第9話:わたしは、河崎永依夢、です!
明けまして、一月三日。
もういいか。
またまた早起きして身支度、からの、お母さんに朝ごはんのお弁当をもらって。
「宿題もちゃんとやりなさいよ?」
お小言ももらって、いざ。
公園までの途中。田んぼとかため池のある所を通る。
池に何かいないか? ちょっと覗いてみる。
水面にカモさん、周りの柵と護岸ブロックにシラサギさんがちらほら、と見てたら、池の脇にある建物の上に何やら動く気配。
屋根の上、小さな鳥さんが一羽、ちょこちょこと歩きまわっていた。
こんなこともあろうかと、カメラは肩にスタンバイ。
ちょうど日の出。
東の空が真っ赤に染まっている。
ここからだと昇る太陽の方角なので鳥さんの影しか映らない。
だから何の鳥さんかは全くわからない。
いや、見えてても知らない鳥さんだと、よくわかんないんだけど。
その鳥さんは屋根の上を左右に動きまわった後、屋根の端っこの方に停まった。
太陽が少しづつ昇って来る。
ん?
これは!
わたしはふと思いついて、鳥さんと太陽が重なって見える位置を探して移動。
ここだ! ってところを見つけて何枚か撮る。
太陽を真後ろにしているので、影しか映っていない。
でも、これはこれで。
そうこうしていると、鳥さんがどこかへ行ってしまったので、わたしも再出発。
公園に到着。
さすがに三が日で人も少ない。とは言え、鳥撮りさん達はそれなりに来ている。
あのおじさんも来てた。定位置でちょうど三脚を組み立て最中。
「あけまして、おめでとうございます」
近付いて小声でご挨拶。
「ん? ああ、おめでとさん」
わたしもすぐにカメラをセットし終えたので、さっきの謎の鳥さんの事を聞いてみる。
「えっと、すみません、ちょっといいですか? この鳥なんですけど」
液晶モニタにさっき撮った朝日の鳥さんを表示しておじさんに見せる。
「お? おお。これは。いいね……シルエットだけど雰囲気出てる。この形は……セキレイだな。模様が見えないから、ハクセキレイか、セグロか、キセキレイか……。もっと拡大できる?」
「あ、はい」
再生画面を最大まで拡大してみる。うっすらと顔の周りの模様が見えた。
「うん。ハクセキレイだね」
「ハクセキレイ……そうですか。ありがとうございます」
うっすらとしか映ってないけど、特徴が見えてるって事なのかな。やっぱり図鑑要るなあ……
「そういうのって、なかなか狙って撮れるものじゃないからね。被写体がハクセキレイでも、それならかなり絵になってるよ」
えへへ。ほめられちった。
とか思いつつ、スマホでハクセキレイを検索。
ふむふむ。スズメやハトと同じく、通年、街中にも居る、か。珍しい鳥ではなかったのね。
普段、あんまり見た記憶もないけど……ああ、そういえば、コンビニの駐車場とかでたまに見かける白黒の子かな。
白黒……
「あ、そうだ」
白黒で思い出した、パンダ鳥。
「そういえば、昨日、祖父母の家の近くでコレ、撮ったんです」
スマホに残してあった昨日の写真をおじさんに見せる。
「ん? おおおおお! ミコアイサ! これ、どこで撮ったの!?」
おじさん、やけに食い付きが。そんなに珍しいのかな。
「えっと、◯◯町にある小さなため池です」
「◯◯町か……えっと」
おじさんは自分のスマホを取り出すと、ささっと画面をタップしてわたしに見せて来る。
「ここらへんかな?」
「あ、もうちょっと下の方の、こっちの池です」
「噂はよく聞くんだけど、実際に行ったって人に会ったことなくてねぇ」
すごいな。町の名前言っただけでほぼ場所特定してる……
「カワサキさん、どうしたの? 大きな声出して。珍しい」
!?
おじさんと話をしていたら、近くに居た別の鳥撮りさんが声をかけて来た。
おじさんよりもさらに年配の方。でもおじさんよりずっと大きなカメラを担いでいらっしゃる。
いや、それよりも、驚いた。びっくりした。ドキっとした。
『河崎』はわたしの苗字でもある。
一瞬、自分が呼ばれたかと思ったけど、明らかにおじさんのことだよね。
おじさんも『カワサキ』さんなんだ……
「ああ、シンさん。ミコアイサ。この子が昨日撮ったんですって。でね、場所、聞いてたんですよ」
「へえ、パンダか~。どこ?」
「◯◯町のため池ですって」
「ああ、あそこね。あの辺り、車だと不便なんだよね。結構入り組んでて、駐車スペース無いし」
「なるほど、それであんまり行ったって人が居ないのか」
「ここからだと自転車じゃきびしいし……それこそ、カワサキさんならバイクで行けるか」
「うん。午後からちょっと行ってみようかな……」
気になったので、『カワサキ』さんと『シン』さんの会話がひと段落したところで名前について尋ねてみる事にした。
「えっと、お名前、『カワサキ』さん、なんですね?」
「あー、違うよ。いや、違わないけど、違うんだわ」
どゆこと?
「本名は全然違うんだけど、この公園じゃ『カワサキ』ってあだ名で呼ばれてるだけなんだよね」
あだ名が『カワサキ』って、あだ名にしては、妙なあだ名。
と、思ったのが顔に出てたのか、カワサキさんは続けて説明してくれる。
「カワサキのバイクが好きでね。夏場とかカワサキのロゴT着てるから、それで」
「ああ、なるほど……えっと、実は、わたしも『カワサキ』なんですよ。だからちょっとびっくりして」
「え? そうなの? だとすると、カワサキ被りになるねえ。下は?」
「あ、『えいむ』です。永遠の『永』に、人偏に衣の『依』、それに『夢』、で、『永依夢』。『河崎永依夢』です」
「えいむ……え? エイム?」
カワサキさん、何か考え込むように、きょとんフェイス。
?
「あ、ああ。ああ。ちょっと変わってる感じもするけど、うん、いい名前だね。エイムちゃんか。うん、エイムちゃん。うんうん。ところで、ご両親、銃とか好きだったりする?」
はい? いきなり、なんだろう?
妙な反応が気になるな……わたしの名前に何かひっかかる事でもあるんだろうか?
しかも、何ゆえに、銃?
「えっと、学生時代にサバイバルゲームやってたらしいですけど」
「あー、なるほど!」
???
何がなるほどなんだろう?
いくら両親がサバイバルゲーム……銃が好きだからって、娘のわたしに銃の関係の名前なんて付ける訳ないよね?
永依夢って、銃とか関係ないよね?
「そ、それはそうと! その雲台のゴムと割りばしは一体!?」
あからさまに話題をそらしてきましたね、カワサキさん。
気を取り直して。
「えと、これはですね……」
お父さんと一緒に作った『輪ゴム雲台』と『割りばし照準器』の事をカワサキさんに説明。
「ほぅ、なるほど。ちょっと見せてもらっていいかな?」
「はい、どうぞどうぞ」
カワサキさんはわたしのカメラを上下左右に動かして、照準器で狙って、ファインダーで確認して……
「なるほど、よく出来てるな、これ。ちょっと動きがぎこちないところはあるけど、ノーロックで水平キープできてるのはすごいね」
「はい。動きをもっとスムーズに出来ないか、輪ゴムの付け方とかいろいろ試してみたんですけど、どうにも……」
「そっちは少し改善の余地ありか……照準器は、電池不要でこの精度なら……うん、このアイディア、もらっちゃっても構わないかな?」
「え? 全然、かまいませんけど? その赤く光ってるのって、電池が必要なんですね」
「そうそう。電池切れで焦る事もあるし、電池代も結構かかるし。電池が要らないなら、かなり助かるな、って」
「こんなのでよければ、どうぞどうぞ」
「ありがとね、永依夢ちゃん」
「いえいえ」
割りばし照準器はお父さんのアイディアだけど、別にいいよね?
カワサキさんとおしゃべりしながら、鳥さん……タカさんが現れるのをひたすら待つ。
今日はちょっと粘ってみよう!
……
わたしの名前に関しては、帰ったら問いただしてみる必要があるかもしれない、と、強く思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます