世の中そんなに甘くない
「まあまあ、落ち着いて」
怒りに震える俺。そう簡単になだめられると思うなよ?
「装備の話は聞いただろう? ナイトになると鎧しか着られなくなるぞ」
あっ、それは嫌だ。
体力自慢なら気にならないのかも知れないけど、あんな重そうな鎧四六時中着てられない。
瞬時に納得した俺は落ち着いて席に着いた。
「良いじゃねぇか、ピエロ。レアだし、儲かるし。……儲かるし!」
大事なことなので二回言いました。
いや、確かにめっちゃ儲かるけどなんか命狙われてるしもっとのんびり旅行気分で世界を回りたかったんだよなぁ。
「さて、話もまとまったようなので早速レベル上げに行こう。我が主をあまり待たせる訳にもいかないからな」
何がまとまったのかわからないが、今更どうにもならないことぐらいは俺にもわかる。
わかってるけど、とりあえずキャラメイクにまた会う機会があったら文句を言おう。ネチネチとしつこくな!
さて、何はともあれ四次クラスの正騎士が守ってくれるという非常に有難い状況を利用してとっととレベルを上げることになったわけだ。
プリンの教訓から、攻撃した本人しか経験値を貰えないモンスターを狩るよりは報酬で経験値が沢山もらえるクエストを攻略した方が良いだろうと決め、ギルドに向かった。
「おう、正騎士様と一緒ならこれぐらいのクエスト行けるんじゃないか?」
ドノヴァンが高難度っぽいクエストを選ぶ。
「ところで、俺の情報で随分儲けたそうだな?」
「ああ、おかげ様でギルド資金が貯まったよ」
悪びれた様子もなく平然と答えるオヤジ。この野郎。
「分け前を貰う権利があると思うんだが」
雄峰が分け前を要求するが、この様子じゃ無理だろうな。
「わりぃな、ギルドレベルを上げるのに使っちまった」
ギルドレベルとかまたゲーム感満載な単語が出てきた。
「ギルドレベルが上がるとどうなるんだぁ?」
源三郎の言葉に、よくぞ聞いてくれたとばかりに笑顔で答えるマスター。
「聞いて驚け、なんとクエストの報酬経験値が10%増しだ!」
それって良いのか? まあレベリング効率が上がるのは悪くないか。
引き受けたのは、遺跡で宝物を見つけてくるクエストだ。候補に挙がったとたん源三郎が強硬にこれを推したのだ。見た瞬間そうなるだろうと思ったけど。
とはいえ、ファンタジー世界の遺跡探索とか面白そうで俺もワクワクしっぱなしだ。これを待ってたんだよ、これを!
いかにもなんか戦いがありましたと言わんばかりに崩れた石造りの建造物。程よく生えた雑草がいっそう雰囲気を出している。何故かさっきまでまるで聞こえなかった野鳥の鳴き声が響く。(※ダンジョンに入ったとたんに鳴り出す環境音)
「これを待ってたんだぁ!」
興奮して叫ぶコソ泥。完全に同意すぎて俺が言ったのかと思った。
「強力なモンスターがいたりしないかい?」
冷静に辺りをうかがう雄峰だが、ライアンが胸を張った。
「心配はいらん。この辺のモンスターなら私の盾で全ての攻撃を防げる」
攻撃を防ぐだけかよ。もちろん助かるんだけどさ。
そんな話をしながら遺跡を探索していく。こんな場所で宝物を見つけるとなると、やっぱり隠し扉とか隠し通路とか、とにかく隠されてるんだろうな。
「源三郎、なんか隠れたものを見つける技とかないの?」
子猫も簡単に見つけたこのおっさんはこの手の技能に特化しているに違いない。
「おう、任せとけ!」
張り切る背中を見ながら、雑談する俺達。誰も手伝う気はない模様。
「そういえば、ライアンの主って何が目的なの? やっぱり不老不死?」
「いや、我が主はそんな危険を冒すほど愚かではない。天使を呼び出して国家の繁栄を願うのだ」
へー、胡散臭い。嘘ついてる匂いがプンプンする。10億円も出して天使にお願い? 宮廷道化師なんかいなくてもそのお金で天使の要求に応えられるんじゃねーの?
あるいはその主……美少女だな! これだけゲームのお約束を持ってきてるんだ。国家の繁栄を願うのは美少女と相場が決まっている!(※颯太のゲーム観は偏っている模様)
「なにニヤニヤしてるんだぁ?」
えっ、顔に出てた? ちちち、違うぞ決して美少女を助けてムフフとか考えてないぞ本当だぞ!
「何か見つけたのかい?」
そういえばなんか探してたんだ。
「ああ、定番の隠し通路だ」
ニヤリと笑う源三郎に、思わずハイタッチする三人だった。
狭い通路を進んでいくと、何とも言えない乾いた匂いが鼻をくすぐる。不快ではないが、明らかに外とは違う匂い。これは……。
「結界だな」
白魔術師の雄峰が魔法のかけられている気配を感じ取っていた。
「これは、お宝の匂いだぁ!」
そうなの?
「気を付けろ、こういう場所には守護者がいる」
「宝を守るガーディアンか、分かり易いな。ライアンが退治してくれるんだろ?」
そのための正騎士、四次クラスの引率役だ。
「私はお前達を守るだけだぞ? 攻撃は防いでやるからしっかり倒せ」
は?
「いや、俺達レベル4だよ? ボス退治とか無理だって」
「気合でなんとかするのだ」
気合ってそんな凄い効果あったっけ?
雄峰と源三郎を見ると、首を振ってる。だよねー。
「来たぞ!」
そんな俺達を無視して守護者を起こすハゲ。
「いやいやいや、無理だって!」
襲い掛かって来たのは、ストーンゴーレムだった。短剣しか使えないコソ泥が役立たずじゃん!
「うおおおお!」
とりあえず雄峰と二人で低レベルの魔法を叩き込む。
効いてない。
知ってた。
「はああああ! 『騎士の盾』!!」(※全力でPTの仲間を守る強力なスキル)
気合十分にガードスキルを発動するハゲ。
「いいから攻撃しろよ!」
「それは出来ん! 私はナイトだからな!!」
ダメだこのハゲ、早く何とかしないと。
俺達は、わりと絶体絶命のピンチに陥っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます