第二話 一緒に下校!?
「ねぇ、佐藤くん。今日、まだ部活始まらないしさ」
下校時間になると、冬月さんが僕の前に来てとんでもないことを言った。
「一緒に……、帰ろっか」
「はぁ、……うん、……ええ!?」
僕は驚いて冬月さんの顔をじっと見た。
「どうしたの? わたしの顔に何かついてる?」
「いえ、何もついてないです」
「えーっ、わたしの顔のっぺらぼうなの?」
冬月さんは、口に手を当ててけらけらと笑いながら、そう言った。
「いえ、目と鼻と口はついてました」
「だよねえ、びっくりしたよ」
びっくりしたのは冬月さんじゃなくて、僕だ。突然何を言い出すんだ。
「僕はいいんですけども……」
「どうしたの? 何かダメなことでも……」
周りを見渡すと視線が痛い。
「えと、教室で言わない方が良かったかも」
大勢の男子生徒がモブキャラの僕と天使の冬月さんを交互に見る。僕に向けられる視線は殺意。そうはっきりとした殺意だ。
「うーん、あはははっ」
笑って誤魔化す冬月さん。冬月さんを見る男子生徒の視線は温かく、彼女を守ってやりたいと言う気持ちに溢れていた。誰から守るかは、この際言うまでもない。
「じゃあ、そう言うことで……」
僕を射抜く視線に耐えきれず、僕は歩き出す。
「なんでぇ、いっしょに帰ろうよぉ」
だから、ここで言わないで、僕きっと数日後には人間サンドバックになって、生きてないよ。
僕の心の声が届いたのか、冬月さんは周りをキョロキョロ見回す、と廊下の方に数歩歩いて……。
僕の手を握る。
届いてないじゃん、と言う言葉が頭に浮かんだ瞬間。
「ちょちょちょちょ……」
「行くよー!」
僕の手を引っ張って、走る冬月さん。引っ張られながら、僕は教室を出て、下駄箱で靴を履き替え、正門前まで……。
「はあはあはぁ、佐藤くん楽しかったね」
呼吸を整えながら、僕の方を向いてニッコリと笑う。
「いや、僕。明日からあの場所に行ける自信がないんですけれども……」
「大丈夫だよぉ、きっと明日になればみんな忘れる」
「鳥じゃない限り、忘れないと思いますよ」
「じゃあ、みんな鳥になればいいんだ」
この娘はなんてことを言い出すんだ。冬月さんは天使であると同時に悪魔だった。
きっとみんなの目には、冬月さんが僕の手を取って走り出したのではなく、僕が冬月さんを拉致したと思ってるのだから。
目立たない人生を歩んできた僕だけれども、出来ればこんな形で目立ちたくはなかった。
「ちょっとぉ、有紗ぁ。なんで勝手に帰っちゃうのよ」
後ろから追いかけてきた田中さんが冬月さんの手を取った。
「ごめーん、今日は佐藤くんと一緒に帰ろうかと思って」
田中さんがその言葉を無視して僕を思い切り睨みつける。前言撤回、男子生徒だけでなく、田中さんもその中の一人だった。
「ほら、行くよ」
「えっ、でも佐藤くんが……」
「ちょっと、その点も含めてわたしと話そ」
「えーっ、ちょっと久美ぃ」
「ほらほら、キリキリ歩く」
「佐藤くん、ごめーん。失敗したよぉ」
またね、と小さく手を振って、僕の方に頭を下げた。
そのまま冬月さんは田中さんに連れられて、遠くに消えて行く。残されたのは冬月さんを拉致したという事実だけ。
明日からのことを考えると憂鬱でしかない。
どうせ田中さんのことだから、自分が連れて帰ったことは言わないだろう。放課後に呼び出されるのか、それとも面と向かって言ってくるのか。
「明日……、休もうかなぁ」
特徴のない僕だけれども、身体だけは丈夫で、インフルエンザが流行っても、流行風邪が蔓延しても、不思議とかからない。
僕が風邪を引いたなんて、きっと母親は信じない。
だからと言って本当のことを言えば、戦ってこいと戦地に送り出されるだけだ。
冬月さんはいい娘なんだけど、ちょっと思いついたら即実行するところがある。このまま行けば、きっと来年の春まで生きられないと思う。
それにしても、なぜ僕に気をかけてくれるのだろうか。
冬月さんが声をかけるのは、小さい子犬が可愛いと同じで、きっと人間にかける好意とは違うのだろう。
僕は人生初のモテ期? を体験しながら、はあっと息を吐く。普通に女の子―特に冬月さんのような美少女に好意を持たれるのは、嬉しいのだけれどな。
「はぁっ」
何度、ため息をついたのか分からない。何か言い訳くらい考えとかないとな。
そんなことを考えながら歩いていたら、いつのまにか家に着いていた。
「遅いよぉ。待ってたんだからね」
「はい!?」
家の前に立つ冬月さん。にっこり微笑みながら、大きく手を振る。ぶんぶんと風を切る音が聞こえそうだ。
「なんで冬月さんが僕の家の前に!?」
「さて、なんででしょうね」
そこには冬月さんの悪戯っぽい笑顔があった。
――――――
二話も訂正してまーす。
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