第十二話 ふたりの関係とは?

 弁当を食べて教室に戻ると有紗も席に座っていた。


「有紗いるから、戻るね」


 田中さんはそれだけ言うと、有紗の隣の席に座った。


「もう、どこ行ってたのよ」


「えへへっ、ちょっとね」


「ちょっと、ちゃんと話しなさいよ」


「内緒だよ、それよりさ。久美もどこ行ってたの?」


「わたしはいいのよ。……今は有紗のことよ」


 ふたりの話し声が聞こえてくる。有紗は話をはぐらかすだけで、確信部分は結局分からなかった。


「起立、礼、着席」


 先生がやってきて授業が始まり、田中さんの追及もそこで終わってしまう。


 授業休みの五分間も有紗は田中さんと話していたが、仲良く話してるだけで、太一との関係が明らかになることもなかった。


 授業中、つい有紗の方に目をやってしまう。絵に描いたような清楚な美少女だ。


 黒板の板書をしながら、先生のことをじっと聞いている姿が、とてもいい。薄いピンクの唇が少し濡れてて、ドキッとしてしまう。


 この唇、太一に奪われたりしてないよな。太一と有紗のキスシーンを思い浮かべてしまい思わずのけぞった。


「おぃ、そこ……佐藤何してるんだ」


「いえ、なんでもありません」


 周りからの笑い声。僕は慌てて席に座り直した。


「お前、エロいことでも考えてたのか」


「うるせぇ」

 

 思わず図星をつかれて慎吾の方を振り向いて睨みつけた。


 姿勢を正して有紗の方に目をやると目が合う。何してんのよと言いたげな表情を浮かべながらニッコリと微笑んだ。



―――――――




「起立、礼、着席」


 ホームルームが終わると田中さんが有紗に声をかけていた。


「今日、クラブ行くでしょ」


「ごめん、しばらく休むことになって……」


 有紗が手を合わせて本当に申し訳なさそうに言う。有紗はテニス部だった。クラブ活動を休むなんて、何かあったのだろうか。


「ちょっと、有紗ぁ、どうしたのよ」


「ごめん、わたし先帰るね」


 慌てて鞄を持って教室を出て行ってしまう。後を追うように太一が席を立った。


「待ちなさいよ」


「なんだよ、何か用かよ」


 田中さんが太一を睨みつける。


「有紗に何をしたのよ」


「なんもしてねえよ。それより、俺急ぐからな」


 それだけ言い残して慌てて教室を出ていく。


「ちょっと! 太一」


 田中さんの声だけが、教室に響き渡った。


 田中さんは二人を追いかけずに僕の方に歩いてくる。


「そこの帰宅部!」


「はい?」


「今から追って有紗がどうなったか、報告すること」


 帰宅部とは僕のことだ。後ろの慎吾はサッカー部に入っていた。


「僕が?」


「わたしはテニス部、こいつは、確かサッカー部でしょう」


「久美さん。俺のこと覚えてくれたのですか」


 慎吾は嬉しそうに田中さんの名前を呼んだ。


「ぶち殺されたい?」


「いえ、滅相もありません」


「なら、今後下の名前で呼ぶな」


 思いっきり慎吾を睨みつけて、僕に視線を移した。


「さあ走って、急がないと追いつけないわよ」


「わ、分かったよ」


 僕もふたりの関係を知りたい。そう思い鞄を持って走り出す。


「明日、絶対報告すること」


「わかった!」


 僕は教室を走り抜け、下駄箱で靴を履き替え、慌てて正門に向かった。


 そこには、ふたりがいた。


 ふたりの距離は近くもなく遠くもない。横に並んで歩き出した。僕も10メートルくらい距離をとって二人を追う。


 歩きながら嬉しそうに太一は話をするが、有紗はそれに一言、二言応えるだけ。


 仲が良いとは言いにくい。ふたりはどんな関係なんだろう。


 あの告白からふたりの距離が急接近したことは一緒に帰宅していることからしても間違いない。

 

 ただ、嬉しそうに笑っている太一に比べて有紗の顔は付き合っている表情にはとても見えない。


 脅されているのだろうか、それならここで声をかけた方がいい。


 僕は決意を固めて、声をかけようと近づいた。


「えっ、あの佐藤くん?」


 先に有紗が気づき、目を丸くして僕を見た。心臓が痛いくらいだ。なけなしの勇気を振り絞って太一を睨みつけた。


「ちょっといいですか?」


「なんだ、お前……」


 目の前の太一は物凄く不機嫌そうに僕を見た。


「冬月さん、こんなこと聞いてすみません。えと、太一くんと冬月さんは付き合ってるのですか?」

 

「はぁ、モブ男の分際で、何聞いてんだよ!」


 太一は、凄く不機嫌そうに僕を睨みつけ、有紗の方を見る。有紗は凄く動揺しているようで……。


「えと、ごめん。わたし行くね」


 と、そのまま走り去ってしまった。後に残ったのは僕と太一のふたりだ。


「お前、何様のつもりだ!」


 太一は僕の肩を掴み、睨みつけた。


「ごめんなさい。僕、ふたりの関係が気になってしかたなくて……」


「お前、ふざけんなよ。有紗に声をかけられたくらいで、自分に気があると思ってるのかよ」


「いえ、そんなわけでは……」


「ムカつくんだよ。お前みたいに、能力もないくせに……、何が佐藤くんは優しいだ、そんなもん意味なんかねえんだよ! あのな、男は女を守らなきゃなんねえ。そのためには賢く、強くならなきゃいけねえ。お前は有紗に何かあった時、守れるのかよ!」


 太一はそれだけ言うと僕を思い切り押しやり、走って行ってしまった。


「なんだったんだ」


 太一の言う言葉にも一理ある。確かに何かあった時、僕は有紗を守れるほど、強くも賢くもない。それよりも……、僕は太一が言った優しいって言葉が気になった。その言葉、本当に有紗が言ったのだろうか。一般的に優しいと言う言葉は相手に褒めるところがない時に使われる。あまり深い意味はないのだろう。


 それより太一だ。太一は有紗と一緒にお弁当を食べて、一緒に帰って、恋人同士にさえ見えるのに、なぜだか僕に嫉妬してるようにさえ思えた。




―――――


 佐藤くん勇気を振り絞りました。


 頑張ったね、結局ふたりの関係ってなんなんでしょうね。


 フォロー、いいね待ってます!


 星いただけたら、嬉しくて東京湾に、、、


 沈みません!(笑)

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