俺と義妹、これから?









「義兄さん、喜んでくれたのかな……?」





 ――夜、自分の部屋のベッドに横になって。

 涼香はそんなことを言いながら、今日の出来事を思い返す。始まりはちょっとした好奇心で、少しばかりの背徳感を覚えはしたけど、結果的に義兄は喜んでくれた。

 実際は彼も冷や汗ものだったのだが、素直な義妹は言葉通りに受け取っている。

 だから、コスプレ作戦は大成功、と考えていた。



「たまには、あんなことしても……良いのかな?」



 涼香はウトウトしながら、そう思う。

 義兄のことは心から慕っていた。だからこそ、もっと仲良くなりたいと思っている。今日はもしかしたら、その足掛かりができたのかもしれなかった。

 怪我の功名、というには少し乱暴だが。

 このようなイベントが、たまにはあっても良いのかもしれない。



「よ、ようし……!」



 だったら、善は急げだろう。

 涼香は眠気で回らない頭でそう考え、ある決心をしたのだった。









 ――あの一件から、数日が経過した。

 涼香はそれ以降、いつもと変わらぬ様子で毎日を過ごしている。やはりあのような出来事はイレギュラーであって、そう日常的に発生するものではなかった。


 だから、俺も完全に気を抜いていたのだ。




「…………涼香さん?」

「なぁに? 義兄さん」




 俺が目を覚ますと、そこには義妹の姿があった。

 そこまでは日常のこと。部屋の鍵なんてあってないようなものだから、彼女が侵入してくることなんて当たり前だった。それでも、問題はタイミングというやつで……。




「どうして、俺のベッドで一緒に寝てるんですかね?」

「えへへ……」




 ――時刻は午前五時。

 春の麗らかな朝日はすでに昇っているが、一般学生はまだ夢の中の時間帯。そんな中で、いつもより狭いと感じて目を覚ましてみれば、目の前には頬を赤らめて笑う美少女がいた。その美少女こと義妹の涼香は、俺の胸に顔を埋めてこう言うのだ。



「義兄さんの検索履歴に『添い寝』って、あったから!」

「………………」



 それはあの日、コスプレ内容以外にも見つけた検索履歴だろうか。

 過去の俺はいったい、なんてものを検索しているんだ。

 今すぐ、殴ってやりたい。



「えへへ。義兄さん、やっぱり温かいなぁ」

「そ、そうか……」



 しかし、過去を恨んでも仕方ない。

 いまは目の前の彼女に、可及的速やかに対処しなければならない。



 そう、思ったのだが。




「あの……涼――」

「すぅ、すぅ……」

「…………………」




 義妹はとても気持ちよさそうに、無防備な寝顔を見せていた。

 俺は彼女から漂う心地良い香りに身を任せようとして、思い留まる。ここで変に一線を越えてしまえば、以前のような関係は戻ってこない。そんな確信があった。

 だから、いまは耐える。

 耐えるしか、ないのだった。




「どうして、こうなった……」







 俺は今後のことを憂いながら、思わずそう呟く。

 義妹の寝息に、高鳴る鼓動を必死に抑えつけながら……。



 

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