第1話:『彼』



 『彼』とは中学が同じだった。

 当時は特に接点はなかったのだけど、同じ高校に進学したのが『彼』と二人だけだったこともあって、よく話すようになった。

 通学路もほぼ同じで、行き帰りに会って一緒に寄り道なんかもするようになった。


 夏休みを終えて文化祭。ますます一緒に行動する機会も増えて、わたしの中の『彼』が少しづつ大きくなっていったと考えて間違いないと思う。


 自分では全く意識したつもりはなかった筈なのに、『彼』の事が常に気にかかり、『彼』の事を目でおいかけ、『彼』の声に心躍らせる。


 『彼』はイケメンと言うほどではないと思う。部活にも入っておらず、勉強の方もわたしと同じくらいだろうか。実際、『彼』のどこが好きかと改めて考えてみても、とりたててここが好きだと言い切れるようなところが無い。


 いや、だから、なおさら、じわじわと積み重なったのかな?


 一人きりになるとなおさら『彼』の事が思い出されて、もっと話たい。もっとそばに居たい。もっと、もっと。もっと。


 わたし自身はごく普通の女の子だ。

 とりたてて可愛い訳でもなく、スタイルが良い訳でもない。勉強が出来る訳でも、運動が得意な訳でもない。部活にも入っておらず、趣味と言えるような趣味もない。少し勉強して、少し遊んで、少し読書…少女漫画とか恋愛小説とか読んでみたりするぐらい。


 そんなわたしが、『彼』にこの気持ちを『告白』できる? してもいい?


 冬休みに入って、『彼』に会えなくなって、その想いは加速する。


 『彼』と二人で過ごすクリスマスを夢見ながら、両親と三人で過ごすと一層、想いが募る。


 想いをしたためた手紙を、書いては捨て、書いては捨て、書いては捨て。書き上げて、ポストに入れようとして、やっぱり捨て。想いはぐるぐる、ぐるぐると空回りする。


 年の瀬、年末も押し迫った頃、わたしは暴走した。


 自分を制御しきれなくなって、夢遊病者のように夜中に飛び出して公園をさまよい、辿り着いたベンチで夜空を見上げ思った。


「誰か、助けて…」


 わたしの暴走を止めて助けてくれたのは、予想もしなかった『オオタカさん』だった。


 公園から戻り、冷たくなった手足を温めるためシャワーを浴びながらさっき見た光景を思い出す。


 望遠鏡の小さな窓に大きく映し出されたオオタカさんは、とっても格好よかった。格好いいだけではなく、しぐさや表情に愛嬌があって可愛らしさくもあった。


 姿勢を低くして大きく翼を広げて飛び立つ姿は圧巻だった。


 おじさんに見せてもらった写真はさらに大きく鮮明で、羽の一本一本まではっきりと見えた。


 もちろん、『彼』の事を完全に忘れた訳ではない。忘れたい訳でもない。ただ、この呼吸さえ困難になる辛い想いから少しでも逃れられるなら、少しの間だけ、心から『彼』を追い出してもいいよね?




 シャワーを終え、自分の部屋に戻ったわたしはスマホでオオタカやあの公園の事を調べてみる事にした。





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