第十九話 図書館

「おはようっ、時間通りだねぇ」


「ごめん、もうちょっと早起きしようと思ったんだけど」


「大丈夫だよっ」


 図書館の整理券をもらい僕と有紗は、最後尾に並ぶ。約束の8時ちょうどだが、整理券はあと僅かだった。こんなに多くの学生が勉強のため自習室を利用してることに驚く。


「有紗は何時から来たの?」


「わたしも今来たばっかりだよっ」


 嘘だ。有紗は前列から抜け出し、整理券をもらい直していた。きっと僕が遅れた時のため席を取ろうとしてくれてたんだ。


「本当にごめんね」


「だから、わたしも今来たばかりだってば」


 それにしても普段着の有紗を初めて見た。白とピンクのチェック柄のワンピース。真ん中にフリルのリボンがアクセントになってて、清楚な雰囲気だ。


「有紗の普段着、可愛いね」


「ありがとう。この服、図書館に合ってるかなと思ってね」


 有紗の服に見惚れていると図書館が開いたのか、入口に向かって列が動きだす。扉を入り2階へと階段を登ると自習室と書かれた部屋があった。


 教室くらいの広さの部屋に長机が整然と並んでおり、僕たちは四列目に座ることができた。


「今日は図書館での勉強だから、まずは日本史を勉強して、一時間後テストをします」


 ニッコリと嬉しそうにノートを取り出しながら、僕の耳元で伝えてきた。有紗の息が耳にかかりドキッとする。


 いかんいかん。僕はノートに意識を集中させ、記憶が曖昧なところの暗記を進める。テスト範囲が終わったタイミングで、有紗からテストを受け取った。


「えっ、これって……」


「ごめんねっ、慌てて作ったから、文字読みにくかったら、言ってね」


「これ、有紗が作ってくれたの?」


「帰ってすぐに作ったんだ。他の科目もあるからねっ」


 僕と別れたのが門限ギリギリの7時。それから五科目の作成。


「有紗、昨日ちゃんと寝た?」


「うんっ、大丈夫だよっ」


 僕はじっと有紗を見る。少しふらふらしてるような……。まずはテストに集中しないと。時計をストップウォッチに変えて、スタートボタンを押した。


 上から問題を解いていく。覚えたばかりだから、頭にかなり残っている。20分使って答えを埋め、確認に10分間使った。


「はいっ、終了」


 僕と有紗は解いた問題をお互いに交換する。有紗の答え合わせをしながら、可愛い字だなと思った。


「凄い凄いっ、ほぼ正解だよっ」


 嬉しそうに有紗が問題を返してきた。間違いは一問だけだった。


「さすが有紗は全問正解だね」


「ごめんねっ、自分が作った問題だから答えられて当たり前だよっ」


「そんなことないよ、凄いよ」


 やっぱり有紗はかなり辛そうだ。本当に昨日寝たのか?


 午前中、日本史、英語、国語の順でテストをした。


「すごいねっ。ほぼ満点だよっ」


「有紗なんて、本当に満点じゃないか」


「だからっ、わたしは問題知ってるから当たり前だってば」


 謙遜だ。有紗の問題には隙がなかった。この問題を作るのにいったいどれくらいかかったのだろうか。


「じゃあ、お昼ご飯食べよっか」


「うん、ここって食堂とかあるのかな」


「食堂はないよ。でも、お弁当なら食べられるスペースがあるんだっ」


「ごめん。休日までお弁当作らせないでと言われてさ」


「だよねっ、良かった」


 有紗は嬉しそうに鞄からお弁当をふたつ取り出す。


「もしかして作ってくれたの?」


「彼女が作るのは当然でしょっ」


「そんなことないと思うけど。それよりテストとお弁当作って、有紗いつ寝たの?」


「大丈夫、大丈夫っ」


 全然大丈夫じゃない、今日はずっとボーっとしていた。


 一階の休憩スペースに降りて、お弁当を開ける。卵焼きにタコさんウィンナー、ミートボール。僕の好物ばかりがお弁当には並んでいた。


「なぜ、僕の好きなものを知ってるの?」


「平のお母さんに教えてもらったんだ」


 その言葉を聞いて胸が一杯になった。母親は休みだから・・・・・弁当を作らなかったんじゃない。


「ご飯食べたら、しばらく寝よう。自習室で仮眠取る人もいるよね」


「大丈夫だよっ」


「全然、大丈夫じゃない。凄く嬉しいけども、今後こんな無茶しないで。僕のために有紗が壊れちゃう」


 僕はたまらず有紗を抱きしめた。


「心配させてごめん。実は眠たくてしかたなくて。平はお弁当食べてて、わたしは……」


 我慢していたのだろう。抱かれた有紗は安心した表情で僕の膝で、すやすやと寝てしまった。


 五科目のテストとお弁当作り。昨日一睡もしてないことは明らかだ。僕は有紗を起こさないよう気をつけてお弁当を食べると、そっと髪の毛を撫でた。


「すーっ、すーー」


 幸せそうな寝息をたてている。僕のため徹夜でテストの作成、母親に根回しして弁当を作ってくれた有紗が、ただただ愛おしい。


 僕は正直、有紗を誰にも渡したくない。太一を有紗に近づかせないことは出来ないものか。


 中間テストまでの辛抱だけれども、今の僕には太一と一緒にいる有紗を見るのも辛かった。


 ずっとこのまま有紗の側で、幸せな笑顔だけを見ていたい。


―――――



有紗ちゃん、徹夜ですか。


平くんの心は鷲掴みにされました。


今後ともよろしくお願いします。


フォロー、いいね待ってまーす。


星もくれていいんだよっ!

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