大山雄峰
大山雄峰は、どこにでもあるような中流の家に生まれた。両親が行方をくらました時、父親が社長をしていた会社の金を全て持って夜逃げした。当然、社員の給料もである。
兄妹を引き取った親戚は、被害者達へ謝罪する日々に疲れ、二人に辛く当たるようになった。
今にして思えば親戚は兄妹の面倒を見てくれ、両親の不始末の尻拭いまでしてくれた良い人達であり、多少辛く当たるぐらいは仕方のないことだったと分かるが、当時の雄峰にとってはただ憎たらしいおじさんおばさんでしかなかった。
詐欺師になる前はパチンコ屋でアルバイトをしていた。時給がよく、家から近く、勤務時間の都合もつくからだ。そして、そこで知り合った先輩が紹介してくれたのが、ある政党の党員だった。
政党の党員と言うと一般的に国会議員を思い浮かべることが多いだろうが、実際には都道府県から市町村まで議員がおり、その候補者や秘書、支援者など非常に多くの人間が参加しているものである。その縁から雄峰も党員として名を連ねることになった。
○○党員と書かれた名刺は、実情は兎も角として、非常に強い力を彼にもたらした。もちろんこれを悪用したわけではない。多くのコネクションを手に入れるのに利用したのだ。
また同じくバイト先で知り合った先輩が、偶然にもとある暴力団の下部組織に所属していた。知性的でありかつ倫理に頓着しない雄峰は彼等にとって非常に有用な人間であり、さまざまな犯罪に雄峰を誘ったのだった。雄峰も自分と妹の生活費を稼ぐために進んで引き受けた。
さて、雄峰は自分と妹を苦しめた親と同じ苗字を名乗るのが嫌だった。その親が付けた名前を名乗るのもやはり嫌だった。だから犯罪に手を染める時には大山雄峰と名乗った。
時が過ぎ、詐欺師としての実力を伸ばしていく雄峰だったが、急に妹が病に倒れてしまう。病気は命に係わるほど重大なものだが、特効薬があるので治療は容易……なはずだった。
「薬を飲めば簡単に直るそうだ。今はここに無いけど、薬局が取り寄せてくれるから少し待っていてくれ」
「うん、お兄ちゃんも体に気を付けてね」
これが、兄妹の交わした最後の会話。
――彼等の住む日本という国は、非常に多くの災害に見舞われる。この時は、大震災だった。
本当に最悪のタイミングだった。取り寄せられた薬は、到着目前で災害に巻き込まれ失われてしまったのだ。説明を受けた雄峰はすぐにあらゆる手段を使って薬を入手しようとした。
薬を求めて駆け回る雄峰はしばらく妹の見舞いにも行けず、容態が急変したとの連絡を受けたのはちょうど薬を手に入れて病院に向かおうとしていた時だった。
間に合わなかった雄峰は、そのまま病院の屋上へ行き、身を投げたのである。
◇◆◇
「病院には多大な迷惑をかけてしまったな」
申し訳なさそうに言う雄峰。……あれ? 何故か姿がぼやけて見えるぞ。おかしいな、くそっ!
「ううぅ、俺みたいなアホとは大違いだぁ」
泣く源三郎。うむ、確かにアホだけど、怪盗も面白かったぞ。その点、俺は……いや、落ち込んでる場合じゃないよな。次は俺なんだから。
「……雄峰よ、お主の考えている通り楓は天道へ迎えられた。安心するが良い」
秦広王の言葉に、雄峰の顔が目に見えて明るくなった。
「そうですか! 良かった……」
そういえば、やっぱり偽名だったけど本名は分からなかったな。
「本人が嫌っている名を
なるほど。ああ、ついに俺のとてつもなくつまらない人生が明かされてしまうのか。嫌だからやめてって言うのは無理かな?
「それは無理だ」
……ですよねー。
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