第32話:GW④~チョウゲンボウ一家のマイホーム



「よし。サンコンも撮れたし、明日はチョウゲン行くか」

「はい、おじさま!」


 サンコンさんを撮り終えてすぐ、カワサキさんと蘭先輩。


 え?


永依夢エイム、明日の集合場所は学校近くのブックセンター。時間はいつも通り、日の出の十五分前ね」


 え?


 チョウゲンボウ? ブックセンター??


「え? え? えぇ?」


 なんでそんなところ。


 チョウゲンボウって……タカの仲間だっけ?


 図鑑図鑑。あった。やっぱタカさん系統っぽい感じだよね。


 それが、なんで、高速脇のブックセンター??


 それに、明日の日の出時刻は……って、電車動いてないよー。自転車かぁ。距離もそこそこあるし、公園とは反対側で、つまり登り坂。まあ、帰りは下り坂になるから楽なんだろうけど。


 そんな二人の無茶振りだけど、チョウゲンボウさんはお初。

 ん、撮れるなら、撮ってみたい。


 てことで、この日はサンコンさん終了して、撤収。


 チョウゲンボウについて、予習。

 図鑑でさらっと書いてある事を確認しつつ、ネットでも情報を見てみる。

 なるほど。よくよく読んでみると『ブックセンター』もアリらしい事が分かった。





 翌朝早朝。時間を合わせてブックセンターに到着。


 ん? 居ない……。


「永依夢、こっちですわ」


 っと、ブックセンターから少し離れた場所に、蘭先輩とカワサキさん。近付いてみると、蘭先輩も自転車。カワサキさんは……


「バイク、ですか?」

「そうだよ」

「なんか……可愛いですね」

「でしょ?」

 バイクってもっとおっきなイメージあったけど、カワサキさんのバイクはそれほど大きくはなくて、こじんまりとした感じ。

 でも形はスクーターとは違って、バイクバイクしたバイク。いや、何言ってんだかよくわかんない感あるけど、スクーターじゃないってのは、分かる。


「おじさま、先に行ってて下さいまし。自転車で追いかけますわ」

「了解、んじゃ、お先」

 そう言ってカワサキさんはバイクのエンジンをかけて、颯爽と走り出す。


「ここじゃないんだ?」

「ええ、ここから少し先が今日のポイントですわ」

「なるほど」

 と、言うわけで、さらに自転車で数分、高速下の一般道を走る。


 カワサキさんは先にカメラの準備を始めていた。

 わたしも準備しつつ、蘭先輩に質問。


「チョウゲンボウさんって、どこに居るの?」

 ネットで調べたところによると『ビル等の構造物をねぐらや繁殖場所にする』って載ってたんで、ブックセンターそのものかと思ったんだけど。


「あそこ……高速道路の外壁に少し張り出した場所があるでしょ?」

 蘭先輩が指さした方向を見てみる。


「あー、あの、電灯の根本?」

 高速道路の電灯の根元が少し出っ張った形になってる。


「そうですそうです。あそこがチョウゲンボウの巣になってるんですわ」

「巣!?」

「今ちょうど営巣していて、そろそろひなが顔を出す頃なんですの」

「ヒナ!?」

「ええ、雛……って、永依夢、驚きすぎですわ」

「聞いてないよ……」

「言ってませんでしたっけ?」

 うぇい。

 まーいいや。あの出っ張りのとこ、注目してればよいのね?


 カメラの準備をしていると、ちょうど日の出の時刻。

 

『ケケケケケケケ……』


 え?


 聞き慣れない鳴き声? のような音が聞こえたかと思うと、少し大きめの鳥さんが二羽、飛んで来て件の出っ張りのところに降り立った。


「あれかー!?」

「あれですわ」


 太陽が顔を出したばかりなので、まだ少し薄暗い。うまく撮れるかわからないけど、とりあえず、捕捉エイムして、シャッター。


 すると、二羽の内の一羽が出っ張りから飛び出して高速道路沿いに飛び去って行った。

 残った一羽も出っ張りから少し離れて高速道路の外壁に止まる。


「お。出てきたみたいだぞ、雛」

 カワサキさんがファインダーを覗きながら教えてくれる。


「ほんとですわ……一、二、三……三羽?」


 わたしもファインダーにその姿を捉えた。


「か、かわいい!」


 もこもこの、ひな鳥。

 いや、少しだけもこもこが取れて、小汚い感じもするけど、ひな鳥っぽい雰囲気。さっき飛んできた二羽は親なんだろうね。その姿とは明らかに違う。


 やがて日が昇って辺りが明るくなって来ると、よりはっきりと姿を確認する事ができた。


 これがチョウゲンボウさんのお子さんかあ。


「あ、四羽居るね」

「みたいですね。こっちからも確認できましたわ」


 お子さんたちはお行儀よく張り出しに並んで座っている。

 あまり大きくは動かないけど、たまに頭を動かしたりしてる。


 物珍しさもあって、動いたらついシャッターを切ってしまう。

 また削除するの大変だろうなぁ、と思いながら……。


「あっちの、少し離れた場所に居るのは、親?」

「ええ、メスの親ですわね」

「お母さんかー」

「オスの方は、狩りに出かけてますわね。もう少しすれば……」


『ケケケケケケケ……』


 蘭が言い終わらない内にもう一羽……お父さんが戻ってきた。

 タイミングを合わせたように、お母さんも巣に戻ったかと思うと、お父さんはすぐにまた飛び去り、お母さんも巣から少し離れた場所に移動した。


 お母さんの方をカメラで追いかけて撮影。

 ファインダーで拡大して見ていて気付いた。


「なんか食べてる……」

「ネズミ、でしょうか?」

「オスが獲って来た獲物を、まずはメス親が食べてるね」


 ええ? 子供にあげないの?


「メス親は巣を守ってて狩りに行けないから、オス親が運んで来るエサを食べてるんね。ある程度食べたら、子供にあげるはず」

 と、カワサキさん。


 ふむふむ。


 見ていると、お母さんはしばらく食事した後、獲物を持って巣に戻ったかと思うと、すぐまた巣の近くへ移動。

 カメラで撮影して見てみると獲物は持ってないので、巣に居る子供達に渡したんだろうな。


 ほー、ほー。


 これまでは、こういった生々しい鳥さんの生活を見る機会がなかったけど。


 鳥さんだって生きている!


 それからもお父さんは二十~三十分おきぐらいに獲物を持って帰って来てる。

 お父さん、働き者!


 獲物は、さっきのネズミにスズメ、それにトカゲなんかも獲って来てた。

 可哀想、とも思えるけど、これが自然、なんだな……。

 カッコイイだけじゃない。可愛いだけじゃない。泥臭い生活感。


 生きるって、大変なんだ……



 ネットで調べたところによると、もともと、チョウゲンボウさんは、崖のような斜面の出っ張りや穴を使って巣を作ってたそうな。

 ただ、そう言った自然の環境が減った分、人工的な建造物が多く作られるようになると、建造物を崖に見立てて巣として利用し始めたんだって。

 だから、この高速道路の外壁の出っ張りは、まさにそんな崖と同じ環境なんだろうね。近くに田畑や森もあって、餌になる鳥や動物も居るんだろう。




 太陽も高く昇り、すっかり明るくなると、お父さん、お母さんの飛ぶ姿も撮りやすくなって、いっぱい撮れた。ちゃんと撮れたかは別として、シャッターはいっぱい切った。


 同じ場所……巣に戻ってくるのが解ってるので、狙い易いのもあって、撮り放題。


 公園のオオタカさんも驚いたけど、高速道路のチョウゲンボウさんにもビックリ。


「来週か再来週あたり、ひな鳥の巣立ちが見れるかもな」


 おおぅ。




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近況ノートへのリンク

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330658159526857








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