第24話

「・・・で?なんで君がここに居るのさ?」


 


「それは此方のセリフですよ。邪魔です、帰ってください」


 


能力者達が集まる集会所が全滅だと分かった慎一郎は白音達を連れて〈イオニアン〉に帰ってきた訳だが、モノが苛立ちを隠さずに慎一郎の後ろにいる白音に鋭い視線を向けていた。


こうなるだろうなぁとは察してはいたが、仲悪すぎるだろコイツら。見ろよ。雨宮の奴がどうすればいいかこっち見てるんだぞ?少しは止める自分の身にもなってくれ。


 


「お前等・・・喧嘩なら他所でやれ!」


 


「慎一郎さんは黙っていて下さい!」


 


「シンは黙っててくれないかな!」


 


二人にそう言われ、慎一郎はしばし無言になる。


 


「し、慎一郎・・・さん?」


 


笑顔のままその場を動かない慎一郎に、都はおずおずと顔を覗かせる。


ハハッ。コイツら頭に血が登ってんな。


慎一郎はそんな魔法少女二人にお仕置きをするべく、小さく呟いた。


 


「───“シー”」


 


慎一郎のその言葉と同時に、重厚な扉が現れる。


モノは驚愕した表情を慎一郎へと向けながら、白音を無視して口を開いた。


 


「シン!?正気かい!?」


 


「反省してこいお前等。“俺の能力で作った迷宮”だ。その迷宮にいる間は死んでも生き返ることお前は知ってるだろうが」


 


「だからってあの迷宮のボスを使うことなんて───」


 


「ある程度時間がたったらもとに戻してやるっての。だから逝って来い」


 


「ちょっ!?まっ!?」


 


「なっ、なんですか!?これ!?」


 


モノと白音の腕を扉の先から伸びたフジツボで覆われた篭手が掴む。


“慎一郎の能力”によって産まれた怪物が“自身のフィールド”へと二人を引き摺り込んだ。


 


「は、白音!?」


 


「大丈夫だっての」


 


謎の腕に引き摺り込まれた白音達はそのまま扉の向こう側へと姿を消し、それを都は追いかけようとするが、それを慎一郎が止める。


 


「二人には俺が作った“RPG”を楽しんでもらうだけだ。難易度は・・・何回かは死ぬだろうが、生き返るし気にするな。それがゲームの醍醐味だろ」


 


「でもっ!!だからって放ってなんておけません!!」


 


「あっ!?ちょっ、おい!?」


 


そう言って閉まりかけていた扉へと飛び込んでいった都に、慎一郎は慌てた様子で彼女を止めようとするが、その前に扉が閉じた。


 


「・・・・カオスルーラー相手じゃなくてよかった」


 


慎一郎は一時間後に戻ってくる彼女達が絶望して心が折れるようなボスモンスターを喚ばなくて良かったと一人になった喫茶店で安堵するのだった。


 


 


◇◇◇◇◇


 


 


「───ここは?」


 


白音は咄嗟に閉じた目を開けると、そこは石で出来た巨大な部屋だった。


ギリシャ神殿に近いような柱や石畳は暗く、冷たい部屋を更に冷え込ませるような雰囲気だった。


その横ではモノが膝から崩れ落ちていた。


 


「ちょっと、何をやっている───」


 


「白音ちゃん!!」


 


「!」


 


白音は後ろから投げられた声に振り返ると、そこには都がいた。


 


「みゃーこ・・・なんでここに?」


 


慎一郎の後ろにいた都が此処にいる事に、白音は驚きと困惑を隠せない。


 


「白音ちゃんが心配だから来たんだよ!バカ!」


 


目に涙を浮かべる都に、白音は申し訳なさそうに目を伏せる。


 


「ごめんね、みゃーこ。こんなことに巻き込んじゃって。それに慎一郎さんにも───」


 


「ううん。私は気にしてないよ。帰ったら慎一郎さんに一緒に謝ろう?・・・ね?」


 


「・・・うん。でも、ここは何処なんだろう?何かの遺跡みたいな感じだけど・・・」


 


「慎一郎さん曰く、能力で作ったゲームだって・・・」


 


「これが・・・慎一郎さんの能力?」


 


「うん・・・規格外だね」


 


本当に凄まじい力だ。干渉能力が高い能力者でもこんな規格外なモノ出来やしないだろう。


と、白音と都の疑問に、横で膝をついていたモノがゆっくりと立ち上がると、ボソッと呟いた。


だがその声は何時もの覇気は無い。


 


「此処はシンが作った迷宮だよ。“リメインズ・オブ・ラビリンス───“333階層にそれぞれ固有のボスモンスターがいて、ここはその十ニ階層だ」


 


「迷宮って慎一郎さんの能力にそんなことが・・・」


 


「出来るんだよシンなら。RPGゲームを現実化させる。シンの能力なら不可能じゃない。それにこれはゲームだよ?ここはシンが作ったゲーム世界。RPGゲームにはモンスターっが必要不可欠でしょ?」


 


その言葉と同時───“大量の海水が部屋を呑み込んだ”。


 


「・・・!!Dauerfrost Ritter!!」


 


白音はその津波に自身の総てを凍てつかせる力を発揮させる。だが───


 


 


「威力が高すぎる!?」


 


部屋を一瞬で呑み込むほどの津波だ。その水の圧力は計り知れない。


だが、そんな彼女に対しモノは───


 


「Mar abierto saqueador」


 


巨大な海賊船が出現し、白音と都を船の看板で掬いあげる。


 


「───何やってんの?それでも第三位なの?」


 


モノは白音達を一瞥した後、船の前方にいる“ソレ”に視線を向けた。


白音と都も“ソレ”を見て、目を見開いた。


 


「───」


 


『ヒヒヒィィィッッッッン!!』


 


尾ビレが生えた馬が咆哮を上げる。


ヒッポカムポス。


ギリシャ神話に登場する半馬半魚の海馬。


神話に出てくるその海馬に人が乗っていた。


フジツボと汚れが彼方此方ついた西洋のフルプレートアーマーに、フルフェイスヘルム。手綱が握られた反対側の手には幅広のロングソードが握られている。


三人の魔法少女が見上げる先───その騎士のHPバーが表示された。


そしてその上にはその騎士の名が中空に刻まれた。


 


【see the hippocamp White Rider】


シー・ザ・ヒッポキャンプ・ホワイトライダー。


 


それが迷宮十二階層のボスモンスターの名だった。








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