祖ジュマラが定めた、我々の秩序を守る為の、絶対遵守の掟。其方たちの様な若き神の言い分も分からない訳ではない。じゃが、古き神の意見も無視する事はできない。例え、我々の身に危険が迫ろうとも…!」


「っくそ!!なんで邪神如きに俺らが振り回されなきゃなんねぇんだよ!!」


邪神。神であり、神ならざるもの。神々の世界から外れ、邪智暴虐を振るう恐ろしき神。しかし邪神は、その殆どが下級神であり、すぐに円卓の神々によって討伐されてきた。しかし、『奴』は違った。


『敵から攻撃を受けない限り、我々も彼らを攻撃してはいけない。』


普段なら、邪神に堕ち傲慢になってしまった愚かな下級神は、周りの神々に力を振るう。しかし、『奴』は誰にも力を振るうことなく、ずっと大人しくしていたのだ。邪神であることも少し前に判明した程だ。あまりにも無害なことから、監視役の神が一人付くだけで済んでいたのだが、最近、前代未聞な出来事が判明したのだった。


「それにしても、2つの世界への侵攻なんて、ゲルドガも大胆なこと考えるよねぇ」


土地神マーが呑気な口調でそう言った。

邪神の名はゲルドガ。前はどんな神だったかも、どこに住んでたのかも分からない。正体不明、実力不明の謎の邪神。何故か占神も、その正体を突き止めることが出来なかった。ゲルドガの正体特定に追われている中、ゲルドガの計画が露呈したものだから、神々は更に混乱した。ルオミネン達が存在するのは、『シャングラ』という世界がある空間。ゲルドガはそのシャングラを侵攻する先の一つに決めていた。しかし、もう一つの世界は、ルオミネン達の管轄外である別の空間に存在していたのだ。その別空間の神々は、まだゲルドガの存在を把握していなかった。


「あっちからもう返事は来てるんでしょ?なんて言ってたの」


ルオミネン達はゲルドガの計画が明らかになってから、すぐに別空間の神々へ手紙を送っていた。


「…ふむ、そのことなんじゃが、やはり、あちらの方々もこちらと同じ様な状況になっているようじゃ。神の掟はあちらにも適用されておる。今は対策のしようが無いんじゃ」


ルオミネン達が頭を抱えていると、光神ヴァロアが口を開いた。


「じゃあさ、人間達に任せれば?」


「「え?」」


「どういうことですか?」

ヴェッタが興味津々で尋ねる。


「簡単な話だよ。僕達自身はゲルドガに手を出すのは許されない。でも、人間達は別だ。僕達が人間達に力を与えて、その人間達をゲルドガにぶつける。まぁ力を与えただけで人間達が戦えるとは思えないから、ちゃんと鍛えなきゃなんないけど。でも、聞いたとこによれば、ゲルドガの侵攻はまだ先の話なんだろ?だったらまだ間に合う筈だ」


ヴァロアが言い終えたところで、メラフが吹き出した。


「ヴァロア、お前はバカなのか?力ならもう与えてるじゃねぇか。シャングラの奴らはもう剣や魔法が使える」


ヴァロアはすかさず反論する。


「馬鹿なのはお前だ、メラフ。僕達が力を与えるのはシャングラの人間達じゃない。別空間にある、もう一つのゲルドガの侵攻先、地球だ。地球にも人間がいる」

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