十八話 計画とは?
「まずは土台から崩して行こうと思ってるの?」
有紗は太一と約束をしていた。僕が30番以内を入り、有紗に一科目でも勝つことが出来たら、許嫁のことを白紙にしたい。
「もちろん、太一は出来ない話をしても仕方がないと言う。でもね……、このことでわたし達の関係を認めさせることが出来ると、思ってるんだっ」
有紗は僕の手をギュッと握った。上目遣いで見る顔が紅潮している。
「まずは、僕が30位に入らないと話にならないね」
「そう、それまで太一が恋人らしいことしようとしても全て断わるから」
恋人らしいこと。この台詞にドキッとしてしまう。今の僕たちのように手を繋いだり、キスをしたり、もしかしたら、それ以上も……。
「もう、そんな心配そうな顔しないでよっ。大丈夫、……だよ。平ならきっとできるからっ」
そうだ。できなかった時のことを考えてはならない。僕は有紗を守る。そのために絶対30位以内に入るんだ。
「うん、その意気だよ。ちょっと指が痛いけどね」
「あっ、ごめん」
僕は慌てて手の力を抜いた。手を強く握りすぎてしまった。
「手、大丈夫? 冷やしたほうがいい?」
「大袈裟だよぉ、そんなに痛くないよ。それより嬉しい」
有紗は勉強しようねっ、とベッドから立つ。自然と僕の手が引っ張られ、僕もベッドから立ち上がる。
ふたり机に並んで座り、ノートを取り出して有紗に見せた。
有紗はノートを指で追いながら確認していく。
「ここは、ここを強調して、この文を加えたほうがいいかな。でも、凄いよ。前より全然分かりやすい」
「ありがとう。少しでも負担かけたくなくて……」
「嬉しい。絶対に30位取ろうねっ」
僕と有紗はそれから一時間、暗記カードを作って問題を出しあって過ごした。
「ちょっと休憩入れよっか。ケーキがあったの忘れてたね」
「本当だ。有紗が作ってくれたんだよね」
「違うよぉ、わたしはちょっとトッピングをしただけだよっ。お母さんが作ってくれたんだからねっ」
僕は一口ケーキを口に入れると、有紗の方を見た。
「ねっ、わたしもケーキ食べたいなっ」
「えっ、有紗の方にもケーキあるよ」
「鈍感だなぁ、わたしは平のケーキが食べたいのっ」
言ってる意味が分かり、僕は頬が熱くなるのを感じる。目の前の有紗も僕から視線を逸らして恥ずかしそうに下を向いた。
「有紗、あーんっ」
「あーんっ」
有紗が顔を上げて、僕が取ったケーキを食べた。
「お兄ちゃん、冬月さん今日も来てたんだ。言ってよねっ、て……えっ」
扉の方を向くと妹の由美が扉から顔を出して止まっていた。こいつはなぜノックをしないんだ。
「えっ、ええええっ」
「由美ちゃん、これは違うくて、いや、違うわけでもないけれども……」
動揺した有紗が僕のフォークから口を離して慌てて両手を左右に振る。
「お兄ちゃんと冬月さんって付き合ってるの?」
「えと、そのさ……」
有紗が僕に視線を向けて助けを求めてくる。ここはちゃんと話さないと……。
「まだ、正式にお付き合いしてるわけじゃないんだけども、有紗は僕の彼女だから……」
「へっ? なにそれ……、ちょっと展開早すぎない?」
僕の言葉に明らかに動揺している。家に連れてくる時点で少しは気があるのかも、と思っていただろうけど。
「いや、確かに急展開だけど事実なんだ。ただし、誰にも言わないこと」
「ごめんねっ、由美ちゃん。わたし、ちょっと事情があってね。暫くの間、わたし達の関係は秘密にしておきたいの」
「まあ、わたしは構わないけども。それよかさ、こんなののどこがいいわけ?」
有紗の方をじっと見ながら腕を組んで仁王立ちする。確かにそうだ。今の僕でさえ嘘みたいな話なのだ。
僕は優しいところがある。それは困っている人を放っておけないからで、自己満足な部分でもあるのだ。
「わたしが、好きになったのはね」
妹の由美は僕のベッドに座り、3人円陣を組んだような格好で座り直した。
「平……が優しかったからなんだよ」
「はあっ、なに、それ? そりゃ可愛い冬月さんなら優しくするでしょ、男が優しいのって下心なんだよっ」
目の前の由美は、お母さんが娘に諭すような言い方で言う。
「ちがう、ちがう。そうじゃなくて、困ってる人を見捨てられないところが好きになったの。うわべの優しさは、たくさん見てきたからね」
「あーっ、そう言うこと。確かに言われてみればそうかもね」
「うわべだけで近づいてきた男の子はたくさんいたよ。でもねっ、話してると自分のことばかりで、わたしのこと見てないんだよっ」
「確かに、お兄ちゃん良かったね。こんな優しさ、なんの役に立つんだろって、ずっと思ってたから……」
それから、ふたりで女子トークに花を咲かせる。妹の由美も、いつもより嬉しそうだった。時折、僕を見る視線が良かったねって言ってるような気がした。
「あっ、そろそろ帰らないといけないよな」
気がつくと門限の時間が近づいていた。
「いけない、話しすぎちゃった」
「送ってくよ」
「じゃあ、行こっか」
トントントンと二階から降りて靴を履く。
「お兄ちゃん、送り狼になるなよ」
「ならねえよ」
「大丈夫、大丈夫っ」
いつもの会話だが、みんな嬉しそうだ。有紗も告白した後だからか、少し顔が赤く染まってるように感じられた。
「じゃあ、冬月さんっ、またね」
「叔母さま、ありがとうございます」
「うんうん。でもね、ちゃんと節度ある交際してね。特に平は男の子だから、彼女のことちゃんと考えてあげること!」
「えっ、二階での話、聞いてたのか?」
「あらっ、どうでしょうね」
はははっ、と誤魔化す母親。どこまで聞いてたんだよ。
「大丈夫ですよっ、だって平くんですよ」
「確かに、そりゃそうね」
有紗と母親はお互い顔を見てぷっと笑いだした。有紗は別として、母親はちょっと失礼だと思うんだけどな。
僕たちは、妹と母親に見送られて、家を出た。有紗の家までは5分程度で着いてしまう。
「そう言えば……、明日休みだよねっ」
有紗がくるっと僕の方を振り返った。
「そうだね、でも勉強しないと……」
中間テストまで後一月程度だ。とにかく今までの順位が順位だけに確実にしておきたい。
「だからねっ、図書館で勉強しない?」
駅の近くの図書館のことか。本を借りるために何度か行ったことがあったが確かに勉強ができる自習室があった。
「うん、じゃあ何時に待ち合わせをしようか?」
「図書館が開いたらすぐに行かないと自習室が取れないから、8時でいいかなっ?」
「分かった。じゃあ図書館前に8時だね」
そのまま無言で歩く僕と有紗。
「あっ……」
「わたし達、恋人(仮)だからねっ」
有紗が僕の指に指を絡めさせてきた。恋人繋ぎだ。そのまま、昨日と同じところまで歩く。繋いだ手は、別れる時に離さないといけないけども、心はずっと繋がっていると感じた。
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