第42話:夏の遠征⑧~女子らしくはない、女子会



「花火……キレイだったね……」

「ええ、もう、とっても、すごかった、ですわね……」


 花火も終わり、涼子さんに車で迎えに来てもらって蘭先輩と二人、ホテルのベッドに座ってまったり。


 ちなみに、帰りは道路が大渋滞ですごく時間がかかったけど、涼子さんの「寝ててええで~」と優しいお言葉で車の中、少し眠らせてもらって、今はホテルの部屋。


「キレイなのもだけど、音がすごかったよね」

「その音の振動のせいでカメラが揺れて、あまりキレイに撮れませんでしたけどね……」

「ああ、そんな罠が……」

「写真だけで考えれば、少し遠くで撮った方がよかったのかもしれませんわね」

「でも、近くで見れて迫力はスゴかった……」

「ですわね……」

「ふわぁ……」


 ぱたん。ベッドに倒れ込む。


「寝よっか……」


 帰りの車で少し眠ったとは言え、早朝から自転車で走り回ってかなり疲れてる。暑さで体力をごっそり持っていかれた感もあるし。


「明日も早いですしね……電気、消しますわよ?」

「はぁい」


 ホテルの部屋は空調が効いていて少し肌寒いぐらい。シーツをかぶって、お休みモード。


 ぱちん、と部屋の電気が消えて常夜灯のほのかな灯り。


「……」

「…………永依夢エイム、もう寝まして?」

 薄明りの中、蘭先輩の声だけが届く。


「……ん? んー、まだ、寝付けない感じ?」

 特に彼女の方を見るでなく、声だけで返す。


「ですわよね。疲れて眠い筈なのに……」

「花火でドキドキしたのが、まだ続いてる感じ、かなぁ……」

「旅行先で、と言うのもあるかもしれませんわね」

「ん、だねえ」


「……」

「……」


 ぶーん。


 エアコンの音がうっすらと響く。


「……つかぬことをお伺いしますが」

 しばしの沈黙の後、また蘭先輩の声。


「ん? 何?」

 目を閉じたまま、声だけで返す。


貴女あなた、お誕生日はいつですの?」

「誕生日? あー、いやー、実は…………昨日……」

「昨日!?」

 目を閉じていても、蘭先輩がシーツを跳ね除けて起き上がるのが音と振動で解った。

「なんでおっしゃらなかったの!?」

「いあ、まあ、なんか……ねえ」

 特別感、出したくなかったし、ね。


 ぱたん。


 蘭先輩、再度横になった。

 今度はわたしも彼女の方を向いて、目を開けて。


「って言うか、なんでいきなり誕生日の話?」


「……ちょっと、ね」

 蘭先輩、こっちを見てはいるけど、視線は合わさない。

 わたしの足元を見てる感じ。

 ああ、シーツから足の先だけちょこっと出てるなー。


「ちょっと、何?」

「…………」


 話そうか、話すまいか。迷っているのがありありとわかる。

 視線が泳いで、わたしの足先から天井から、ちらちらとわたしの顔もうかがって。


 じっと待つ。


「……先日、雲台、渡したじゃない?」

「うん、ありがとう。アレ、すごく良いよ。助かってる」

「まあ、あれはあれで、あれなんですけど」

 あれって何よ。


「あ。誕生日プレゼントって事ならアレでいいかも?」

「いえ、あれはあれで……実は……」


 蘭先輩、またとんでも無い事を話し出した。


 要約すると。


 蘭先輩がカワサキさんから譲り受けた機材は、例のあのグリップ雲台だけではなく、他にも沢山あるんだって。

 少し前に蘭先輩が新しいカメラを一式揃えたんで、その前に使っていた機材一式が余ってるんだって。


「それで、おじさまにも相談して、それを永依夢にお譲りしよう、って」


「いやいやいや、いや、ちょっと待って」

 さすがにそれは、桁が違いすぎるでしょう。


 この間『借りた』グリップ雲台は、ネットオークションとかで見ると数千円。払えと言われても払える金額。新品で買ったとしても一万ちょい。まあ、わたしにとってはそれでも大金だから、借りていられるなら有り難い。


 でも。


 古い型とは言え、一眼レフカメラ・超望遠レンズ・ビデオ雲台・三脚一式。あと、なんかよくわからんけど、『防湿庫』も付けるって。


 カメラとかレンズとか、湿気の影響で、カビが生えたりとかしないように、湿度の低い場所に保管する必要があるんだって。『防湿庫』はその名の通り、湿気を防止する収納棚、らしい。


 うん、高すぎる。そんなもの、借りれる訳がない。壊したら、怖い。


 お父さんに借りてるカメラだって、壊さないように慎重に扱ってるのに。


 そんな風に、答えた。


 いつの間にか、電気は付けてないけど、お互い、ベッドの上に座って、枕を抱いて、向かい合って。


「……そう、ですか……」

「うん。申し出はとってもありがたいけど、身に余るって感じかな?」

「……貴女の使っているカメラだと、設定方法が違い過ぎていて、設定の意見交換とか出来なくて、ちょっと寂しいのよ。だから、同じようにできたらな、って思ったりしたんだけど……」


 蘭先輩、シリアスになると逆に言葉遣いが普通になるのね……。


 それはさておき。


「そっか……」


 そういう意味では、確かに。


 二人が色々と写し方の議論をしている時も、わたしは蚊帳の外状態だし。今日の花火も、わたしのと二人のカメラで設定方法が全く違っていて、お互いに意見交換とか、出来なかったのはあるね。


 うーーん。


「ちょっと、考えさせて? 両親にも相談してみるね」

「ええ、決して悪いお話じゃありませんことよ」


 あ、口調が戻った。どこにスイッチがあるんだろうなぁ?


「んー、さすがに眠くなってきたかな。そろそろ寝よ」

「ですわね」


 シーツにくるまって、ふたたび目を閉じる。


「そういえば、蘭の誕生日は?」

「私は、一月二十七日ですわ」

「そっかー」

 過ぎちゃってるじゃーん。


 来年かぁ。なんかプレゼント考えなきゃな……。



 こうして、ケリ撮影遠征の二日目が終わる。


 明日は最終日。


 ケリさん、撮れるかなー?






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