俺と義妹、変わらぬ関係?
「…………久しぶりに、夢に見たな」
複雑な気持ちで、俺は夜中に目が覚めた。
あの日のことを夢に見たのは、本当に久しぶりのこと。おそらく俺が『涼香にとっての良い兄』でいたい、と思ったから見たのだろう。
その『根本を忘れるな』という、過去の自分からの忠告だった。
たとえ何があっても、一線を越えてはならない。その行為はきっとあの日、自分を救ってくれた彼女への裏切りであり、自分への裏切りになると思ったから。
「そう、駄目だ。俺は……」
義妹と『一緒に全国大会へ行く』という約束を破ったのだ。
キッカケはともかくとして、涼香は俺のことを必死になって応援してくれていた。過去の俺はそれに応えようとして、精一杯に練習に励んだ。そして、結果はこの有様。
それでも彼女は、俺を支えると言って同じ学校に進学した。
あの子の学力ならもっと、成功への道を歩めたのに。
「あー! しっかりしろ、俺!」
一度、気合を入れるように頬を叩いた。
そして深呼吸を一つ。ゆっくりと、眠りに就こうとした。
その時だ。
「義兄さん、起きてますか?」
「……涼香?」
義妹の声が聞こえたのは。
俺が応えると、彼女は少し遠慮がちにドアから顔を覗かせた。
そして、今から少し時間があるか、という感じに首を傾げるのだ。
「いいよ。おいで」
「はい!」
俺の許可を得て、涼香はとても嬉しそうに笑う。
すぐに俺の傍にきて、二人並んでベッドに腰かけた。しばらくは互いに黙っていたが、途中どちらからともなく雑談をし始める。最近の学校での出来事だったり、勉強のどこが分からないだったり、そんな変哲のない内容を。
その中で、俺はふと涼香に訊ねた。
「なぁ、涼香?」
「ん、どうしたんですか?」
小首を傾げて、こちらの顔を覗き込んでくる義妹。
愛らしいと感じるその表情に、俺は真っすぐ向き直って言った。
「俺は、お前にとって『良い兄』でいられてるか?」――と。
約束を破ってしまったけれど。
それでも、俺は彼女にとっての最良でいられているか、と。
「…………えへへ」
すると涼香は、ふと困ったように頬を掻いた。
そして、こう答える。
「安心してください。義兄さんは、私にとって『最高の兄』です」――と。
それは、嘘偽りのない言葉だった。
とても穏やかな表情で、柔らかい笑顔を浮かべて。
涼香は真っすぐに俺の目を見て、そう答えてくれたのだ。だが、
「でも、ちょっと最近は思うことがありまして」
「…………え?」
ふと、自身の唇に指を当てながら。
ほんの少し悪戯っぽく、こう言うのだった。
「義兄さんは、たしかに『最高の兄』です。でも――」
俺の頬に、その指を押し当てながら。
「『男の子として』は、少し残念かもしれませんね」――と。
俺はその意図が分からずに、思わず呆けてしまった。
すると義妹はまた小さく笑った後、ゆっくりと立ち上がる。そして、
「それじゃ、私はそろそろ部屋に戻りますね?」
「え、あ……うん」
互いに「お休み」と挨拶して、別れる。
自分の部屋に、一人だけ残った俺はしばし考え込んだ。
「あれって、どういう意味なんだろう」
――『兄』としては良く『男の子』としては残念。
これは、もしかしたらなかなかに難問かもしれなかった。
「まぁ、いまは良いか」
それでも、俺の求める答えは得ることができた。
心はかなり穏やかになって、軽い。
今なら、もう少し良い夢が見られるかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます