婚約破棄される闇堕ち乙女はハッピーエンドを掴みたい

不愉快な朝の日

プロローグ

 

 「最近は物騒ですわね」


 「ええ。殺人鬼が潜んでいるって話よね。本当に恐ろしいわ」


 早朝、半ば寝たままの意識を無理矢理目覚めさせ、目を擦り窓を開くと、メイド達による些細な会話が聞こえてきました。


 (……まぁ、その殺人鬼がこれから一人増えるんですけどね)


 私は心の中で笑った。なんせこれから私はその殺人鬼すらを超える人殺しになるのですから。


 私の名前はナナクレナ・ルスティカーナ、上流貴族の令嬢です。


 王国第三王子であるレグルス・ミネロバールと婚約するも、今から10年後に婚約破棄されます。


 何故それを知っているかって?理由は簡単、私はこの人生、ナナクレナ・ルスティカーナの一生を終えては巻き戻し、終えては巻き戻しを繰り返しているからです。


 いわゆる死に戻りというものです。


 この能力に気づいたのは1回目の自殺の時です。

 婚約破棄された事実が受け入れられず、王子の愛人を殺めてしまった夜、自分の過ちに気づき自殺しました。


 すると私は今日、5歳の頃に戻っていたのです。

 ここで気づきました。私には死に戻りの能力があるのだと。


 そしてもう一つ、私には能力が備わっていました。

 それは『未来視』という能力です。


 『未来視』と言っても、全ての未来を覗けるわけではありません。


 私が覗けるのは、王子と最終的に結びつく相手が誰かという事だけなのです。


 ここで皆さん疑問に思うでしょう、『ならば、何度繰り返しても負けヒロインのままなのでは………と』


 でも違います。私の能力には続きがあります。

 私がこの『未来視』を発動できるのはある条件を満たした場合のみです。


 その条件とは、………人を殺す事です。


 人を殺した夜、夢で王子と誰が結ばれるかを知る事ができるのです。


 この二つの能力は神が私に与えたものなのか、はたまた悪魔の贈り物なのかは分かりません。ですが、私はこの能力を使い生きていく事を決心しました。


 『私は、王・子・と・結・ば・れ・る・ヒ・ロ・イ・ン・を・全・て・殺・し・て・、・王・子・の・婚・約・相・手・と・な・る・』


 そう固く決心し、これまで何度も死に戻りしてきました。


 これで41回目の死に戻り、そして42回目の人生がスタートします。



 ―――――


 私はナナクレナ・ルスティカーナ、ルスティカーナ家の令嬢です。まだ幼いのでこれと言った特徴はありませんが、澄んだ黒い長髪に蒼く輝く瞳を持っています。それに容姿も比較的に整っていると自負している。


 先程、ヒロインを殺した事がバレて自殺し、5歳児の頃に死に戻りしました。


 私の巻き戻しは、毎回5歳の誕生日に戻るようになっていのです。


 さて、今回は失敗しないように頑張りましょう。


 今日、私の5歳の誕生日は王子との婚約が決定した日です。私の運命を大きく左右した日であり、全ての始まりの日です。


 私は今、お城のように大きな家の大きな部屋で、ベットに寝っ転がり本を読んでいます。


 時刻にして午前10時といったところでしょう。さて、そろそろ標的ターゲットがやってきます。


 ターゲットとは私が殺す人物の事を指しており、今から来る人物もその一人です。


 今から来るのはネクロマ・クロスフィールドという幼い少年です。


 1回目の人生では、私は王子と婚約していながら彼に好意を寄せており、15歳で王子に私とネクロマの関係に気付かれてしまい、婚約破棄されてしまいます。


 これでネクロマと結ばれる……と思っていたら、ネクロマは王子に私達の関係がバレた途端、別の女と関係を持ち、私を見捨てました。


 実際、1回目の人生で自殺した理由の大部分は、彼の無責任な行動にあります。


 そして、ネクロマの婚約者のシルフィ・フレドラッタが王子と結ばれる事になる。


 シルフィ・フレドラッタは、中流貴族の四女で、両親からあまり愛されていませんでした。そんな中、ネクロマと婚約できた事を心から喜んでいました。


 だが、ネクロマは私と関係を持っており、婚約破棄されてしまいます。それを可哀想と思った王子がシルフィと度々会うようになり、次第に惹かれ合うのです。


 それが1回目の人生での運命でした。


 でも、41回繰り返してきた私から言わせてもらえば、シルフィ・フレドラッタなんて敵ではないと言えます。


 というのも、この1回目のシルフィルートは私の行動次第で簡単に改変できるからです。


 それが、今からネクロマを殺す理由に繋がります。


 私は部屋で読書をしながらネクロマがやってくるのを待っていました。すると、私の専属メイドのシニアが部屋にやってきました。


 「お嬢様、ネクロマ様がやって参りました」


 「分かりましたわ。では、昨日話した計画通りにお願いしますわ」


 「本当に……大丈夫なのですか?」


 「ええ、大丈夫ですわ。くれぐれも誰かに喋ったりボロを出さないで下さいね。秘密をバラされたくなければね!」


 「わ、分かりました」


 シニアは二十代前半で私の専属メイドをしている、美しい容姿に黒い長髪の女性です。


 本来なら今から10年後に発覚する事なのだが、シニアは父上の性処理を務めていました。若く美しいシニアに、父上も見惚れてしまったのでしょう。


 私はこれまでこの事をバラすと脅して、殺しの手伝いをさせてきました。


 シニアは優秀で、死体処理に証拠隠蔽まで完璧にこなします。これまでの人生でも、一回も裏切らなかったというのも信用できる点でも彼女は信用できます。


 そして彼女は唯一、わたしの二つの能力について知っている人物でもあります。


 「ではシニア、ネクロマ様の所まで案内してください」


 私は笑顔で微笑みながらベットから立ち上がると、シニアと共にネクロマが待っている庭へと向かった。


 今日の午前中は両親がいないので、ネクロマが家に遊びに来ている事を知りません。そしてネクロマもシルフィに会いに行くと両親に嘘をついて会いに来ています。


 私はこれを利用しようと考えたのです。


 「ナナクレナ様!今日も会いに参りました!」


 家の入り口である門の前にたどり着くと、正装でネクロマが私を待っていました。馬車が止まってない事から察するに歩いてきたのでしょう、予想ドアです。


 「お久しぶりです、ネクロマ様!ぜひ家へ上がってください。美味しい紅茶なクッキーがありますので」


 私はそう言ってネクロマを家へと案内した。


 もちろん家の中にはメイドの方々が沢山いるので、屋敷(家)中へは行きません。


 家から離れた庭の日陰でもてなすつもりです。


 「ネクロマ様、今日はとてもいい天気ですので、庭でお話しを聞きたいです!」


 「ナナクレナ様がお望みであれば、私はどこでも構いません」


 あらかじめ屋敷から遠い地点で、シニアに机と椅子ふたつ、そして紅茶とクッキーが用意させている。


 あとはそこで楽しい楽しいお茶会をするだけです。


 私はシニアが用意した場所まで案内すると、ネクロマを座らせた。


 「私の為に日傘付きの机まで用意してくれ、本当に嬉しいですナナクレナ様!」


 「いえいえ、このくらい当たり前です。それよりクッキーお一つ食べてくれませんか。私が一から作った自信作です!」


 「もちろん、美味しく食べさせていただきます!」


 そう言って、ネクロマは机の上に並べられた五つの皿の中から一つ選び、そこに置かれたクッキーを口にしようとする。


 これは私からの慈悲が含まれています。

 五つの皿の内、一つの皿にのったクッキーだけ当たりで、ほかの四皿にのったクッキーは全てハズレとなっています。


 もし、1/5の確率で生き延びる事ができたのなら、ネクロマを標的から解放して差し上げます。


 これは命を賭けたゲームなのです。本人は気づいていないけれども………


 ネクロマは、クッキーを口にすると、ゆっくりと噛み、呑み込みました。


 「美味しいですか?」


 「はい、とても美味しいです!」


 「それは良かったです!」


 ネクロマはそう言って、別の皿にのったクッキーに手をつけ、一つ選び食べました。そして、呑み込んだその時………

 

 「あっ、ああ、あああーーー!くっ、苦しいぃ!」


 ネクロマは咄嗟首を押さえて苦しみ始めました。

 一体何が起こったのでしょう?……なんて乙女ぶるつもりはありません。2回目に食べたクッキーが毒入りだっただけですから。


 ネクロマは首を押さえて叫び続けました。椅子から崩れ落ち、地面に這いつくばっています。


 「あーあ、せっかく一個は毒なしだったのに、残念!」


 「た、たすけてくれぇ!ナナクレナァァーー!」


 「分かりました!」


 私は笑顔で頷くと、机の上に置いてあるティーカップを右手に持ち、角度をぬっくり傾け、ネクロマに紅茶を振りかけました。


 「な、何を……する、んだ……」


 ネクロマは、何が起きているのか未だに理解できず、首を押さえて苦しんでいます。


 「助けてあげたじゃないですかぁぁ――、早く楽になる助けをね!」


 「………ま、まさか……君が……ど、どうして……」


 「さあねぇ。地獄で神様にでも聞いたらどうですか?」


 「あ、あ、あ………」


 私の言葉を聞いて、絶望に染まった直後、動かなくなると、ネクロマは死んだ。


 私はその見飽きた光景に罪悪感なんて微塵も感じず、ネクロマの死体を確認した。


 「じゃあ、死体処理は任せたましたわ。私は帰って読書の続きをします。あ、そうそう、母様達は2時に帰ってくるからそれまでには片付けておいてください。では後ほど」


 私はシニアに後処理を任せて、その場を後にした。


 自分がやっている事が悪だと分かっている。けれどもこれが私の恋愛道です。誰にも否定はさせない。


 これからも私の虐殺は続くだろう。そして、いつになったら私は解放されるのだろうか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る