第87話:アオバト撮りに行くぞ



「よし、アオバト撮りに行くぞ、アオバト」


 まだまだお元気なカワサキさんが。


「また毎度のごとく、唐突ですね、おじさま……」


 蘭先輩のおっしゃる通り。


「アオバトやて、たまに公園ここでも撮れまンがな」


 さらに、方菜かたなちゃんのおっしゃる通りでもあり。


「行くって、どこまで行くつもりなんです?」


 わたしも突っ込むよ、さすがに。


「〇〇〇〇浜!」


 え?


「また、えらく遠いですわね……」


「どこやねん、それ?」


 関西方面から来た方菜ちゃんは、もうに住んで経つけど。


 関西弁は抜けないし、こっちの地理にもあまり明るくは、無い。


 まぁ、人柄と言うか、そういう個性キャラクターって感じかしら?


「えっと……ここら辺」


 ぴこん、ぴこん、と、携帯端末。


 メッセージアプリに送られてきたアドレスを開くと、その場所の地図。


「うわ、ほンまや、遠っ!?」


 確認した方菜ちゃんも驚く。だけど。


「あー、せやけだけど高速使こつかったら二時間もかからへンか」


「せやろ? し、ささーっと行ける。ってことで、この日、空けておいてねー」


 ぴこん、ぴこん、と、またも通知は。


 カレンダー用のデータ。共有スケジュール。


「疑問形じゃなくて、確定形……」


 その共有スケジュールには、みんなの休日が共有されているために、全員の休みが合致する日を確認するのは簡単。


 そこにぶち込まれる、カワサキさんの遠征スケジュール。


 とほほ。





 そう。



 あれから、もう、六年。



 わたしと蘭先輩は大学へ。方菜ちゃんは専門学校へ。


 在学中にアルバイトをしながら、バイクの免許を取ったり、バイクを買ったり。


 一応、車の免許も取ったけど、自分の車までは買えず、もっぱら両親の車を使わせてもらってたり。


 カメラは、カワサキさんがまだ使ってていいって事で、買うのは後回しにして。


 学校を卒業して、就職してから、ようやく買った、自分のカメラ。


 専門学校の方菜ちゃんは一足早くに就職してカメラも先行して揃えてた。



 就職してまだ一年と少し、どたばたする事もあって、なかなか鳥撮りには行けてなかったりもするけど、ようやく少し落ち着いて。


 夏。


 公園フィールドの鳥さんが少なくなってしまう季節。


「せやけど、何でどうしてまたわざわざこないなこんなとこまで行くのですか?」


「アオバトって言ったら、やっぱり海辺の岩場で海水を飲んでるとこ、でしょ。公園ここじゃ絶対に撮れないからねー」


 あー……。


「あれでも限られた場所でしか見れないんじゃ?」


「ふふふ。今送った場所がソコなのよー」


 なるるん。


「久しぶりにツーリングも兼ねて、れっつごー、だよ」


 いや、もう、還暦を迎えた筈のカワサキさん。


 お元気で、何より、ですけど。




 ちなみに。


 バイクは。


 方菜かたなちゃんは、その名の通りと言うか、それしか無いって感じの四百CCシーシー


 わたしと蘭先輩は、カワサキさんのおススメで、もちろん、カワサキのバイク。

 わたしは、二百五十CCシーシーで、蘭先輩は四百CCシーシーのヤツ。


 そのバイクで、連なって。


 ヘッドセットやらも揃えて、走行中に会話もできるようにしてある。


 ドラレコも搭載。前後カメラにGPS機能搭載。


 なんだ、かんだ。


 いやぁ、お金、かかりますね。


 学生時代にアルバイトで稼いだお金も、就職してからの給料も。


 実家住みじゃなかったら、おそらく、時間的な余裕も含めて、全然、余裕なかったろうなぁ。


 カワサキさんが還暦を過ぎても『独身』なのは、そのせいもある、らしい。


 趣味にお金をかけたいから、家庭を持つ事ができなかった、できない、だとか。


 ここら辺は価値観、なんだろうな。


 両親を見ていても、結婚前にやっていた趣味が出来なくなって、色々手放すとかあったらしいし。


 わたしも、結婚とか、まだ全然考えられないし、気配すら無いけど。


 いつどうなるか、なんて。


 まぁ、『そう』なるまでは?




「あ、荷物を積むのが面倒だから、涼子に運搬用の車、出してもらうから、お泊りセットとか含めて多少荷物多めでも大丈夫だよー」



 ……涼子さんも、まだまだお元気、ですね




 そんな、こんな。


 わたし達の物語に、新しい『章』が追加される。



 まだ出会えていない鳥さんとの出会いは、あるのか?


 今度の遠征みたく、新しい場所も沢山、行くことになるのか?


 そして、方菜ちゃんのご両親みたいな、劇的な出会いのラブロマンスは、あるのか?



 果たして?






(第五章:二度目の冬、そして…… 了)





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