第20話:日本の野鳥の図鑑の使い方?



「それでは早速、今週末の予定を……」


 てな訳で。

 蘭先輩と二人、週末の公園での待ち合わせ時間と場所について打ち合わせ。


 場所は『オオタカしま

 カワサキさんと初めて出会ったしまのある池のほとり。やっぱりあそこがカワサキさんと蘭先輩の拠点ベースキャンプだったらしい。


 時間は『日の出の十五分前』ぐらい。

 日の出時刻はネットの天気予報ツールで場所を指定すれば表示されるのでそれを確認。

 蘭先輩いわく、多くの鳥さんは日の出前から活発に動き出すんだとか。


 ただし、日の出前は光量…明るさが足りなくて写真には不向き。少し太陽が昇って明るくなった頃が絶好の撮影タイム。


 早朝の陽光が横~斜めから射すと上空の鳥さんにも横から光があたって写しやすくなる。『朝焼け』の光は、写真を柔らかくしてくれるそうな。わたしが撮った例の『朝陽バックのハクセキレイ』とか、ああいう写真も撮れたりするしね。


 日中、太陽が高く昇ってしまうと上空の鳥さんが逆光になって暗くなっちゃうので、撮影は早朝か夕方の方が良いらしい。


 さすがに大先輩だけあって、詳しいねぇ、蘭先輩。


 とか話を聞きながら、買ってきた『野鳥図鑑』をぺらぺら。

 五十音順にならんでるらしく、『ア』の付く名前から順番に並んでいる。


 アオサギ、アオアシシギ、アカアシシギ、アカゲラ、アカコッコ……アカコッコ??


 あれ? なんかこれ、昔、見たことあるんだけど。何処で見たんだろう??


「ねえ、ねえ、蘭、これ、見たことある?」

 蘭先輩にアカコッコのページを見せる。


「なんですの? アカコッコ? こんなの見たことある訳ないじゃないですか。伊豆諸島とか、行ったことないですし」

「? この辺じゃ見られない、ってこと?」

「ええ。伊豆諸島特有の鳥ですわ。おそらく、見たとしたら、アカハラではなくて?」

 ほんとだ。解説文を読んでみると、確かに伊豆諸島に分布って書いてある。

 ぺらぺらっと数ページ後を見てみると。

「アカハラ……これか。アカコッコと似てるけど、頭が黒くないね」

「アカハラの頭の黒は個体によって濃い薄いがありますわね。この図鑑の写真は比較的色の薄いタイプか、メス、若かしら……そのあたりの特定的な情報も少ないのがこの図鑑のネックなのですわ」


 とりあえず、蘭先輩の小言? 愚痴? はスルーして、と。


「ふむ……どこで見たのかなぁ」

「アカハラなら時期的にも公園で見ていてもおかしくはないと思いますわよ?」

「いや、もっとはっきりくっきり見た覚えがあるんだよね、それもなんかドアップで……」

「もしかして……」

 蘭先輩は自分のスマホを取り出すと、ささっとタップ。


「これじゃないですの?」

 ん?

 蘭先輩のスマホの画面を見ると、何やらアニメの動画?

 ピンク色のちっちゃな女の子と、ピンク色の銃。このアニメ自体は、見覚えあるけど、鳥なんて出てたっけな?


 あ!


「これだああああ」

 オープニングムービーの最初の方から少し進んだところに、出てきた。わりとどアップで。


「やっぱり」


 これだ、これだ。お父さんお母さんが観てたアニメ。小学生の頃、わたしも一緒に見てたんだ。それでなんか記憶に残ってたのかぁ。


「私もおじさまと一緒に観てましたからね、『ガ〇ゲイル〇ンライ〇』」

「うんうん。ウチもお父さんとお母さんが好きで一緒に観てた~」

「オープニングのほんのワンカットなのに、よく覚えてましたわね」

 いや、蘭先輩、あなたもそれがササっと出て来るとか、相当?


「おそらくですが、鳥がストーリーやキャラクター、ガジェットなんかと全く関係のない『異物』として印象に残ってたんでしょうね。貴女も、私も」


 とゆーか、お互い同じアニメを観てたってことも驚きだよ。


「……これ、よくよく見てみたらアカコッコじゃなくて、アカハラですわね」


 鳥さんが映っているカットを一時停止にして図鑑と見比べる。


「ほんとだ。背中側の黒の領域がアカコッコとは違ってんね」


 とかなんとか。図鑑を見ながら盛り上がる二人。


「そういえば、貴女のご両親もFPSなさってましたわね」


 アニメ『○ンゲイ〇オンラ○ン』は舞台そのものがFPSのゲーム世界。FPSをやってるウチの両親も蘭先輩も興味があったから観てたんだろうな。


「そうみたい。二人で部屋に籠ってやってるみたいだから、わたしは見たことないけど。ああそうだ。今度カワサキさんにもご挨拶したいって、連れて行くことになってるから、会えると思うよ」

 親を会わすのって、微妙に恥ずかしいケド。


「成程。了解ですわ。直接、色々伺う事に致しましょう」


 そんなこんなで。

 結構いい時間になったので、二人、喫茶店を出て駅へ向かう。

 電車の方向も同じだったのでずっとおしゃべり。

 蘭先輩、落ち着いた雰囲気であんまりしゃべらないのかと思ったけど、喫茶店の時からずっと結構しゃべりっぱ。

 降車駅は蘭先輩の方が一つ手前だったらしい。

 また明日、と別れて一駅。


 一人になって、ヒマになったので、かのアニメに出て来たあの鳥が本当はなんなのか、ちょっと調べてみた。


 結果。


 『ピトフーイ (Pitohui)』

 

 ニューギニアの固有六種の総称? だそうで。


 この六種の内、『ズグロモリモズ』ってのが有毒ってことで、アニメに出て来た『毒々しいキャラ』の名前の元になったらしい。

 あのピンクの子の、敵のお姉さんだね。


 アカコッコでもアカハラでもなかった、ってオチでした。

 図鑑も『日本の』だし、海外の鳥とか、知らんがな……


 蘭先輩とアカウント交換したので、早速このページのアドレスを送っておこう。


 あ。返信来た。速っ。


『orz』


 ……スタンプじゃなくて、絵文字!?


 何時いつの人!? 


 同い年のハズなんだけどなぁ‥‥‥カワサキさんとか、お祖母さんの影響なのかな?


 そういうところも、なんか『可愛い』ぞ!

 蘭先輩っ!







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