第50話:関西弁で語られる、環境保護の話
「詐欺やっ! 全然涼しぃ無いやンけっ!」
じたばた。
野鳥写真展の会場である公園の施設まで、拾った女の子を連れては来たんだけど。
「さっき空調の電源入れたばかりだから、まだ冷えてなかったみたい……」
「詐欺やっ! 拉致やっ!
じたばた。
「こっちこっち。冷風の吹き出し口。ここならちょっと涼しいよ」
「ぉ?」
ひんやり。
「ぉぉ……」
はにゃん。
バリバリの関西弁の女の子。バックヤードから椅子も持ってきて座らせる。そこで涼しい風を受けてやっと落ち着いてくれたか。
ちょっと違う話題を振ってさらに気を逸らせてみよう。
「関西の人? 遠征旅行?」
「んー?
「それで、早速、この公園に?」
「セや。わりと近くにデっかいのンがあったさかい、何ぞ
「何か居た?」
「んー……めぼしいンは何も
「だよねぇ……」
「まぁ、この時期は何処とも、こンなもン、やワなぁ……って、あっ!」
突然。女の子が蘭先輩を指さして叫ぶ。
「逆さプリン!?」
「!?」
蘭先輩、帽子を脱いで、その帽子でぱたぱた顔を扇いでいたんだけど、そうすると、例のてっぺん金髪の黒髪がまる見え。
「やっぱりそう見える?」
「プリンや、プリン! 逆さプリンやっ! 何やそれ、めっちゃおもろいやン!」
「貴方達ねぇ……」
怒プン状態の蘭先輩。ぷっくり頬が可愛い。
「こっちのちっちゃい方はボタモチやし、和菓子洋菓子ペアか? あはははは」
今度はわたしが指さされる。ああ、わたしの髪型か。ポニテにするほど長くないけど、暑いし邪魔なので後ろでお団子にまとめてる。
そんな関西弁の女の子はベリーショート。男子中学生風。なんなら小学生?
「えっと、あなた、女の子、だよね?」
「あン? どっからどう見たかて、美女やろ?」
「いや、もしかしたら男子中学生かな、と」
「めちゃくちゃ失礼なやっちゃな、女子高生やで、じぇーけーやで、じぇーけー」
「え?」
「え!?」
「あー? なンやワレ。なんゾ文句あンのンけ? そっちのちっちゃいのとほとんど変われへンやろ」
「えー? わたしの方が大きいよ?」
「ンなことあるかいっ」
「ちょっと、二人とも、背中合わせに立ってみなさいな。私が測って差し上げますわ」
「望むところや」
「いいよー」
女の子と背中合わせに。頭をゴツン。
「痛っ」
「ふん。
もうっ。
「じっとしてなさい」
「へいへい」「はーい」
……
「似たり寄ったり、五十歩百歩、まさに、どんぐりの背比べ」
「……」「……」
とかやってたら。
「おーい、もうすぐ開場するぞー? チラシ配りどうしたー?」
カワサキさんの突っ込み。
「「あ」」
「
「はいはーい。ほらほら、貴女も」
「え?」
女の子の手を引いて、チラシを持って外へ。
「え? え? なンで? なンでウチまで……」
「ほらほら。チラシ配りしながら公園の中、案内してあげるから、おいで」
「いやー。拉致やぁああああ」
「なんでウチまで……」
「だーかーらー。公園、案内兼ねて、ね。こっちのバーベキュー広場の後ろの森は、春秋にキビタキさんとオオルリさんたちが見れるよ」
最初の頃、カワサキさんに連れられて公園を周った事を思い出す。
当時は、『へー?』としか思えなかったけど、今なら実感を持って語れる。
とは言え、まだ、『秋』は未体験、だったりするけど。だいたい春と同じなら、秋もそんな感じかな? って。
「まぁ、ソレはソレで有り難いっちゃ有り難いねンけどな。なンかちゃうやろ?」
「まぁまぁ、小さい事は気にしないっ! 次、行くよー」
「ほら、きりきり歩く」
わたしだと振り払われてしまうので、蘭先輩が彼女の手を引いている。
「痛い痛い。引っ張ンなや!」
「よーし。カワセミの池に行け~」
「おもろないわっ!」
えー?
カワセミの池はザリガニやメダカが獲れるコトもあり、カメラマンの他に親子連れでにぎわうことも。
「お。居る居る、親子連れ」
「カワセミはおらんのかいっ!」
「カワセミも居ますわね、あそこ」
蘭先輩がカワセミさん発見。
「ぉ? ホンマや。カワセミや」
女の子はベストの腰のポケットからメモ帳を取り出して何やらメモメモ。
「何、書いてるん?」
「見た場所と鳥の種類、メモっとンねン」
「ふむふむ」
わたしも最初の頃はメモってたっけなぁ。もう半年以上前かぁ……
「ウチらはこないして、ドコで何を見たか『記録』して環境保護に活用してンのや。アンタらみたいに、ただ単に珍しい鳥を追いかけとるだけちゃうんやで」
「え?」
ただのメモじゃ、無い?
「時期、場所、種類。情報を蓄積、分析して今の自然環境がどうなっとンのか調べる。大きな変化があったトコは、環境にも何らかの変化があったゆーことが解かる。それが悪い方向なンか、
……
「ウチひとりでやっとる訳やないで? そういう団体があンねン。ウチはそこに協力しとるだけやけどな」
……
カワセミの池で子供たちの親御さんにチラシを渡した後、別の場所へ移動しながら、彼女からそんな話を聞かされる。
公園をくるっと回って、子供向けの遊具の有る施設でもチラシを配って、オオタカ
「冬場になったら結構色々来よるんやろなぁ……」
「カモ類が色々来ますわね。あと、それを狙って猛禽も」
「せやろな。あの
なるほど。よく知ってるから、環境を一見しただけでなんとなくでも解かっちゃうのか……この子、本気で詳しそう。
「結構、ええトコやな……」
ふふっ。
「アンタらみたいなカメラマンさえ
むむっ!?
同じ『もの』を見ているのに、全く違う『ものの見かた』をしている彼女。
そんな彼女との、そんな出会いがあった『野鳥写真展』もひっそりと終了。
片付けも終えると、夏休みももうすぐ終わり。
二学期が、始まる……。
<三章:夏休み 了>
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