三十八話 助けたい

「有紗をどこに連れ去ったんだよ」


「知らねえよ。もっとも知ってても教えねえけどな。そもそも許嫁なんだから、婚約まで邪魔されないように大切に保管しておくのが常識だろ」


「ふざけるな、有紗をペットか何かと勘違いしてるんじゃないだろうな」 


「へへへっ、ペットか。今後はそう言う関係もあるかもね」


 太一がいやらしく笑みを浮かべた。気持ち悪い。こんな男と有紗が関係を持つ、と思うと頭がおかしくなりそうだ。


 目の前で起こった出来事は非現実だが、警察を呼んだとしても家族なら民事不介入で何もしてくれない。


 有紗の母親に連絡を取ろうと思ったが、今自宅に電話をするのはやばい。有紗を無理やり連れ去ったと言うことは、こちらの計画がバレたのだろう。


 正直、不安で仕方がない。部活になんか行かせるんじゃなかった。僕はもう一度太一の方を見る。恐らく太一も本当に知らないのだろう。


 なら、もうここに用はない。僕は何も言わずその場を後にした。


「あら、今日は有紗ちゃん来ないのね」


 家に着くと玄関先で母親が待っていた。


「ちょっと用事があるみたいなんだ」


「それはちょっと残念かな。レシピの交換しようと言ってたんだけどね」


 嬉しそうな顔をしている母親を横目に僕は二階に上がり、部屋に入る。


「有紗、ごめんな」


 僕のせいだ。全てが甘すぎた。母親が言う事を聞かなくなれば、犯罪一歩手前の方法を取ることは分かりきっていた。連れ去られてしまった今、僕には何もできないのか。せめて場所だけでも分かれば……。


 ふと、部屋の窓から外を見て、ドキッとした。近くの駐車場に白のプリウスが止まっていて、窓を開けて、こちらの様子をうかがっている。やはりか。


 僕も監視されてる可能性が極めて高い。・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 僕はスマホを手に取り、有紗のお父さんに電話をかけた。


「もしもし平くんか、今日は珍しいな。連絡せずに休むなんてさ」


 僕が頼れるのは、この人しかいない。絶対、有紗を助けたい。


「今、どちらにいらっしゃいますか?」


「まだ、会社にいるが、どうした?」


「そこに誰か知らない人とかいませんか」


「ちょっと待ってろ」


 僕の言う意味を理解したのか、周りを調べている足音が聞こえる。


「誰かこの階で降りた人とかいなかったか?」


「今日は社員以外は、見てませんよ」


「そうか、ありがとう」


 また、歩く音が聞こえ、社長室に戻ったのか扉が閉まる音が聞こえた。


「大丈夫だ。このビルはセキュリティ上、火災など非常事態以外は階段を利用できない。エレベーターの不審者は受付で全て確認できる。今日は誰も来てないそうだ」


「ありがとうございます。実は……」


 僕は昨日の母親に会った話から、有紗を匿って欲しいと言われたこと、そして太一との接触、有紗が連れ去られたことまでを話した。


「かなり際どいことをしてきたな。もう、なりふり構っていられない、と言うことか」


「有紗が何をされてるのか不安で……」


「今、何かされてることはないだろう。話の流れから見ても連れ去ったのは、有紗のお爺さんの可能性が高い」


「有紗を助けたい。こんな形ばかりの婚約、有紗が望むわけがないです」


「そうだな。痛いほど分かるよ。それと君が僕のところに来なかったのは良い判断だ。実の娘と違い相手は君を監禁できないが、監視されてることは間違いない。今、僕との関係に気づかれることは得策ではない」


「婚約を阻止できませんか?」


「うん、法的に婚約は後から破棄することは可能だが、太一と関係を持たせる事で、逃げ出せない状況を作ろうとしてるのだろう。周りから儀式と契約書、そして関係まで持たれると、そこから逃げ出すことは高校生の有紗には難しい」


 性的な関係……。絶対嫌だ。有紗が自分の意思によらずに……。そんなこと考えたくもない。


 きっと太一の言っていた調教とはこのことなんだ。


 初めてを奪われる。有紗を諦めさせるには充分だ。汚されてしまえば、きっと太一に捕えられてしまう。気づいたら、僕の手が汗まみれになっていた。頭がおかしくなりそうだ。なぜそこまでして……。


「なぜ、有紗一人にそこまで固執するんですか?」


「僕も正確に理解しているわけではないが、有紗のお爺さんの会社と太一のお爺さんの会社は合併を前提とした協力関係にある。先行きが不透明な埼都線はこの合併により、国内最大手の電鉄会社として生まれ変わり、一気に私鉄各社を押さえて一位に躍り出る」


 有紗はそのために必要な駒と言うことか。そんなことのために。絶対、有紗をやれない。


「太一は有紗に相当惚れてるみたいだな。もともと許嫁の話は太一のお爺さんから、持って来た話のようだ」


「すみません。僕にもっと力があれば……」


「高校生の君が出来ることは少ない。中間テストで太一に勝ち、茜の目を覚まさせたんだ。充分すぎるほどだ。ここからは僕の出番だよ」


「何かいい策がありますか?」


「大丈夫だ。どこで婚約が行われるのか調べるから、少し待っててくれ」


「分かるのですか?」


「あの目立ちたがり屋の爺さんの性格だ。出版社を呼んで大々的にやると思う。知人に出版社の人間がいる。聞いてみるよ」


「その人は信用できますか?」


「古くからの俺のダチだからさ。保証するよ」


 やはり、この人に話して良かった。


「ありがとうございます」


「明日は一日空けておけよ。また、連絡するから。明日は忙しくなるぞ」


 僕にとって山下社長は唯一にして絶対信頼できる人だ。


「後、茜さんなのですが、一人で戦おうとしてました。有紗を迎えに行くまで、待っててと言われてました」


 有紗が助かっても、茜さんに無理させてはならない。誰もが笑いあえる未来じゃないとダメなんだ。


「そうか。分かった。茜は僕が愛した最初で最後の女性だ。彼女を守るのも僕の役目。安心してくれていい。平くんは、有紗の彼氏として明日、僕の言うことを実行してくれるだけでいいから」


 なんとか助けられる糸口を見つけた気がした。有紗、絶対に助けるからね。



―――――



 さてさて、どうなることやら。


 更新が遅くなりすみませんでした。


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