第三話 えっ、まさか、自宅で

「ふふん、ねえ……」


「はっ、は、はい」


「佐藤くんの家に寄ってもいい?」


「えっ? えーっ」


 冬月さんの突然の提案に心臓が大きく跳ねた。僕が冬月さんを見ると悪戯ぽい笑顔をしていた。


「まじ、でしょうか?」


 僕は恐る恐る聞いた。思わず腰が引けてしまう。なんなんだ、これは。


「うん、まじだよ」


 冬月さんはもう一度ニッコリと微笑んだ。


 女の子が男の部屋に上がるということは……、もちろん、冬月さんに限ってそんなことあるはずはないけど。


「今日は親いるけど、いい」


「そりゃ、いるよね、あたり……ん?」


 冬月さんは、僕をじっと見つめた。冬月さんは僕の言ったことの意味に気づいたのか、少し顔が赤くなる。


「もしかしてさ、えっちぃこと考えた?」


「いや、違う違う違う……」


 慌てて否定する。流石にそんな下心あったなんて、肯定できるわけがない。


「あやしいなぁ」


 しばらく冬月さんは、後ろ手に僕をじっと見ていた。一分くらいした後、僕から目を逸らす。


「まっ、いっか。じゃあ、入ろうよ。楽しみだよー」


「何が楽しみなの?」


「全部、かな」


 冬月さんの意図するところが分からないが、僕はとりあえず玄関を開けた。


「どうぞ、入って」


「うん、ありがとう」


「平、おかえ……はぁ?」


 キッチンから出てきた母親が、玄関で固まった。無理もない。僕がこんな美少女を家に呼ぶなんて思いもしないだろう。


「あの、えとお友達?」


 声が掠れてるのは、気のせいではないだろう。


「はい、平くんと同じクラスの冬月有紗と言います。平くんとは仲良くさせてもらってます」


 嬉しそうな笑顔でペコリとお辞儀をした。


「そっ、そうなの。全く知らなかった。こんな可愛いお嬢さんと知り合いなんて、全く話さないもの」


 そりゃそうだ。今日、初めて声をかけられたんだからな。


「そうなんですか? 結構仲良いよね、ねっ、平くん」


「えと、そうなのかな? 今日話した……いててて」


 隣に立つ冬月さんの足は僕の足の上にあり、思い切り体重をかけていた。どう言うこと。


「えと、多分、少し前からかな。仲良くなったの」


 僕と冬月さんは二階に上がる。一階からごゆっくりと言う母親の声が聞こえた。後で根掘り葉掘り聞かれることは間違いないだろう。


 階段で僕の部屋から出てきた妹の由美に出会う。


「あぁ、兄貴、漫画借りて……はぁ? えと兄貴、彼女は……誰?」


「わたしですか? わたしは平くんの友達の冬月有紗って言います」


 また、頭を下げる。妹の由美は僕をじっと見た。その表情は、不思議なものでも見るようだった。


「えとさ、兄貴に何か変なことされた?」


「なんでです?」


「だってありえないもの」


「何がですか?」


「兄貴にこんな可愛い彼女ができるなんてさ」


「彼女でしょうか」


「いやいやいやいや……」


 それは冬月さんに申し訳がない。彼女だなんて話が飛躍しすぎてる。


「由美、違うよ。僕と冬月さんはただの友達なんだよ。彼女じゃない」


「えーっ、でもさ。じゃあなぜ家に呼ぶの?」


「友達だと呼んじゃダメなのかよ」


「いや、ダメとは言わないけど。でもさ、部屋に連れ込んだら、色々あるじゃん」


「平くん? 部屋に連れ込んで何かするのですか?」


「ないないないない。ありませんよ」


 気が動転してか、由美はとんでも無い事を口走っていた。世の中には今日会って関係を持つカップルもいるという話だが、冬月さんに限ってそれはない。


「ないみたいだよ」


「ちょっと、騙されたらダメよ」


 由美は冬月さんの両肩をがっしりと掴んで目線を合わせた。


「男なんて、2人きりになったら何するか分からないんだからね。何にもしないって言って、無理やりってのもあるんだから」


「そんなこと絶対しないよ、信じてくれよ」


「平くんに限って、そんな勇気ないと思いますよ」


「まあ、それはそうかもね。まあ、わたしも隣の部屋にいるし、何かあったら大声出してね……」


 妹に全く信用されてないが、部屋の前の廊下で冬月さんをずっと立たせているのも申し訳がないので、とりあえず取り繕って部屋の中に冬月さんを招待した。


「ふーーーん」


「どうしたの?」


「佐藤くんの部屋に初めて入った感想だよ」


「それはどう言う意味?」


「いや、男の子の部屋だから、お宝みたいなものがあるかと思ったけど、割と殺風景なんだね」


 お宝とはどう言うものだろうか。なにか高価なものだろうか。僕の部屋には残念ながら女の子が喜びせそうなものはない。


「ごめん、うちはそう言う冬月さんにプレゼントさせられる高価なものはないんだよ」


「うーーん? 別に高価なものじゃないよ。そんなの欲しくないし、人様のもの欲しがったら泥棒だよ」


 思わず諭されてしまう。金目のものではないらしい。じゃあ、なんだろう?


「ねっ!!」


 ニッコリと笑顔で両手を前に合わせてお願いのポーズをする。


「探していい?」


「何を?」


「だからお宝探し、だよ」


「どんなお宝かな?」


 なんとなくお宝の正体が分かってきて焦る。まさか、冬月さんの探してるものって、○ろ本? それともえ○DVD?


 まさか、男子の部屋でえ○ねたを探そうとするなんて、本当になんなんだこの娘は……。


――――


訂正してまーす。


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