第41話:夏の遠征⑦~打ち上げ花火!
夕焼けもキレイな高台にある大学のグラウンド。
ブルーシートの上で花火の写真を撮るべく、カメラの設定中……なんだけど。
「
え?
カメラじゃなくて、スマホ??
「アプリのストア立ち上げて、『カメラコント』で検索」
「は、はい」
カメラがコントで笑わせてくれるアプリ??
とりあえず、言われた通りに検索すると……
「これですか?」
「うん、それそれ。カメラコントローラ。それをインストール」
インストール、っと。
ちなみに。今、ワイファイでカワサキさんのモバイル・ルータ経由でネット接続中。容量無制限だそうで、容量気にせず使えてラッキー状態。
「インストールできました」
「よし。それじゃあ……」
その後も、カワサキさんの指示に従ってスマホを設定する。今インストールしたアプリを立ち上げると……
「できた? じゃあ、画面にある『撮影』ってボタンを押してみて」
「はい」
ぽちっ
『『カシャっ』』
スマホとカメラから同時にシャッターを切る音が。
「うまく動作できるね。スマホの方に撮影した画像のプレビューが出てるかな?」
確かに、スマホの画面の下の方に画像が表示された。カメラの向いた方向、グラウンドの風景が写っている。
「はい。え? え? 何コレ?」
「スマホとカメラを無線接続して、スマホからカメラを操作できるんよ。これで、カメラに触れずにシャッターを切ることができるよ」
「そんなことも出来るんですね!」
驚いた。と言うか、カワサキさん、何でも知ってるな……自分のカメラじゃないのに、短時間で設定までやってしまうとわ!
ヒュー……ドンっ!
え? 打ち上げ花火の音!?
夕焼け空とは言え、辺りはまだ明るい。花火がキレイに見えるとは思えない。
音のした方を見てみると、灰色の煙が浮かんでいた。
「試験的に打ち上げの確認してるっぽいね」
カワサキさんの推測。なるほど。
「あの煙の方角でカメラの向きを合わせるといいよ」
さらになるほど。
ゆっくりと煙が風に流されて行くのがわかる。
ヒュー……ドンっ! ドンっ!
数発の花火が打ち上げられた後、あたりは静かになった。
いや、静かにはなっていないか。グラウンドに集まった大勢の人達の喧騒で、辺りは賑やかなままだ。
屋台も出ているため、焼きそば、たこ焼き、わたあめ、りんご飴。
ちょっとしたお祭りだ。
夕日は沈んだけど、まだ西の空が赤く染まっている。東の空はもう藍色の闇に染まりつつある。
「今の内に少し食べておくかー。焼きそばでよい? 買ってくるよ」
一仕事終えてカワサキさんが席を立つ。
「おじさま、私、たこ焼きが食べたいですわ!」
「わたしも!」
「了解!」
カワサキさんが買い出してくれた焼きそば、たこ焼き。どうしてこういう処で食べると美味しく感じるんだろうね?
特にたこ焼きはさすが本場! トロトロふわふわ。出来立てだからハフハフうまうま。
食べ終える頃には西の空もすっかり藍の闇に代わり、そして。
ヒューヒューヒュー……ドンっ! ドドンっ!
「「「わーっ!」」」
打ち上げ花火が始まった!
煙で方角が確認できてはいたけど、実際に打ちあがった花火が、大きい!
ドンっ! の音と同時に光が広がる。連続で響く音で地面から揺すられる感覚。
「すごい……こんな間近で見るの、初めて……」
「……私もですわ……」
身体だけではなく、心まで揺すられている感覚。
写真を撮ることなど、すっかり忘れていたわたしと蘭先輩。
かっ……しゃ。かっ……しゃ。かっ……しゃ。
花火の音の合間に断続的に聞こえる変なシャッター音で我に返る。
「写真、写真っ」
「はっ! そうでしたわっ!」
蘭先輩もわたしも慌ててカメラの向きを花火に向けて微調整。打ちあがる花火を画面に入れて、ズームの大きさも少し変更する。
シャッターはスマホのボタンで。
かっ……しゃ。
花火が連続で打ちあがっているので、どのタイミングでシャッターボタンを押せばいいのか全然わかんない。
とりあえず、ヒュー……からの、ドンっ! が来る直前ぐらいを狙ってみる。
「なるほど、シャッタースピードを長くした方が、花火の光が線になって形が綺麗に写るのですね……短すぎると、光が点になって寂しいですが、でも長すぎると、光が重なりすぎて何が何だかわからなくなりますね……難しいです。ああっ、この煙が邪魔!!」
蘭先輩が隣で何やらぶつぶつと。
ふむ。わたしのカメラは『打ち上げ花火』の機能が自動的に撮ってくれるので、その設定を任意に変える事ができない。
カメラの情報がスマホ側の画面に表示されているので見てみると、シャッタースピードは四秒で、エフ値は七・六と出ている。カワサキさんが言ってた設定の中にぴったりと入ってる。
お父さんから借りたこのカメラには、カワサキさんみたいな人達のノウハウが組み込まれていて、自動的に使えるようになってるんだろうな……でも、二人のカメラみたいに、自分でその設定を変更して、工夫して、自分なりにアレンジするとかが出来ないんだよね。
どっちがいい?
何も知らなくて、ただ機械がやってくれる。とっても便利。
試行錯誤して、自分なりのやり方を見つける。上手くいかなくて悩んでイライラして、でも、上手く出来たらとっても嬉しい。
とりあえず、今はそんなことよりも。
今ある物で、できる事をやろう。
今、わたしにできるのは、シャッターボタンを押すタイミングをできるだけ『良い』ところにする事だけ。
そんな事を考えながら撮っていたら、一瞬の静寂。
連続で打ち上がっていた花火が消える。
かと思ったら、今度は、低い位置に横一線に明るい灯がともる。
光のカーテン。
青白い光が流れ落ちる様子は、まるで、滝?
あわててズームを最小にして広い範囲を写せるようにしたけど。
「ああっ!」
「
「電池、切れたーよ……」
「予備は?」
「これで最後……」
「……ゆっくり見学なさいな」
「はぃ……」
結構な時間、連続で撮っていたから電池も急激に無くなったかぁ。
しくじった。配分考えてなかったーよ。
ただ、花火の時間も終わりに近かったらしい。
滝のパフォーマンスの後、また連続で打ち上げが続き、少し長い静寂。
辺りから他の人達のざわめきが聞こえる。
そして。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ
一斉に上がる花火の音。ただ、今までとは少し毛色が違う。ヒュ、の音の数がハンパじゃない。
これは?
ドドドドドドドドドド………
「!!!!!!」
悲鳴が、花火の爆発音にかき消されて聞こえない。聞こえるのは、ただただ猛烈な爆発音だけ。音だけじゃない、地面から響いて来る振動は地震かと思ったぐらい。
辺りが昼間の様に明るくなる。
おぉおおおおお!?
数秒? 数十秒? 何発? 何十発? 何百発!?
音が止み、光が闇に代わって静寂が訪れる。
ただ、それも一瞬で、今度は辺りに人々の歓声がこだまする。
「す、すご、すごかったね」
「ええ、ええ、ええ!」
わたしも蘭先輩も、大興奮。
「あはは。コレを見せてあげたかったんだよねぇ」
サプライズに成功したカワサキさんがとても得意気な笑顔。
こうして、ケリ撮影遠征の二日目が終わる。
終わる?
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