第5話:ウンダイってナンダイ?
家に帰って早速、お父さんに三脚と予備の電池の事を確認したら、貸してもらうことができた。
それを持って翌日も公園へ! と思ったらお母さんに怒られて大掃除の手伝いをさせられた。と言うか、サボって公園に行ってたんだから、愚痴は言えない。
そんな訳で、明日は大晦日。大掃除は早めに終わらせたので、朝から行けるかな。
念のために、三脚の組み立てとカメラの取り付けを練習。
三本の足を伸ばして固定。
てっぺんのネジにカメラを取り付ける。
横に付いてるハンドルをぐるぐる回して高さを調節して、見やすい高さにする。
これでずいぶん楽になるかな。
三脚をたたんで、カメラも仕舞って、オヤスミなさい。
そして翌朝。
まだ明けきらない早朝、そっと家を……と思ったら、お母さんにみつかってお小言とお弁当をもらった。「朝ごはんに」って。ありがとう、お母さん!
自転車で下り坂すいすい。公園のお池へ。
大晦日だと言うのに、結構なカメラマンさんたち。昨日までに比べると少し減ってはいるけど、大勢来てるね。わたしも
カメラマンさんたちが狙ってる方向を確認すると、『あの子』らしきオオタカさんの姿が確認できた。こっちを向いてくれてるから、白いおなかがよく目立つ。とは言え、意識して見ないと、おそらく最初のわたしのように、樹の枝や葉と区別付かないね。
昨日も練習したし、ささっと三脚を出して……と、思ったら、手袋のせいで扱いにくい。手袋が出っ張りにひっかかったり、挟まったり。どうにか三脚を立てて、カメラを取り付けていると、
「おはよう。三脚、用意できたんだね」
おじさんだ。今日はわたしの方が早かったらしい。
「おはようございます。はい、これも父に借りました」
「いいお父さんだね」
話しながら、おじさんも手早く三脚とカメラを準備。
先に準備が出来たわたしはオオタカさんにカメラを向けてネジを固定する。上下と左右の両方にネジがあって、その両方を締めれば完全に固定できる。
うわー。やっぱり、コレ、便利だわ。手で持ってる必要がないから楽だし、固定してしまえばオオタカさんを見失うこともないもんね。やった。ナイスお父さん!
カメラの背面パネルでオオタカさんを確認できるし。至れり尽くせり。
まだ暗いけど、何枚か試し撮りしてみる。手で持って撮るのと違って、カメラが揺れることもないからブレもほとんどない。うんうん。イイね十個ぐらいあげたい。
とか思っていたら、辺りからガガガガっとシャッター音が聞こえてきた。
え? と思って辺りを見ると、おじさんも他のカメラマンさんたちも『あの子』とは別の方角にカメラを向けてシャッターを切っていた。あわててそっちの方角を見ると、何やら白っぽい鳥が飛んでいるのが見えた。
「ハイタカかな?」
おじさんがぽつり。
わたしも、そちらにカメラを向けようとして。
「がー!?」
三脚ごとずるずるっと動いてしまった。そうだ、ネジを緩めないと、カメラを動かせないんだった。
あっちを緩めて、こっちも緩めて……と、やっていると。
「抜けたねえ」
ハイタカさん? は、飛び去っていった。
おじさんはカメラを『あの子』の方にくるっと向けなおす。
「???」
おじさんは特に三脚のネジを締めるそぶりもない。でも、カメラは固定されているように見える。
わたしも同じように『あの子』にカメラを向けなおして、ネジ止め。くるくる。
ドウナッテルノ?
「あの、これ、ネジ止めしなくても大丈夫なんですか?」
聞くは一時のハジ。はじめに聞いておくのが良い。お父さんも言ってた。気がする。
「ビデオ雲台だからね」
「ビデオ? ウンダイ?」
「カウンターバランス入れてるから、ある程度の角度なら位置キープできるのよ」
「カウンター? バランス?」
「あー……」
困った顔のおじさん。
「うう、すみません」
「えっとね……」
おじさんの解説によると。
『
三脚の一部だと思ってたけど、三脚は本当に足だけで、カメラを乗せる部分は別になっているらしい。わたしのもよく見ると『雲台』が三脚にネジ止めされていて、取り外せるようになっているみたい。
お父さんに借りた三脚は、風景や人物用の簡易的なもので、ネジを緩めると自由に動いてしまうんで、上下と左右を別々にねじ止めする必要がある。
おじさんの『ビデオ雲台』は、雲台自体にスプリング……バネが入っていて、ある程度の重さをかけても大きく動かないようになっているんだって。このバネ仕掛けのことを『カウンターバランス』と呼ぶそうな。
だから、おじさんをはじめ、他のほとんどのカメラマンさんたちもこの『カウンターバランス』の付いた『ビデオ雲台』を使っているとのこと。もともとはビデオカメラ用だったらしいけど、鳥撮りカメラマンさん御用達みたい。
これならばネジで固定しておく必要がなく、とっさの時でもすぐにカメラを動かす事ができるので、鳥さんを撮るには最適、なんだって。
ふむふむ。
考えてみたら、同じ場所に留まっているオオタカさんを固定して撮るにはいいけど、飛び立った後、ネジを緩めて追いかけるのはかなり大変そう。
でも、まあ、そんな良いモノをすぐに用意出来る訳もなく。しばらくはこのお父さんの三脚でがんばるしかない。上下だけ固定して、左右は固定せずに、上下のネジに手をかけていつでも緩められるようにしておこう。
カシャカシャ
そんな風に思っていると、おじさんがシャッターを切る。
何を撮ってるのかと思ったら、ハト?
「たまにね、『ハトだと思ったらアオバトだった』、とかあるんで。練習兼ねて適当に撮ってるんよ」
アオバトってハトとどう違うのか?
それはともかく、練習かあ。
わたしも練習兼ねて、いろいろと撮ってみるかな!?
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