第24話:レンジャクは図鑑に載ってない?



 オオタカさんが去り、入れ替わりにお父さんが戻って来た。


 挨拶も済んで、いい時間になったってことで両親は帰る事に。


「私達はこれで失礼しますね」

「それでは、永依夢エイムの事、よろしくおねがいします」

 おいとまの挨拶も父母のうまい連携でソツ無く。

 わたしはまだしばらく残って撮影を続ける予定。


「こちらこそ。是非また遊びに来て下さいね」

 カワサキさんもそれに答える。


「永依夢、お二人に迷惑かけるんじゃないわよ?」

 そうして二人は先に公園を後にした。


「さて、と。この後、どうしましょうかしら?」

 二人を見送った後、蘭が言う。


「うーん。タカ来るの待つか、他、周るか……」

「わたしはお二人にあわせます~」

「さっき、小耳に挟んだんですが、レンジャクが入ってるそうですわよ」

「あ、それ、ウチも聞いた。第二駐車場の方だっけ?」

「ええ、確かその筈ですわ」

「移動した連中はそっちに向かったんな、きっと」

 オオタカが飛び去った後、カメラマンさん達の一部が移動して行ったけど、そういう情報が口コくちこまれてるのね。


 ってゆーか、レンジャク、か。

 ポケットから図鑑を出してぺらぺら。

 五十音順だから名前から探すのは楽だね。

 レンジャク。レンジャク。レンジャク。レ、レ、レのレ?

 あれ? レンジャクが、無い?


「蘭~、レンジャク載ってない~。どんな鳥さんなの?」

「『レンジャク』じゃ探せないですわよ。『ヒレンジャク』か『キレンジャク』で探してごらんなさいな」

 そんな罠が……


 『ヒレンジャク』で探すと、あった。ふむふむ。写真だけだと大きさが分かりにくいけど、とりあえずどんな姿なのかはわかった。

 『キレンジャク』も見てみるけど、姿はほぼ同じ。違うのは、お尻の先端が赤いか黄色いか。赤い方が『緋レンジャク』黄色い方が『黄レンジャク』なのね。


 わたしがまだ見たことが無い、って事もあって、そのレンジャクさんを見に行く事に。

 三脚を担いで自転車でゴー。

 園路をぐるっと半周ほどしたところでその場所へ。


 到着すると、すでに結構な人数の鳥撮りさん達。皆さんかなり上の方にカメラを向けている。

 園路の脇に植えられた樹を見てみると、ヒヨドリくらいの大きさの鳥さんがちらほら。

 お尻の赤い子がほとんどだけど、時々黄色い子も混ざってるみたい。


「キレンジャー、あんまり居ないな」

「アカレンジャーばっかりですわね」


 なんじゃそら?? たまに謎発言のコンビ。


 それを後目しりめに早速、カメラをセットしてぱしゃぱしゃ。

 撮った写真をプレビューで拡大して見ると、うん、図鑑に載ってた通りの姿。


 時々、飛び出して別の樹に移動たりしているみたいなので、その姿も狙ってみる。

 三脚が低くて上の方を見上げて撮ろうとすると腰を低くしないといけなくて撮り辛い。足を大きく広げると姿勢を低くできるけど、女子的にそれってどう?

 そうだ、横に付いてるハンドルを回せば、三脚を高くできるんだった。


 ぐるぐる。


 ぴーん。


 あ。輪ゴムを引っ掛けてるから、伸ばせない……

 仕方がないので、三脚からカメラを外して手持ちで行こう。天気も良くて明るいから手持ちでも大丈夫よね。


 カワサキさんと蘭先輩を見てみると、二人の三脚は脚がかなり長くて、脚の長さを変えるだけで背を伸ばせるみたい。

 普段は脚を伸ばし切らずに途中で止めてたのね。

 そもそも輪ゴムとか付けてないし……やっぱりビデオ雲台付きの良い三脚、欲しいかも……。

 お年玉とお小遣いの残りで買えるかなぁ……。


 とか考えてたら。


 わらわらわらわらわら。


 レンジャクさん達が一斉に飛び出した。


 響き渡るシャッター音。

 わたしもつられてシャッターを切る。どこを狙っていいやら解らなくなる。

 とりあえず、レンジャクさんの群れの真ん中あたりを狙って。


「タカ!」

 カワサキさんが叫ぶ。


「こっちですわ!」

 蘭先輩も叫ぶ。

 蘭先輩のカメラが狙う方角、それはレンジャクさん達が飛び去ったのと反対の方角。

 そっちを見てみると、悠々と飛ぶタカさんが見えた。

 わたしもそれを狙ってシャッターを切るけど、樹が邪魔でうまく撮れそうにない。一応、タカさんを捕捉エイムして何枚かシャッターを切ってみる。


 ゆっくりとだけど、タカさんは園路沿いに飛び去って行った。


 そう言えば、以前にもオオタカさんが現れる直前、ハトやヒヨドリが一斉に飛び立ったって事があったっけか。小鳥さん達が、タカさんを恐れて逃げ出してるって事なのかな。


「正解、ですわ」

 蘭に聞いてみたところ、その通りだった模様。


「小鳥達はタカの羽音でその接近に気付いて逃げる事が多いですわね。だから、そんな小鳥の飛び出した反対側の方向を探せばタカを見つけやすいんですの」

 鳥さんたち、すごく耳が良いのね……わたしの耳もそれぐらい良かったら!?


 補聴器着けたら聞こえるようになるかな?


 さて。


 レンジャクさん達が飛び去ってしまったので、三人でまたオオタカしまに戻る事に。


 しばらくしまの前でタカさんを待ってみたけど、文字通り鳴かず飛ばず。

 って、そう言えば、オオタカさんの鳴き声ってまだ聞いた事ないな。

 便利な便利なスマホさま。

 検索したら一発で動画が見つかったんで、早速聴いてみた。


『カッ、カッ、カッ、カッ、カッ……』


 うわ。しまった。ボリューム上がってた!

 あわててボリュームを下げて、周りを見てみると、近くに居たカワサキさんと蘭先輩を含め、他の鳥撮りさんたちもキョロキョロと上空を探している。


「スミマセン、コレです……」

 スマホを掲げて、ごめんなさいする。


「……」


『ぐぅ』


「スミマセン、コレです……」

 お腹を指さして、ごめんなさい!


 ぴえーん。






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近況ノートへのリンク

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