アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班
駒居未鳥/電撃文庫・電撃の新文芸
アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班
一章 檻より見上げた星 1/2
彼女には忘れられない光がある。青い瞳、青い
到底、彼女に向けられるはずのない、良心に満ちた光。
破れた天井から夜空を見上げた少女は、何光年も離れた過去の光に手を伸ばした。暗闇の
彼女の横顔に、表情はない。冬空の雲と、同じ色の髪。その間からは、獣の
冷たく月の光が差す室内には、いくつもの人影が
だが少女は、その灰色の瞳に幾つもの星を映すだけだった。室内の様子などまるで目に入らない。何せ、彼女には全てがどうでもいい。
どうせ彼らも、次の夜には死ぬ。死ぬまで戦わせる見世物が開幕すれば、敗者は死に、勝者は
ただ、美しい青、少女にとって忘れられない光を
■
けたたましく目覚まし時計が鳴る。
大陸戦争の前線から
科学と魔術が手を結び発展したアダストラ国。大陸の中でも資源に恵まれたこの国は、長らく大陸全土を巻き込む戦争の
テオが軍人として戦った期間は長くなかった。しかしその中でも、歴史的な大規模戦闘となったアルカベル戦役は、忘れられない。テオにとって最後の任務となった戦いだ。
アルカベル市を主戦場とし、市の象徴だった大鐘楼が
(……今更思い出したところで、何もできないっていうのに)
テオは
顔を洗い、鏡を
寝ても覚めても、悪夢は離れてくれそうにない。
テオは
戦場の記憶とともにテオの脳裏によぎるのは、若い兵士の姿だった。
アルカベル戦役の際、テオの属する一三三部隊は陽動作戦を終えた直後、爆撃によって壊滅した。生き残ったのはテオだけだった。そのテオも
武装と中性的な声のせいで、性別や人相は分からなかった。だが兵士は
だがその兵士はテオを爆撃から
テオも
だが、テオはその後を知らない。テオが病院のベッドで意識を取り戻した時には既に、必要な処理は全て終わっていた。兵士の身元どころか、埋葬場所すら分からない。
記憶は曖昧だ。だが悪夢は、毎晩鮮明に、テオに地獄を思い出させる。
爆撃を受けて吹っ飛ぶ仲間たち。
そして悪夢は必ず、その兵士を別のものへとすり替える。ひび割れた
「兄さん、どうして? どうして兄さんは生きているの? 私を見殺しにしたのに」
涙で
気付けばテオは、玄関扉の前で立ち尽くしていた。しん、と静まり返った部屋には当然、誰もいない。全ては悪夢で、過去のことだ。だがテオは、その沈黙に
ヘザー。故郷に残し、両親を任せた妹。自分より少し明るい赤毛と、青い瞳の少女。戦火に巻き込まれ、逃げる間もなく焼け死んだ、
テオは全てを振り切るようにして車に乗り込んだ。五年
車窓を流れる街並みには、保護者に手を引かれて歩く子供の姿がある。商業施設を見ながら楽しげに笑い合う若者の姿がある。馬鹿なことだと分かっていても、テオはそこに妹の姿を探さずにいられなかった。償う先も恨む先もない現状、テオにできるのは愚かな回想ばかりだ。
それでも時は過ぎ、一日は巡り、犯罪は起きて、テオの仕事が始まる。
テオは深呼吸して意識を切り替え、デルヴェロー市立図書館へ踏み込んだ。空襲を
テオが守るべき、平和な市民の日常がそこにあった。
彼らを
職員は笑顔のまま、黙って
「おはようございます、スターリング捜査官」
「ああ、おはよう。今日もご苦労さん」
テオが進むロビーは、
テオは迷いなく歩みを進め、刑事部のオフィスに入った。挨拶を交わした捜査官たちは、最近増えた『
テオはブラインドの隙間からデルヴェロー市の街並みを見やった。人通りと交通量は変わらず、工事の進展も
軍の通信施設等があることからデルヴェロー市も攻撃対象になっていたが、豊富な避難経路とシェルターが功を奏し、建物の被害に比べて死亡者は少ない。それでも、市民には癒えない傷が残り、治安の悪化は確実に進んでいる。暴行事件は絶えず、窃盗事件も数えきれない。昨日も少年グループが窃盗の現行犯で捕まったばかりだ。
失ったものを数えながら日々を過ごしているのは、何もテオだけではない。分かっていても、窓ガラスに映った表情があまりに暗く、テオは顔をしかめてブラインドを閉じた。
「……仕事の時間だ」
声に出して切り替え、テオはデスクを振り返った。ちょうどオフィスの扉が開く。
「おはようございます! はいおはよう! おはよう! おっ今日のネクタイいいね!」
「やあ、おはようテオ! 今日も辛気臭い顔だね!」
「元からだ。放っておいてくれトビアス」
テオが
「アカデミーにいた頃から変わらないな、君は。僕の後輩で君ほど
「余計なお世話だと何度言えば……」
テオは反射的に声を荒らげたが、オフィスに入ってくる新たな人影に気付いて口を
「おはよう、エマ。昨日まで、雪山へ出張だったんだろう? どうだった?」
「ウェンディゴと派手なダンスパーティーになったわ。雪の夜に花火もいいものね」
そう笑って、エマは腰のホルスターの上から
「エマ、出張から帰ったばかりなら休暇命令が出るはずじゃ?」
「部長から聞いてない? 私、戻ったらすぐオフィスに来るよう言われたけど……」
覚えがなくてテオが首を
テオたち三人をデスク前に呼び寄せたパロマ部長は、指を組んで真剣な顔をした。
「急に悪いな。捜査局から要請があって、うちで特捜チームを組むことになった。アマルガムの関与する犯罪に集中して対応する特別チームに、君たちを任命する」
アマルガム。その単語にテオは目を見開き、エマは「部長!」と声を上げた。
「アマルガムって、
「そりゃ百も承知だ! だがアマルガムの関与する犯罪は凶悪化しやすいと、報告が出ていてな。陸軍
パロマは両手を広げてそう言うと、捜査ファイルを人数分テオに渡した。トビアスが言う。
「……アマルガムはそもそも、戦場限定で運用されているはずですよね。命令に忠実なのが強みのはずです。それがどうしてまた、犯罪に関与するんです? 戦車の攻撃にも耐えて、戦艦主砲を
トビアスの言葉ももっともだった。
それだけの代物が、
パロマは
「……経路は不明だが、アマルガムが秘密裏に流出しているのは確かだそうだ」
エマが「そんな」と短く息を
「
思わぬ指名を受けて、テオはどきりとして顔を上げた。他二人の視線を感じる。
「俺ですか? 捜査官としては、ヒルマイナの方が……」
「確かに君は刑事部じゃ若いが、検挙率は大したものだし、従軍経験があるだけに根性もある。局長からも評価されているよ。まったくノウハウのない捜査になるが、ベテランのヒルマイナ捜査官、魔導士のカナリー捜査官と協力して、真相を明らかにしてもらいたい」
「……ベストは、尽くします」
「捜査の状況次第では、チームの増員も視野に入れている。健闘を祈るよ」
それを最後に、テオたちは部長室から出ることになった。テオは思いもしなかった事態に頭痛を覚える。戦場にいるはずのアマルガムが、一体どうやって民間で事件を起こすというのだ。だが確かに手元には捜査ファイルがあり、テオたちの今日の仕事は決まってしまった。
オフィスに戻ると、トビアスが「ふむ」と腕組みをした。
「しかし、アマルガムか。僕も報道以上のことは知らないんだよね」
「興味を引かないように、ほとんどの情報は伏せているもの。仕方ないわ」
「それよりトビアス、エマ。二人は納得しているのか? 俺がリーダーなんて……」
気になってテオが尋ねると、トビアスとエマは不思議そうな顔をした。
「パロマ部長の言葉が全てじゃないかい? 君の判断は僕も信用しているよ」
「たとえミスしても、そのためにトビアスがいるわけだし、魔術的なアプローチは私ができるもの。あなた、自分でどんどん決めちゃうし、リーダーの方が動きやすいわよ、きっと」
「……簡単に言ってくれるが、そういうものか?」
「そういうものよ。さっ、事件の確認といきましょう。チームの初捜査よ」
気合いを入れ直し、テオたちは捜査ファイルの資料に目を通した。
報告されたのは、デルヴェロー市内にある違法闘技場だった。
違法闘技場そのものは珍しくない。戦禍によって物流は滞り、多くの者が職を失い、金と物資の偏りは
だが
選手の肉体が一部銀色に変わっている。それだけでも奇妙なのに、銀色の部分は必ず別の生き物の部位に変形しているのだと言う。
化粧や作り物の類とは思えない、と報告書には記載されていた。隠し撮りされた写真では、確かに頭が
異形たちによる
この選手たちが、アマルガムではないかと疑惑を持たれていた。
テオは捜査ファイルを閉じ、エマに目を向けた。
「……魔術の専門家として、どうだ。アマルガムの可能性は」
「見た目だけなら、可能性はあると思うけど……精巧な合成義体ってことはない?」
「いやーそれはないだろう。手足ならともかく、この猪の頭なんて無理だ」
トビアスが口を挟み、写真を指で示して言った。ちょうど猪の選手が負けたシーンだ。
「本物の毛皮ですらないし、この
「……だとしたら、これ、妙だわ」
エマは資料と写真を眺め、難しい顔をした。
「アマルガムは特殊な兵器なの。再生能力が高く、補給要らず。そして何より、死なない」
「……だが、この闘技場だと、選手は死ぬまで戦わされる」
「本物のアマルガムなら死ねないわ。正確には、動力源であるコアが破壊されるまで再生できるから、頭が潰れたぐらい平気なはず。それに、見た目も気になる。銀色なのはこの際置いておくとしても、生き物の部位になっているのはなぜ?」
エマの疑問は続く。テオはその勢いに少し
「アマルガムなら、本物の人間にも化けられるってことか?」
「いいえ。アマルガムの擬態能力は精々、周囲の環境に紛れる程度よ。負傷状態から再生するために身を隠そうとして、接触している砂利や草に擬態するの。表面の感触まで再現するから、タコやカメレオンよりは
「……じゃあ、銀色なのも、生き物の部位を再現しているのも、本来は妙なんだな」
「そう。だから合成義体を疑ったけど、そうじゃないんでしょう? でもアマルガムとしては、矛盾の塊だわ。……どうなってるのか、見当もつかない」
エマは困り果てた顔で言った。テオは眉根を寄せて
「そんな連中を試合に出すメリットは何だ? 違法闘技場だってのに、話題性を求めるのもおかしい。実際、こうして報告されて捜査の対象にもなっているわけだ。……目的が見えん」
「案外、アマルガムがいまーす、っていうアピールに過ぎないんじゃないかい? 調べに来た人間が目当てで、
トビアスは明るく言ったが、その目は真剣だった。テオは顎を引いて応じる。
「……管轄の市警と協力して、一気に制圧するしかないな。
「ま、本当にアマルガムがいたとしても、だ。指揮官を押さえたら制御できるんだろう? 命令には忠実だって聞くし」
トビアスが言うと、エマはすぐに
「そうね。強力な兵器の分、自律型とはいえ知能は低く設定されてるもの。……でも、運営側に
エマはそう言い終えるや
「……本当にアマルガムだったとしても、冷静に頼むよ、テオ」
テオは思わず顔を上げた。トビアスは案じる目付きでこちらを見下ろしていたが、保護者ぶったその視線がやけに居心地が悪く、テオは舌打ちする。
「お前こそ油断するなよ。今度は右腕が
テオが視線でトビアスの右腕を示すと、彼は合成義体の左拳で右肩を
「その時は、ロケット弾を撃てる腕にしてもらうさ。……一人で立ち向かうんじゃないよ」
「……分かってる。甘く見るな」
視界の端で、炎と黒煙の幻がちらつく。テオはそれを振り払って、準備を始めた。
■
闘技場が開くのは、夜九時だった。
春先は、まだ夜風が冷たい。テオはコートの襟を立て、帽子を
テオたちは市警と協力し、客として闘技場に潜入することを選んだ。運営スタッフがいると思われる裏口側はトビアスとエマに任せ、テオは単身、正面から会場に入る。
外観こそ朽ちかけた廃工場だが、扉を潜るとそれらしく整えられていた。人気選手のポスターやこの数日間の成績表が掲示される中を歩き、テオは客席へと足を進める。
場内では重低音の目立つ音楽が鳴り響き、ミラーボールが輝き、小規模の売店もあった。客席代わりにリングを囲むのは階段状に組み立てられた簡素な足場で、座り心地は悪い。リングといっても、単に天井まで伸びたフェンスで仕切られた四角い空間だ。フェンスには選手の入場口だけがあり、現在は
このリングでどれだけの選手が死に、雑に扱われてきたか、想像に
テオは鼻の頭に
会場内は
「血だ! 血だ! 殺せ! 殺せ! やっちまえ! ぶちのめせ!」
観客たちは慣れた様子で声を張り上げる。まったく不愉快なことだと、テオは鼻を鳴らした。そこへ、場内放送が入る。客席は暗くなり、リングだけが明るく照らされた。
『お集まりの皆さん、
ぱっと照明が向けられ、選手用の通路から大男が現れた。白いガウンを脱ぎ捨てた上半身は傷だらけで、顔面も傷痕で大きく
『青コーナー! リングを縦横無尽に駆け回り、玉座まで最速で駆け上がる期待の新星、パンツァーパンサァァァァァァッ!』
反対側の通路からは、今度は細身の選手が現れた。こちらも大歓声で迎えられるが、彼には聞こえていないだろう。両耳は重度の
『では賭けを開始します! イエティジャイアントの勝利に賭ける方は赤のチケットを、パンツァーパンサーの勝利に賭ける方は青のチケットをご購入ください!』
チケットを抱えたスタッフに金を持った手が殺到する。観客たちにとって異形の選手は慣れたものなのだろう。誰も疑問を抱く様子はない。
テオはじっと選手たちを見つめた。やはり、変形は部分的だ。合成義体のカバーをそれらしくしたものとも考えられる。アマルガムだと判断するにはまだ早い。
テオは仲間たちに待機するよう合図を送り、静観することを選んだ。
ここまで勝ち上がってきた選手だ。当然、慣れた動きで、相手を殺すつもりで急所を狙う。そこに体格差やハンディキャップというものはなかった。結局、パンツァーパンサーが隙を突いてイエティジャイアントの目を潰し、喉を蹴り潰し、
だが、それでも試合は終わらない。
観客のコールが鳴り
歓声に沸く場内で、テオは介入のタイミングを
どうする。テオが悩んでいる間にも、二試合目が始まってしまう。コンクリートの血痕はおざなりに拭われただけで、休憩時間は大変短いものだった。試合展開はとても早い。
(……選手によって、変化の具合に差があるのはどうしてだ)
テオは眉根を寄せて思考を巡らせていたが、そうしているうちに三試合目が始まった。熱の入ったアナウンスが響く。
『続いて第三試合、ここで早くも登場だ! 赤コーナー! 我らのキング、憧れのチャンピオン、現在負けなし三十連勝! 血
フェンスで仕切られた
人気選手とはいえ、相手次第では介入のタイミングもあるだろうか。テオは青コーナーに目をやり、そのまま動けなくなった。
『対するは、青コーナー! 闘技場の小さな紅一点、しかし早くも既に三連勝! 美しく
下卑た笑い声と歓声、口笛が響く。耳が腐りそうな掛け声まで飛ぶが、そんな中を涼しい顔で、十代半ばにしか見えない少女が進む。素足のまま、血痕も気にせず。
雪のような少女だった。ホワイトブロンドの髪は頰を柔らかく流れ、瞳もまた色素が薄く、陶器に似た白い肌は血の気を感じさせない。整った顔立ちと相まって、精巧な人形のようだ。ただ、彼女もまた例外なく、異形と化していた。髪の間からは
チケットは飛ぶように売れ、予想外の試合に観客は大盛り上がりだった。
テオは動揺のあまり動けなかったが、急いで襟の内側に隠した無線機に触れた。
「……あれだけ小柄なら、彼女も相手に密着しないはずだ。選手同士の距離が開いたところで、トビアスは犬、エマは仮面に
二人が返事をする間もなく、鋭くゴングが鳴らされた。
先に動いたのは巨漢、マッドブラッドリーだった。風を切る拳の音が客席まで届く。少女、フラフィーハウンドは軽やかに拳を回避し、相手と一定距離を保って様子を見ていた。マッドブラッドリーの重い拳が次々と放たれるが、フラフィーハウンドは
次の瞬間、少女は天井付近まで跳躍していた。
テオは思わず、四メートルを優に超える高さの天井を見上げた。客席もどよめき、マッドブラッドリーも信じられない様子で少女を振り仰ぐ。
少女が天井を蹴ると、滞留していた白煙が一気に散る。彼女は宙返りの要領で小さな
だが
マッドブラッドリーが
悲鳴、どよめく声。マッドブラッドリーが血を吐く。フラフィーハウンドは追撃せずに後ろへ
一体、何を見せられているのかと、テオは
折れそうなほどに
男の
虚を
フェンスは金具を吹っ飛ばしながら観客席に向かって大きく
不意に、がしゃん、とフェンスが音を立てた。
マッドブラッドリーが、金網を握り潰し、引き千切りながら立ち上がる。
その体表は銀色に激しく泡立ち、肉体はさらに膨れ上がっていた。
テオはすぐさま立ち上がり、天井に向かって引き金を引いた。銃声が響く。
「そこまでだ! 全員動くな! 両手を頭にやって膝を突け! さっさとしろ!」
地元警察の者たちが一斉に飛び出し、観客たちを制圧する。トビアスとエマも
マッドブラッドリーは抑制の魔弾を浴びた瞬間、
一方、フラフィーハウンドが苦しむ様子は見られなかった。彼女は、獣の特徴を髪と衣服の隙間に仕舞っただけで、動じた様子すらない。だがふと、彼女は顔を上げた。近くにいるトビアスではなく、テオを見上げている。
唇を薄く開き、彼女はわずかに目を丸くした。テオは思わず彼女を見つめ返したが、何か言葉が出るでもなく、彼女は従順に両手を頭にやり、その場に膝を突いた。トビアスが手錠を取り出して彼女に近付く。
瞬間、フラフィーハウンドは素早く身を
『お話があります。このまま裏口へ』
彼女の声だろう。トビアスと何を話したのか、少女は大人しく手錠に両手を預け、他の選手や観客たちと同様に会場を出ていく。テオはトビアスを見やったが、彼も硬い表情で首を横に振るだけだった。その場の対応は市警に任せ、テオも裏口へと向かう。
人の気配も遠い裏手にテオたちが
「失礼しました。人目のある場所では話せないものですから」
「……この闘技場の選手じゃないのか? お前一体────」
少女が素足で踏み出すと、かつりと硬質な靴音が響いた。爪先から
「私は陸軍
テオは一瞬、言葉に詰まった。死んだ妹と
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